54.美容師~調色してみる
いつも読んでいただきありがとうございます。
感想や評価もいただき、ブックマークが100を越えましたので、記念に投稿します。
PVももうすぐ4万を越えそうで、嬉しく思っています。
書き貯めていた分もなくなりつつあるので、頑張って書かなくては……
「ねぇ、お兄ちゃん。これを混ぜるとどうなるの? やっぱり汚くなっちゃうの?」
グイグイとメェちゃんが僕の袖を引っ張るので、
「ごめんごめん。いいかい、よく見ていてね」
白いインクを少しずつ赤いインクの中に垂らしていった。
「あー、どんどん汚れちゃうよー」
インクの練りが硬くて、うまく混ざらないな。
メェちゃんの言うように、マーブル模様というか汚れたような色だ。
もっと柔らかく薄めたいけれど、油のようなものはないかな……そうだっ!
シザーケースからシザーの手入れに使う、試験管形状のガラス瓶に入ったオイルを取り出して数滴垂らす。
斑模様のインクを指さして、
「これ、もう使えないねー」
悲しそうにメェちゃんが呟くので、スプーンでクルクルとかき混ぜていき、インクが軟らかくなってきたので、白のインクを一気に流し込んだ。
木皿の中の上層部が白のインクで覆い尽くされる。
「あーあ真っ白くなっちゃったね」
しょうがないなー、なんて目で見上げてくるのでオイルを継ぎ足し、僕は微笑みを浮かべながらスプーンを白の中に突き刺してグルグルグルグルかき混ぜる。
すると……ポーン、
【スキル 調色を獲得しました】
調色?
色を混ぜて作ったからか?
「あっ」
メェちゃんが驚きを含ませたかわいい声をあげた。
「お兄ちゃん! 色が変わってきた! きれいな色になってきたよ!」
興奮して、その場でジャンプをする。
「お母さん、お母さん! ちょっと来て!」
魚を捌いていたリンダさんの腕を取り、連れてくる。
「ほらっ、みてみて!」
木皿の中を覗き込んだリンダさんが、驚愕の眼差しを僕に向けた。
「ソーヤ、あんた何をしたんだい?」
「何って、赤と白のインクを混ぜただけですよ?」
「混ぜるっていったって、普通にやっても混ざらないだろ? 途中で何か入れていたけれど……あんた知っててこれをやったのかい?」
「もちろん、こうなることはわかっていましたけど、リンダさんは知らなかった?」
「……あたしはやったことがないし、綺麗に混ざらなくてインクをダメにするって言われているもんだから、インクを混ぜている人も見たことがないね」
どうやら、僕の行動は珍しかったようだ。
オイルのかわりに油を混ぜてもいいと思うのだけど、あまり研究をする人がいないのかもしれない。
「お兄ちゃん! メェ、この色がいい! この色でメェの名前を書いてもいい?」
「いいよ。メェちゃんの為に作った色だからね。はい、どうぞ」
木皿を渡すと、鼻息を荒くしたメェちゃんが自分の椅子に向かって名前を書き始める。
「ソーヤ、あんたただの冒険者なんだよね? もしかして本当は違う仕事をしていたんじゃないかい? 服飾関係とか?」
「服飾の仕事はしていないですよ。ただ、冒険者になる前は、違う仕事をしていました」
「その仕事について詳しく聞いてもいいかい?」
「それは……」
言いよどむ僕にリンダさんが苦笑いを浮かべる。
「言いづらいことだったら別にいいんだよ。冒険者の過去を簡単に聞いて悪かったね。
何か事情があるんだろ? まだ知り合ったばかりだしね。そのうち教えてくれるまで待つことにするよ」
自分の名前を椅子に書き終わり、駆け寄ってきたメェちゃんに場所を譲って料理に戻って行った。
何か変な気を遣わせてしまったかな。
別に話してもいいのだけど……リンダさんにも平手打ちを食らうような気がして考えてしまっただけなのだ。
「お兄ちゃん! メェ、上手に書けたよ! みてみて!」
「本当だね。上手に書けてる。メェちゃんみたいに、かわいい字だね」
「えへへぇ」
褒められてまんざらでもなさそうに、体全体で喜びをあらわしている。
「次はお母さんの色を決めないと! この色がかわいいから、同じにしようかな? それとも、違う色にする?」
「そうだねー、じゃあ、お母さんにも違う色を作ってあげようか」
「作れるの? メェ、もっと見たい!」
はやくはやく、とせがむメェちゃんを引きつれて、木皿の中に残ったインクを洗い流す。
ボロキレで水分を拭い取って、今度は赤いインクに青いインクを混ぜていく。
またオイルを数滴垂らし、やりたそうにしていたのでメェちゃんに混ぜてもらった。
「これがお母さんの色?」
「そうだよ。これでお母さんの名前を書いてあげてくれるかな?」
「うん、わかったよ。メェ、書いてくる」
木皿を手に、リンダさんの椅子の背中に真剣な顔で向かい合っている。
というわけで、僕は黒。
メェちゃんは桃、リンダさんは紫で名前を書かれた椅子が3つ完成だ。
リンダさんも次々と完成した料理がのったお皿をテーブルに並べていくので、時間的にもちょうどよかったみたい。
「できた!」と叫ぶ声と、「できたよ」という声が重なって聞こえた。
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