45.美容師~???に名前をつける
「ソーヤ君、勘違いしないで聞いてほしいんだけど、このコに悪気があったわけじゃないみたいなの。このコなりにソーヤ君のことを思っての行動だったみたいよ」
「僕のことを思ってって言ったって……レベルが上がらないおかげでHPは少ないしステータスも上がらないしで、マッドウルフとの戦闘で危うく死にかけたのですが」
トルコ石が主張するようにチカチカと数度、強く点滅した。
「うん…‥わかってるわ……そうよね。でも、もう少しでソーヤ君は死んでしまうところだったみたいよ?」
リリエンデール様はトルコ石と会話ができているのだろうか?
「あなたの気持ちもわかるけれど、ソーヤ君を死なせたくないなら、ある程度はレベルを上げてHPやステータスを上げないとダメよ。あなたも近くで見ていたのだし、わかるでしょ?」
チカチカッ、チカチカチカ。
「それはそうだけれど……んー、困ったわね」
難しい顔をして、リリエンデール様が眉を寄せた。
「あの、なんて言ってるんですか? その、こいつは? あと、詳しい説明をしてもらえると……僕も会話に加わりたいですし」
「じゃ、通訳するわね。自分達は、少しでも早くソーヤ君の役にたつようになりたいんですって。だからみんなの才能を伸ばす為に経験値が必要だったから、この青いコが経験値の分配をしていたみたいなの。
ソーヤ君に経験値を渡さなかったのは悪かったと思っているけど、自分達が早く才能を伸ばしてソーヤ君の役にたち、守れるようになる方が優先されたみたいね」
「一応、悪いとは思ってくれている?」
「ええ、そのようよ」
「なら、僕のことを裏切ったわけじゃないんですね」
チカチカチカチカッ!
トルコ石が強く、早く点滅する。
「裏切ったりするはずないって……いつも頼ってくれていたからソーヤ君を守りたかったって……『今日も一緒に頑張ろうな。怪我や悪いことがないように俺を守ってくれよ』って思念が伝わって来るけど――」
「僕の言葉です……毎朝仕事が始まる前にその石に手を当てて、おまじないのように言うのが癖でした。そうすればその日一日、大丈夫なような気がして。
母がよく似たようなことをやっていたので、癖が移ったのかもしれないですね」
自分の癖を他人に知られるのは、なんだかちょっと恥ずかしい。
「そうだったのね。このコはそれが嬉しかったみたいね。
この世界に来てわたしの加護を受けて、その時点からすぐにソーヤ君のことだけを考えたみたいね。自分の才能を伸ばして何ができるか。
ソーヤ君に怪我がないように、悪いことが起きないように、向こうの世界にいた時のように守らなくては。この世界には危険がいっぱいだから、それ以上に守らなくてはって。
このコから伝わって来る思念は、ソーヤ君のことばかりよ。だから裏切るなんて考えはやめてあげて。信じてあげて。
女神リリエンデールが認めます。このコは、このコ達は皆ソーヤ君のことが大好きなの。疑ってはかわいそうよ。信じてあげなさいな」
自然とトルコ石を撫でていた。
ほんのりと青い光を放つトルコ石に、
「ありがとう」と伝えた。
「疑ってごめんな」と。
「これからも俺を守ってくれよな」と。
他の道具達へも想いを込めて、
「よろしくな」と。
「というわけで、ソーヤ君の意見を聞きましょう。さっきからわたしは経験値をソーヤ君から取るのをやめるように説得しているのだけど、自分達に経験値が入らないのは困るから、今まで通りがいいって言ってるの」
「それは……僕だって困りますよ。経験値を取得してレベルが上がらないとHPやステータスが増えませんし。何よりHPの数値はそのまま死に直結しますからね。なんとか説得してくれませんか?」
「うーん、わたしもそう思って頑張っているんだけれど、言うことを聞いてくれないのよね。もちろん、無理矢理にやめさせることはできるんだけど。ソーヤ君とこのコのリンクをたち切ればいいだけだし」
チカチカッ、トルコ石が光を発した。
「それは嫌だって言われてもねぇ。ならソーヤ君もこう言っていることだし、経験値を取るのはやめてもらわないと――」
チカチカチカッ。
「わかったわ。聞いてみるわね」
「なんて言ってるんですか?」
「それなら経験値を半物ずつわけるのはどうか、ですって。
取得した50%はソーヤ君、残りも50%はこのコが取り合えず一旦預かって、残りのコ達と分けるからって。まぁ、ここら辺が落としどころかもしれないわね。
長い目で見れば、ソーヤ君の力になるわけだし」
「ですね。それで僕はいいです。そうしてください」
「わかったわ。なら、あとはわたしに任せて」
リリエンデール様が僕とトルコ石を指差し、クルクルさせる。
そういえば、リリエンデール様だって回転、好きじゃないか。
いつも指先をクルクルさせているし。
そう思ったが口に出すのはやめておいた。
直感が働いたというか、それを言ってはダメなような気がしたんだ。
「うん、これでいいわね。経験値は仲良く半分コになるはずよ。
ただ一般の人よりはレベルアップのスピードは落ちるわけだから、時間はかかるけれど。そうね、経験値を分け合うってことは、あなたたちはパーティーを組んでいるようなものね。
せっかくだから、このコに名前でもつけてあげたら? これからも長い付き合いになるんだし、名前がないと不便だわ」
「名前ですか……青だから……シアンなんてどうかな? ありきたりすぎる気もするけど」
チカ、チカチカ!
「気に入ったみたいよ。喜んでいる思念が伝わって来るもの。ソーヤ君にあまり迷惑をかけてはダメよ。いいわね、シアン?」
チカチカ。
「わかったって言ってるわ。無事に仲直りできてよかったわね。わたしも嬉しいわ」
仲直りというか、別に喧嘩をしたわけではないのだけど、リリエンデール様が通訳してくれていなかったら、僕はシアンに裏切られたと思い込んでしまったかもしれないな。
だとすると、仲直りというのもあながち間違いはないのかも。
「よろしくね、シアン」
チカチカ。
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