46.美容師~女神様に気持ち悪がられる
「ということで一見落着ね。
ノートもコンパクトになったから、これからは新しいスキルを獲得したらすぐにわかるわけだし、便利になったわよね。
といっても、さすがに戦闘中にノートを開いて確認する余裕はないだろうから、スキルが増えたのをソーヤ君がわかるのは、戦闘終了後ということになるけどね」
確かに戦闘中にノートを開くのはちょっと厳しいな。
よっぽど余裕でもあればできるかもしれないが、わざわざ開かなくても僕にはあの声が教えてくれるから、戦闘が終わってゆっくり確認すればいいわけだし。
リリエンデール様はどうしてそんな意味不明なことを言うのだろ……待てよ、もしかして普通は声が聞こえないのか?
そういえば、マリーも声については不思議そうにしていたような……。
「あの、リリエンデール様。スキルを獲得すると、頭の中に声が響いたりとかは?」
「なぁに、その便利機能は? もしかしてそういう設定にしてくれってこと?
んー、どうだろう。やってできないことはないかもしれないけれど、すぐには無理ね。結構難しいかもしれないし」
眉間にシワを寄せ、考え込むポーズに移ろうとするので、
「とても言いにくいのですが、僕の場合、すでにそういうことになっているみたいです」
「……声、聞こえるの?」
「はい」
「聞き間違いとか、気のせいとかは?」
「毎回聞こえているので、たぶん間違いや気のせいではないかと」
「地球にいた時から、そういうことができたとか?」
「いえ、地球で生活していた時はできませんでした。というか、スキルやステータスというものもなかったので」
「そう。ということは……シアンが何か知っているかもね。どうなのシアン?」
微笑むリリエンデール様の目つきが怖いのだろうか?
シザーケースが点滅しながら、僕の手元にズリズリ移動してきた。
そして手の中に納まると、小さく数回光を発した。
「……そう。そのコには元々少なからず力があったということね。ソーヤ君が長く触れていたのも理由の一つかもしれないけれど、わたしにも理由はわからないわ」
シアンとリリエンデール様は何か会話をしているようだ。
女神様にもなると、点滅の光で言葉が通じるのか、思念というものを読み取っているのか、そのうち僕にもできるようになるのだろうか?
そんなスキルがあれば是非獲得したいものだが。
「ソーヤ君、髪の毛の長いお人形さんは持ち歩いていないの?」
「戦闘の邪魔になるので、宿に置いていますけど」
「そう、なら呼び寄せるわね」
指先を宙に向けて、リリエンデール様がクルクル回すと、テーブルの上に首だけの人形があらわれた。
ウィッグ……見慣れている僕はすぐにわかるけれど、知らない人が見たら生首が出現したように感じてパニックになってもおかしくない。
今の会話の流れだと、こいつはアンジェリーナだよな?
「ソーヤ君にスキルの獲得を頭の中で教えてくれていたのは、このコみたいね。どうもこのコはこの世界に来た時から、ある程度の力を持っていたみたいなの。
あちらの世界では何か変わったことはなかったかしら? 本当に声が聞こえたりはしなかった?」
「……ないと想います。少なくとも、この世界に来てからのようにはっきりとした言葉を聞いた覚えはありません」
「ということは、この世界に来て、わたしの加護が与えられたのをきっかけに、力を顕現させたのかしら?
ソーヤ君とのリンクもシアンを通してしているわね。この目で見るまで、わたしにもわからなかったわ。やるわね、わたしの目をごまかすなんて。
シアンが言うには、経験値の横流しも、このコが言い出したことらしいわよ。自分ではできないからシアンに経験値を取得させてこちらにも分けるようにって。
しかも自分が優先的になるようにって指示までしているわね。分配量も、このコに決定権があったようよ。一応、シアンと相談という形はとっていたみたいだけど」
なんということだ。
アンジェリーナはとてもできる女だったということか。
さすがは僕のアンジェリーナだ。
髪の毛が綺麗なだけではないな。
「何を満足気な顔しているのかはわからないけれど、これで謎は解けたわね。
でも、離れて行動していてもスキルの獲得を感知して、しかもソーヤ君の頭の中に思念を飛ばして伝えられるなんて……このコ、よく考えると凄いわね。恐ろしいまでの執念だわ。きっと捨てていたら祟られていたかもしれないわね」
意地悪そうな笑みでリリエンデール様が言うが、僕にはわかる。
執念なんかではない。
きっと僕への愛の賜物なのだ!
