表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
53/321

53.美容師~この世界の色について考えてみる


 羽ペンと数種類の色のついたインクの瓶を両腕で抱えて戻ってきたメェちゃんが、インクの入った瓶を落としそうになり、慌てて拾い上げた。

 

 腕の中から他のインクも受け取り、テーブルの上に並べて置く。


「お兄ちゃん、どの色がいい?」


「うーん、メェちゃんに選んでもらおうかな」


「わかった。なら、メェが選んであげるね」


 真剣な表情でインクの入った瓶を持ち、僕の顔と交互に見比べる。

 

 赤、青、黄、黒、白の5種類から選んでくれたのは黒だった。

 

 小さな女の子のことだから、赤色を選ぶと思っていたので意外だった。


「どうしてその色を選んだの?」

 

 思わず聞いてしまうと、


「イヤだった? ならこっちにするね」

 

 泣きそうな顔をされてしまう。


「違うよ! 嫌じゃないよ。ただ、どうしてその色を選んだのかな、と思って」

 

 焦ってフォローをするはめになる。


「えーとね……お兄ちゃんの髪の毛の色と同じでいいかな、と思ったの。メェ、お兄ちゃんの髪の毛の色、キレイで好きだから」


「そっか……ありがとう。嬉しいよ。なら、その色で僕の名前を書いてくれるかな?」

 

 無意識に手が伸びて頭を撫でてしまいそうになるが、メェちゃんの視線が僕の手を追いかけてきたので、ぎりぎりの所で気が付いて軌道修正し肩をポンポンと叩いた。


「むぅ」

 

 何故かメェちゃんは不満そうに頬を膨らませ、


「なでなでしてくれてもいいのに」

 

 小さく呟きながらインクの蓋を外し、羽ペンの先にインクをつけて椅子の背中に大きく僕の名前を書いてくれた。


「どう? メェ、うまくかけたかな?」

 

 不安そうに見上げてくるので、


「上手に書けたね。僕よりうまいくらいだよ」

 

 褒めてあげたら、機嫌は直ったようだ。

 

 嬉しそうに、「えへへ」と花が開くような笑顔を浮かべてくれた。


「メイ! ついでだから、あんたの名前とお母さんの名前も書いておくれ」


「わかった! お母さんは何色がいい?」


「あんたに任せるよ! もしくはソーヤと相談して決めておくれ」


「うん! そうする」

 

 やる気を漲らせ、何個もの瓶を持ってリンダさんの椅子に移動するので、ひょいと瓶を手の中から抜き取った。


「ありがと、お兄ちゃん。お母さんの色はどれにする?」


「うーん、メェちゃんはどれがいいと思う?」


「そうだねー。お母さんは赤が好きかなー。いつもメェの髪の毛に赤色が混じっててキレイだね、って言ってくれるし」

 

 そう告げたとたんに、メェちゃんの表情が曇る。

 きっと、あの男の言葉を思い出したのだろう。

 

 赤みを帯びた髪の毛だから売り払おうと攫いに来た、そう叫んでいたから。

 

 自分の髪の毛を指先で摘み、指先でこすり始めた。

 うわっ、キューティクルが剥がれてしまう!

 

 キューティクルは髪の毛のまわりをうろこ状に包んでいて、これが剥がれるとパサついたり枝毛の原因にもなるのだ。

 

 キューティクルが傷んでしまうと、簡単に修復することはできないので、地味に大事なことだったりする。

 とっさにその手を掴んでやめさせると、驚いたようにメェちゃんが目を見開いた。


「メェちゃんの髪の毛の色、僕も好きだよ。茶色に赤みがあって、すごく綺麗だね」


「ほんと?」


「うん、それにツヤツヤしていて、手触りもいいし」


「そうかなー」


 今度は優しく指ですいたり、掌で撫でたりする。

 

 子供の髪の毛はパーマやカラーリングをしていなかったりでダメージが少なく、キューティクルがしっかりしていて艶があるし、サラサラしていてずっと触っていられる。

 

 触りたそうにしている僕に気付いたのか、


「触る?」


 無邪気に聞いてくるので、破壊力が半端ない。


「……我慢する」

 

 歯を食いしばるように告げる僕に、


「我慢しなくてもいいのに」

 

 不思議そうに小首を傾げた。

 

 僕が黒だったので、残った色は赤、青、黄、白か。

 メェちゃんには赤をすすめようとしたのだが、さっきの様子を考えるとやめたほうがよさそうだ。

 

 とすると、リンダさんが赤でメェちゃんが青か黄かな。

 うーん、ちょっとイメージじゃないというか……。


「メェちゃん、このインクを混ぜてみようか?」


「混ぜるの? 汚くなっちゃうよ?」


「大丈夫だよ。僕はね、きれいな色を作るのが得意なんだ。ちょっと待っててね」


 野菜を包丁できざんでいるリンダさんに、汚れてもよい木のお皿を一枚とスプーンを1本もらってテーブルに置く。


「何に使うんだい?」と聞かれたが、「内緒です」と答えたので、料理の手をとめることなく、リンダさんが興味深そうにこちらを見ていた。


「いいかい。このお皿に赤色のインクを入れて」


「メェが赤色? お母さんが赤色?」

  

 よくわかっていないメェちゃんは、インクで文字を書くのに、わざわざお皿に移したと思っているようだ。


「どっちもハズレだよ。この赤いインクに白のインクを混ぜるとどうなると思う?」


「うーん……混ざって汚くなっちゃう!」


 しばらく考えて、元気よく先程と同じように答えた。


 まだ、色を混ぜて作ったことがないのかな?

 疑問に思いリンダさんを見るが、彼女も不思議そうな表情を浮かべている。


 よく考えると、この世界の人は髪型も似たり寄ったりだが、服装もあまりお洒落な人がいないような気がする。


 マリーの服装は白と黒のメイド服のようなものだし、リンダさんは白いシャツに茶色のロングスカートと茶色のサンダル。。

 メェちゃんも薄い紺色のワンピースに茶色のサンダル。


 男連中はといえば、茶色や黒の服装が多い。

 全体的に色が少ないんだ。


 改めて思いだしてみても、ピンク色を見た覚えがない。

 マリーがピンクのヘアクリップを見て思いのほか感激していたのも、それが理由かもしれない。


 この世界の色について、調べてみるのも面白いかもしれないな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