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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
48/321

48.美容師~マリーに秘密を打ち明けようとするが平手打ちをくらう

 

 目を覚ますとマリーがいたのだが、何故か焦った様子で急に立ち上がるのでバランスを崩して倒れ込んできた。


「ご、ごめんなさい」


「大丈夫かな? 寝起きだから思うように体が動かなくて、うまく支えてあげられなくてごめんね」


 腕を伸ばしてつっかえ棒のように支えようとしたが、間に合わなくて抱き留めてしまったんだ。

 

 マリーの髪の毛が顔にかかってくすぐったい。

 

 シャンプーやコンディショナーなんてこの世界にはないから、髪の毛の香なんてしないと思っていたが、微かに果物系の甘い匂いがする。


 髪の毛が顔に触れているけれど、こちらの意志で触っているのではないからセーフ扱いなのだろうか? 

 

 今一禁忌のルールがわからない。

 教会に行けば、そこのところ詳しい書類でもあるのだろうか?


「あの……ソーヤさん。もう大丈夫なので手を放してもらえると」


「ああ、ごめん」


 考え事をしていたので、マリーを抱きしめたままだった。

 指摘されてしまったので、名残惜(なごりお)しいが解放しよう。


「お腹空いてないですか? 軽食と飲み物を持ってきたんです」


 乱れた髪の毛を手櫛で直して、若干顔を赤くしながらマリーがパンとコップを差し出してきた。


「ありがとう。お腹が空いているし、喉も乾いていたんだ」


 両手で受け取り、マリーに見守られながらお腹におさめていく。

 柑橘系の果汁を搾った飲み物は、酸味と甘味がほどよくておかわりできないのが残念だった。

 でも牢屋の中で取れる食事と考えると十分だと自分を慰める。


「マリーがいるってことはもう朝なの? それに牢屋の中に入ってきていいの?」


「もうすぐ日が昇る頃だと思います。普通は牢屋には入りませんが、ソーヤさんは別に誰かに危害を加えたわけではありませんし、逃げないだろうということで許可されたんです」


 確かに、逃げるつもりはない。

 逃げたって僕には行くところもないし。

 

 謝罪や賠償責任があるのなら、きっちりと責任を果たそうと思っているくらいだ。


「そもそも、こんなことになっているのは、ソーヤさんが悪いんですけどね。いい機会ですし、きっちりお話しましょうか」


 逃げ出したいのに場所が悪い。

 

 牢屋の鍵は開いているみたいだけど、マリーから逃げるということは牢屋からの脱走と同じことになってしまう。


「ソーヤさん、どうしたんですか? 顔色が悪いですよ」


 マリーの笑顔が怖い。

 

 怖い笑顔と怖くない笑顔は、どう使い分けているのだろう?

 もしかしてそんなスキルがあるのだろうか?


 ズリズリと後ろに下がった分だけ、マリーが詰め寄って来る。 

 こうなったら全てを正直に話すしかないか。

  

 異世界からこちらの世界にやってきて、僕は人の髪の毛を切ったり結ったり編んだりして賃金を貰う仕事をしていたと。

 

 そのせいで他人の髪の毛に触れるのが癖のようになっていると。

 つい、気がつくと触れてしまうけれど、悪意や(やま)しい気持ちはないのだと。

 

 そうだ! 

 僕に疚しい気持ちなんてない!

 

 髪の毛フェチなところはあるけれど、つい触ってしまうだけなんだ。

 悪気はないんだ。

 正直に打ち明けてみよう。


 なんだそうだったんですね。それなら仕方ないですね。

 なんてマリーは許してくれるかもしれない。


 僕は覚悟を決めて打ち明けることにした。


「マリー、信じられないかもしれないけれど、僕の話を聞いてくれるかな?」


「どうしたんんですか? 急に真剣な顔をして。でもソーヤさんの話なら聞きますので遠慮しないで言ってください」


 マリーも真面目な表情をして、僕の正面で座り直す。


「実は僕の職業についてなんだけど――」


 ――ちょっと待て!


 話そうとして気がついた。

 

 この世界では『髪の毛に触れる=胸に触れる』、ということに。

 そういうレベルの恥ずかしさということに。


「マリー……一応、聞くだけ聞いてみるんだけどさ……この世界の職業で、他人の胸に触れてお金を貰う職業ってあるかな」


「……」


 空気が一瞬で凍りついたように感じ、左頬に痛みが走る。

 ……マリーが足を踏み鳴らしながら去って行った。


 僕の質問に対する答は、冷たい視線と平手打ち。

 まぁ、当たり前だよな。


 熱を持って痺れる頬をさすりながら、悪いことをしたなと反省した。

 あとできちんと謝っておこう。


 

 やることもないのでシザーケースの手入れをすることにした。

 戦闘中に腰にぶら下げているので、かなり汚れたり傷んだりしているのを覚悟していたが綺麗なままだった。

 

 日本で使用していた時の、傷やカラー剤が付いてしまった(あと)までなくなっていて新品に戻ったようだ。

 

 これもシアンの才能能力の恩恵なのだろうか?

 

 布で拭く準備をしていたが、代わりに後回しにしていたシザーの手入れを始める。

 かなり雑に扱ってしっまったし、マッドウルフの爪も切断している。

 刃こぼれしていないか心配だっったのだが……結果、刃こぼれどころか血の一滴もついていない。


 シザーケースに収める時にはそれなりに汚れが残っていた気がするんだけど……自動修復機能でもあるのか? 

  

 これもシアンの力か? 

 もしくは、シザー7の力なのか。

 

 わからない……わからないことは考えても仕方がないのでとりあえず保留して、オイルを刃に垂らして終了とする。



 

読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字、ご指摘頂けると助かります。


感想、評価等頂けると、更新の励みになるので、嬉しいです。

※最新話の下部から行えます。


今後とも宜しくお願いいたします。



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