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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
55/321

55.美容師~幼女のことを頼まれる

 

 それぞれの椅子に座って、料理をお皿に取り分けていく。

 手の平だいの魚を甘辛く煮たものが3匹、水気を帯びたカラフルな野菜のサラダが大皿で1つ。それにいつもの灰色パンがカゴに山盛り。

 

 あとは、何かの動物を丸ごと焼いたお肉。

 この肉は……


「そういえば、ソーヤがくれたんだってね。この一角兎。丸ごと1匹だったからそのまま丸焼きにしてみたよ」


「お兄ちゃんが倒したの?」


「そうだよ。メェちゃんに渡してって、テッドに頼んだんだ」


「そうなんだ! メェね、おいしいから兎のお肉大好き!」


「それはよかったよ。また討伐したら、持ってくるね」


「うん、約束!」


 時間を見つけて、また一角兎を捕りにいかなくては。


「さて、食べようじゃないか。足りなければ材料はまだあるから、遠慮しないで食べておくれよ」


「お兄ちゃん、食べて食べて。お魚の骨、メェが取ってあげようか?」


「大丈夫だよ。自分でできるから」


「じゃあ、あたしが取ってあげようかね」

 

 断る間もなく、リンダさんが僕の魚が入ったお皿をさっと奪っていった。


「お母さん! メェが取ってあげたかったのにっ!!」

 

 プリプリとメェちゃんが怒りをあらわにするが、


「メイ、あんた自分の魚の骨もキレイに取れないじゃないか。ソーヤの喉に骨が刺さって、痛い思いをさせてもいいのかい?」


「それはダメ。メェ、うまくできるように練習するね」

 

 簡単に言いくるめられてしまった。


「はいよ。これで骨はないはずだけど、一応気をつけて食べておくれね」


「ありがとうございます」

 

 子供の頃に戻ったようで、少し気恥ずかしい。

 

 子供用の箸を手に、メェちゃんは自分の魚の骨を取り除こうと悪戦苦闘。

 かわりにやってあげようと手を伸ばしかけたが、リンダさんに目で静止されてしまったので、見守ることにする。

 

 我慢我慢。

 自分でも練習すると言っていたじゃないか。

 

 3分程かけてメェちゃんの修行が終わったようなので、「いただきます」と手を合わせてサラダから口に運んだ。

 

レタスとキャベツの中間のようなシャキシャキとした野菜に、酸味のあるドレッシングがかかっていて美味しい。

 

 次に魚の煮物。

 骨を取り除いてもらったので、チラッと確認してから煮汁を絡めて一口。

 甘辛くて白いご飯が欲しくなるがパンしかないので、パンをちぎって口に。

 

 うーん、合わなくはないけれど、やっぱり日本人は米だよなー。

 この世界には米はないのかなー?

 

 この数日では目にしたことはないけれど、どこかに似たものでもないだろうか。

 

 何度も、「美味しい?」とメェちゃんが聞いてくるので、そのたびに、「美味しいよ」と答えながら料理を全て平らげた。

 

 メェちゃんはいつもより早起きだったせいで、ご飯を食べたら眠くなってきたのか、今はベッドで夢の中。


「メェが起きるまで帰らないでね!」

 

 眠そうに瞼をこすりながらお願いされたので、リンダさんの洗う食器を横に立って受け取り、布で拭いてお手伝いをすることに。

 

 リンダさんは食事の最中も、ぼんやりとした様子で時折遠くを見つめるような感じ。

 

 何か悩み事かな?

 気にはなるが、あまり突っ込んで尋ねてもいいのかわからないので困ってしまう。

 

 片づけが終わると、熱いお茶を入れてもらって、大人二人はのんびりタイム。

 

 メェちゃんはぐっすり眠っているようなので、まだ起きそうにない。

 もうすぐお昼になるけれど、本当に夕方までここにいることになりそうだ。

 

 壊れた防具の修理に行きたいのだが、メェちゃんの目が覚めた時に僕がいないと必ず泣くよ、とリンダさんに脅されて帰れずにいるのだ。

 

 無言でお茶をすする音が部屋の中を支配する。

 お互いに世間話でもと思い、リンダさんが28歳でメェちゃんは4歳でもうすぐ5歳になることを知った。

 

 お返しに歳を尋ねられ、僕が26歳だと答えるとかなり驚かれて、20歳くらいだと思っていたと苦笑交じりに告げられた。


「あたしと2歳しか変わらないじゃないか。それにしても、ソーヤは童顔なんだねぇ」

 と呆れられたが、どう返していいものかわからず、「そうなんですかね」なんてよくわからないことを呟いた。


 

 やがてメェちゃんが目を覚まし、寝ぼけ眼で僕の姿を探し、よろけながら抱きついてきたので膝の上に座らせてあげた。

 まだ完全に目覚めたわけではないみたいで、コックリコックリと船をこいでいる。


「そうしていると、本当に親子みたいだねぇ」

 

 リンダさんが目を細めて笑う。


「ソーヤがメイのお父さんだったらよかったのにねぇ」


「……」

 

 もちろん、僕は口を堅く結んでいた。

 口にするべき正解を思いつけないからだ。


「ソーヤが冒険者で、毎日忙しいのはわかっているつもりだけど……たまにはこの子に会ってもらえないかい?」


「それはもちろん。僕もメェちゃんはかわいいですし……迷惑じゃなければ」


「迷惑なことなんてないよ。なら、頼むね。この子のこと」


「……わかりました」

 

 『頼むね』、と言われ、『何をですか?』なんて聞ける空気ではなく、わかりましたって答えるしかないじゃないか。

 

 責めるなら責めればいい。

  

 誰にというわけではないが、心の中で言い訳をし、メェちゃんが覚醒して遊ぼうと騒ぎ出したので、二人でお絵かきをしたりおままごとをしたりして夕方まで過ごした。

 

 夕飯も食べていかないかと誘われたが、壊れた防具の修理をしたいと告げると、リンダさんがまた来てくれるからとメェちゃんを説得してくれたので、二人に手を振られて見送られている。

 

 泣くのを我慢しているメェちゃんを見るのが辛くって、3回振り向いたあとは足を速めて角を曲がった。

 

 冒険者ギルドでマリーが待っているような気がしたが、先にグラリスさんのもとへ向かうことにする。




いつも読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字、ご指摘頂けると助かります。


感想や評価もお待ちしております。


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