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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
44/321

44.美容師~レベルが上がらない原因を知る


「レベルが上がって新しいスキルを獲得したら報告よろしくね」


 やっぱりこれも報告対象か。

 シザーの経験値を稼ぐ為には、シザー7で戦えばいいのか?


「リリエンデール様、シザー7の経験値を稼ぐにはシザー7で戦えばいいのでしょうか?」


「そうね、そうだと思うけれど、よくわからないわね。この200が経験値だと思うから、いろいろと試してみて数値が増えるのを確認してみればいいんじゃない?」


「でも、ノートを袋に入れて持ち歩くのはちょっと邪魔というか、戦闘が終わるごとにいちいち開いて見るのが面倒というか」


「もうっ、ソーヤ君はわがままね。なら、こうしましょう。ノートを出してくれる? で、テーブルに置いて」


 リリエンデール様が指先を向けてクルクルすると、A4サイズのノートが少しずつ小さくなり、縦方向にめくる手の平サイズのバインダー型になって戻ってきた。

 メモ帳のようだ。


「これならそのシザーケースに入るでしょ? 今はこれで我慢してくださいな。

 もし覚醒することがあったら、使いやすくなるようにお願いしてみたら? そのコにも少しだけど経験値が貯まっているみたいよ」


 ノートにも経験値が貯まるのか。

 レベルが上がっていないとしても、僕の経験値もちゃんと貯まっていればいいのだけれど。


「んん、あれっ? ノートにも経験値が貯まっているの? 

 シザー7は魔物との戦いでとっさに使って覚醒したのよね? 

 そもそもピンチになって初めてシザー7を抜いたのよね? そんなにすぐ経験値が貯まるのかしら? 変ね。おかしいわ。気になるわね」


 リリエンデール様は再び顎に手を当てて、思考の渦に沈んで行ってしまった。

 用も済んだし、疲れているからそろそろ下の世界に戻してもらって眠りたいのだが。


「ソーヤ君、シザー7が覚醒した時のことを、もう一度詳しく教えてくれない? 何か言い忘れていることはないかしら?」


 言い忘れていることか。

 

 あの時は、マッドウルフの攻撃を受け止める為にシザーケースから7インチシザーを抜いて……腰の辺りから青い光が――


「そういえば、腰の辺りで青い光が見えました。右側でした」


「右側の腰の辺りというと、それしかないわね。ちょっと見せてくれる?」


「ええ、ここに」


 立ち上がった僕のシザーケースをよく見ようとリリエンデール様が椅子を立ち回り込んできたが、


「むぅ」


 不満気に声を漏らした。


「むむ……ぬっ……ちょっ……もうっ! ソーヤ君、ふざけているの? じっとしていなさい!」


 何が起きているかというと、リリエンデール様が横に回り込もうとすると、何故か僕の体がシザーケースを隠すように右に動いて正面に向き直ってしまうので、追いかけっこをしているような状態になり、シザーケースを見ることができないのだ。


「そう、それが回転スキルということなのね」


 冷たい笑みを浮かべてリリエンデール様は言うが、これは回転スキルのせいではないと訂正させてもらおう。

 

 何故だかわからないが、体が勝手に引っ張られて右を向いてしまうんだ。

 腰の辺りから引っ張られているような……。


「いいわ。こうなったらこちらにも考えがあるわよ」


 リリエンデール様が僕に指先を向けてクルクルさせ、ニンマリと笑みを浮かべ、ゆっくりと右に回り込んできた。

 

 今度は僕の体は動かない。

 指一本動かせない状態なのだが、腰のシザーケースだけが逃げようとガチャガチャ暴れている。


 とういうか、待って!

 いつから僕のシザーケースは動くようになった!

 急に命でも宿ったのか?


「捕まえたわよ。もう逃がさないから」


 シザーケースを両手で掴み、リリエンデール様が、「ふふふ」と低い声で笑うと、観念したように動きを止めて大人しくなった。

 

 腰からベルトを外したシザーケースを掴んだままリリエンデール様は椅子に戻り、


「そうか……そういうことなのね。だからソーヤ君のレベルが上がらなかったのね」


 首を傾げたり、頷いたり、最終的に大きく息を吐いて、


「不思議だわ」とい呟いた。


 僕はまるで我が子を取られたような気分でなんだか落ち着かないが、リリエンデール様には僕のレベルが上がらない理由がわかったらしい。

 

 そういえば、リリエンデール様の胸が青く点滅しているが、洋服の下にカラータイマーでもあるのか? 

 

 まさか、そんなわけはないと身を乗り出すと、シザーケースからの光がリリエンデール様の胸に当たっているのに気がついた。


 シザーケースからどうして青い光が?

 青……蓋についているトルコ石か?

 

 心当たりにたどり着くと同時に、リリエンデール様がシザーケースをクルリと回転させて僕に向けた。

 青い光はすでになく、見慣れた僕のシザーケースだ。


「だいたいわかったわ。犯人はこのコよ」


 リリエンデール様の指先は、やっぱりシザーケースの蓋についている大粒のトルコ石を指していた。

 

 革職人の友人にオーダーメイドした時に、シザーケースの蓋に編み込んでもらった楕円形で大きさは直径7センチくらい。


「このコってば、どうやったのかはわからないけれど、ソーヤ君とほぼシンクロしている状態なの。それであなたに入るはずの経験値を全て自分に溜め込んでいたのよ。

 獲得した経験値の一部は自分を介してシザーやノート、他のコ達にも分け与えていたみたいね。何故かソーヤ君には経験値を分けなかったから、ソーヤ君のレベルは上がらなかったというわけ。

 いくら魔物を倒してもソーヤ君には経験値が1も入ってないのだから、レベルが上がらないのは当然ね。わかってみれば簡単な理由だったわ」


 シザーケースのトルコ石が僕の経験値を横取りしていた?

 しかも掠め取るなんて可愛いものではなく、全てを独り占め?

 

 いや、他の道具達にも分け与えていたから独占していたわけじゃないのか……僕だけのけ者にされていたわけだ。


 そもそも、トルコ石はどうしてそんなことをしたのだろう?

 されたのだろう……美容師になってカット練習を始めた頃からの付き合いだし、アンジェリーナよりも付き合いは長く、大事にしてきたはずなんだけどな。

 

 徐々に落ち込んでいく僕を見て、慌ててリリエンデール様が声をかけてきた。




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