捨てるなんて滅相もない。
生涯一緒と誓おう、アンジェリーナよ。
「ソーヤ君、変なことを言ったわたしも悪いけど、なんか変なことを考えていない? 気持ち悪い顔をしているわよ」
「……酷くないですか? リリエンデール様」
「だって、気持ちが悪いものは気持ちが悪いんですもの。まぁ、いいわ。大事にしなさいな。このコもきっとソーヤ君を守ってくれるのでしょうしね」
「ええ、大事にしますよ。一生大事にします。生涯共にあると誓いましょう!」
「……どうしてこんな気持ちになるのかしら? 言っている言葉はすごく立派なのに……作り物とはいえ、女の子の生首が相手だからかしら」
拳を握り誓う僕に、リリエンデール様が小さく言葉を漏らした。
不思議だわ、と。
「じゃあ、そろそろ下に戻ります」
「そうね。なら送るわ……ちょっと待って。そのコが何か伝えたいみたい……うん、そう、そうなのね、わかったわ」
リリエンデール様がシアンを通してアンジェリーナと話しているのだろう。
シアンが点滅しているのを見て、アンジェリーナに向き直り頷いている。
「ソーヤ君、そのコが戦闘についていきたいって言ってるんだけど、いいかしら? 自分だけ置いていかれるのは嫌だそうよ」
「それは別にかまわないんですが、布袋に入れて持ち歩くのはちょっとどうかと。汚れたりしたら嫌ですし」
決して邪魔なわけではない。
急に魔物に襲われることだってあるだろうし、地面に置いておいて戦闘に巻き込まれでもしたら、最悪破損することだってあるだろうし。
「それならわたしが解決するわ」
人差し指を立て、リリエンデール様がアンジェリーナにクルクルすると、ノートと同じように小さくしてしまった。
キーホルダーくらいの大きさになり、持ち運びには問題がなくなったが、これでは僕が困る。
髪の毛を編んだり結ったりできないじゃないか!
「シザーケースの中に入れてほしいって。落とされた大変だからって」
「それはいいんですが……」
「ああ、今回はそのコのお願いもあったから、少し力を借りて大小変化をさせるのは自由よ。元の大きさをイメージして手を触れてみて」
「元の大きさ……大きくなれ大きくなれ……完璧じゃないですか、リリエンデール様!」
僕の手の平の上には元の姿を取り戻したアンジェリーナ。
艶やかな髪の毛も、ほら元通りだ。
「当たり前じゃない、わたしを誰だと思ってるの? これでも女神なんですからね。このくらい簡単なものよ。あっ、崇めてもいいのよ?」
えっへん、と胸を張りつつも、照れ臭そうに髪の毛をかきあげた。
「ありがとうございます。では崇めさせてもらいますね」
せっかくなので崇めてみることにした。
作法等はわからないので、両手を顔の前で合わせて目を閉じ頭を下げる。
日本人特有の神社仏閣でお馴染みのポーズだ。
「い、嫌ねぇ。そんなに畏まらなくてもいいのよ。ちょっとした冗談なんだから。面と向かってそうされると、恥ずかしいじゃない」
ほんのりと顔を赤に染め、リリエンデール様がパタパタと手を振った。
「じゃあ、そういうことでまた連絡するわね。クルクル……」
どういうことなのかわからないが、照れ隠しに送り返されてしまった。
リリエンデール様、ついにクルクルって口に出しちゃってるし……。
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