42.美容師~女神様とスキルについて検証する
「どうしたの? そんなに慌てて」
キョトンと目を丸くして小首を傾ける。
「リリエンデール様、僕の体はいつものように保護してくれてますか?」
「してるわよ。大丈夫、今なら斧で叩き切られても傷一つ付かないわ。保障するわよ」
「なら時間の経過は?」
「それもこの前説明したのと同じね。時間の進み方はあちらの方が遅いわよ」
それならいいか。
もう少しここに滞在して疑問に答えてもらうとしよう。
「リリエンデール様、いくつか質問をいいですか?」
「いいわよ。とりあえず座ったら。まだ帰らないのはわかったから」
リリエンデール様が苦笑して、テーブルの上に指を組んで置いたので、質問タイムといこう。
「まず、僕のレベルが上がらないと冒険者ギルドで問題になっています。もしかしてこの世界の人間ではないからレベルが上がらないとかはありますか?」
「んー、それはないわね。ソーヤ君はすでにこの世界の住人として登録されているわけだから、きちんとレベルは上がるはずよ」
自信あり気に言うのだから、この推測はハズレで他に原因があるということか。
「ちなみに他の人よりもレベルが上がる経験値のようなものが僕の場合は多いとかも?」
「ないわね。その辺りは皆と同じだと思うのだけれど……本当にレベルが上がってないの?」
「はい。ギルドカードのレベルは増えてませんし、ステータスの数値も変わっていません」
「そう。それは不思議ね。ちょっとカードを見せてくれる?」
「ええ、どうぞ」
カードを渡すとリリエンデール様は表から裏からと眺め回し、指先を向けてクルクルしたりした。
「得に変なところはないわね。ちなみにノートのステータスも変わりはないの?」
「ないと思いますけど、一応確認してもらえたら」
布袋からノートを出して開き、二人で覗き込む。
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名前 ソーヤ・オリガミ
種族 人間 男
年齢 26歳
職業:
レベル:1
HP:20/20
MP:20/20
筋力:16
体力:16
魔力:16
器用:32
俊敏:18
テクニカルスキル:シザー7 200/???
《Lv1》カット
ユニークスキル:言語翻訳《/》、回転《Lv4》、観察《Lv3》
スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv1》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv3》、気配察知《Lv1》、投擲《Lv2》、忍び足《Lv1》、集中《Lv3》、脚力強化《Lv1》、心肺強化《Lv1》
称号:女神リリエンデールの加護
装備:カットソー、ジーンズ、シザーケース、腕時計、短剣、ナイフ、革の防具一式、黒曜の籠手
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「本当ね。レベル1だわ。ステータスもわたしがいじった時のまま。うーん……わからないわね」
リリエンデール様が納得いかないように呟いた。
わからないなら仕方ない。
次の質問に行こう。
「その代わりにというか、スキルが増えるのがものすごく早いみたいです。それはどうなのでしょうか?」
「スキルが増えるのが早い?」
「スキルレベルが上がるのは普通よりも早いみたいです。それに覚える量も多すぎると。一週間足らずでこの通りでして」
マリーの冷たい笑顔が脳裏に浮かび、冷や汗が出そうで慌てて消し去った。
「ああ、それならわかるわ。だってあなたは向こうの世界の経験を持ったまま、ついこの間この世界で生まれたようなものだもの」
「生まれた? ええと……どういうことでしょうか?」
「そもそもソーヤ君は、スキルがどういうものかはわかっている?」
「冒険者ギルドでの説明によると、生れつき持っている才能や継続した経験によって覚えることができると聞きましたが」
「そうね。概ねそれで合っているわよ。
人が生まれた時に持っている才能はスキルとして獲得できるのも早いし、レベルの上昇も早いわ。ということから推測すれば簡単でしょ?
ソーヤ君はあちらの世界でのその歳まで生きて経験してきたことの経験値を、才能として還元してこの世界に生まれたのだから。
しかも才能の女神であるわたしの加護まであるのよ?
言わばソーヤ君は才能の塊のようなものね。ほとんどのスキルは努力次第で獲得できるんじゃないしら?
還元しきれなかった経験値の持ち越しもあれば補正もあるから、レベルが上がるのも早いしね」
それって……かなり凄くないか?
スキル取り放題ということ?
俗に言うチートというやつか。
「例えばねー、ソーヤ君は小さな頃から草木や花を摘んだり触れたり、昆虫を採取したりしなかった?」
「……しましたね。草で舟を作って川に流したり、ドングリや松ぼっくりを拾ったり綺麗な花を摘んでプレゼントしあったり、学校の授業の一貫で芋掘りに行ったりイチゴがりに行ったり……トンボや蝉も捕まえてましたね」
「それだけやっていれば経験値的に《採取》の才能は十分にあるはずだから、スキルの獲得も当たり前ね。まだまだ伸びるんじゃないかしら?
他には《剣術》ね、ソーヤ君はあちらの世界での戦闘経験は?」
「戦闘と呼べるものはないですね。学校の授業で剣道や柔道をやったくらい。あとは合気道の道場に少しの間通ったくらいでしょうか」
美容師は基本立ち仕事なので、疲れない立ち方や姿勢の制御、体の効率的な動かし方なんかを、先輩の顧客にいた合気道道場の一人娘の紹介で通っていた時期があるのだ。
護身術の類もそれなりに教えてもらったことがある。
「なら《剣術》スキルは剣道の授業の影響ね。覚えるのとレベル3までは早かったけど、4になるのは時間がかかっているのではないかしら?」
確かに……レベル3までの速さと比べると遅い。
マッドウルフとの戦いでも上がっていないし。
「やっぱりね。持ち越し分の経験値を使いきったのではないかしら。
元々授業で習ったくらいだから少なかったと思うの。こんな感じで経験の少なかったスキルはそこそこのレベルまでは行くと思うけど、止まったところから先は努力が必要よ。
精進あるのみね。でもいろいろと集めてみればいいんじゃないかしら。その中でもそれぞれ伸び率は違うだろうし、すでに面白い固有スキルだって出てきてるみたいじゃない」
「固有スキルというと……それはこのユニークスキルのことですか?」
「そうね。《剣術》とか《採取》とか一般的な誰もが獲得できるスキルとは違って、その人独特のスキルで、ユニークスキルとも言うわ。
ちなみにギルドカードには表れないから、他人にはわからないわね」
「でも、それだと本人にも確認できないのでは? それこそ、冒険者ギルドで問題にならなかったのでしょうか?」
「たしかに獲得した本人はスキルだと認識はしていないわ。
何故だかわからないけれどできると思っているのでしょうね。
でも、ユニークスキルを獲得できる人なんて滅多にいないし、今までそれに気づく人もいなかったのよ、きっと。だから誰も問題としなかったのね。
ただソーヤ君は何かしらのユニークスキルを獲得できると思ったから、それがきちんと自分で確認できるようにノートに細工をしたわけよ。偉いでしょ? わたしってば」
リリエンデール様にウィンクされたので、
「お気遣い助かりました。ありがとうございます」
お礼を述べた。
ノートのおかげで《回転》スキルの獲得が実証できたし、そのお陰で助かったので感謝の気持ちは伝えなければ。
「いいのよいいのよ。わたしってばこれでも才能の女神だからね。
才能を伸ばしたり、新しいスキルを覚えてくれる人がいるのは嬉しいわ。それであなたの獲得したユニークスキルについて教えてもらるかしら?
獲得したときの状況と使い心地、《観察》に回転、どちらも初めて見るのよね。気になるわ」
グイグイと身を乗り出して来るので、本当に気になって仕方がないのがわかり、僕なりに纏めて説明してあげた。




