40.美容師~幼女に約束を破られ三度牢屋に入る
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泉に戻っている最中に完全に日が暮れてしまったようだ。
暗闇の中、《視覚強化》と《聴覚拡張》、《気配察知》の3つのスキルを頼りに障害物を避けていく。
泉のそばに近づくとぼんやりと明かりがあり、松明を手にした3人の兵が固まっていた。
僕を見つけるなり、その中の一人が駆け寄って来る。
冒険者ギルドに来ていた人だ。
「その子は!? どうやら無事のようだな」
僕の腕で眠るメェちゃんを見て、ほぉっと大きな息を吐いた。
彼も子供のことは心配していたのだろう。
リンダさんの取り乱す姿を目にしているから余計にかもしれない。
「それにしても……ずいぶんな格好だな。大丈夫なのか?」
今度は僕の心配まで。
ずいぶんと彼は優し人のようだ。
「まぁ、なんとか歩ける程度には」
「その傷では辛いだろう。俺が変わろう」
メェちゃんを受けとろうとするので渡そうとしたが、小さな手が僕の服を握りしめていて離れなかった。
「どうやら、お姫様はお前をご所望のようだな」
「光栄ですね。この傷さえなければですが」
メェちゃんを抱え直し、兵達に先導されて森を抜けた。
街の門が見えると、ようやく終わったと思うことができた。
森を抜けてからは警戒を緩めたが、どこか気が張っていたのだ。
篝火に照らされた門を潜ると、兵の詰め所から人が飛び出してきた。
「メイは!? メイベルは無事なの?」
リンダさんがマリーを振り切って駆け寄って来る。
「ここにいますよ。疲れて眠っているだけです」
メェちゃんの顔が見えるように体を傾けると、
「あぁ……あぁぁ……よかった。よかった……」
僕の腕にもたれ掛かり、泣き崩れた。
「ソーヤさん! 無事ですか? よかった……怪我は? って……血だらけじゃないですか!?」
遅れてやってきたマリーが、僕の全身を見回して叫ぶ。
安心したり、叫んだり忙しいものだ。
周りがうるさくて目が覚めたのか、モゾモゾと腕の中で動くメェちゃんをリンダさんに預けると、
「お母さん……?」
小さく呟いた。
「そうだよ。お母さんだよ。もう大丈夫だからね。よく頑張ったね。今はゆっくりとおやすみ。寝ていていいんだよ」
リンダさんが愛おしそうに娘にほお擦りする。
「……お兄ちゃんは?」
「お兄ちゃんはそこにいるよ」
リンダさんが体の向きを変え、僕が視界に入るようにする。
「……お兄ちゃん」
寝ぼけているのか、僕を見て嬉しそうに笑い、
「メェね。お兄ちゃんに頭撫で撫でされるの好きよ。また内緒で撫で撫でしてね」
そう呟いて寝てしまった。
……空気が一瞬で切り替わるのがわかった。
リンダさんが警戒するように僕から距離を取る。
3人の兵が僕を取り囲むように陣形を組みつつ、
「ソーヤさん……ちょっとそこでお話をしましょうか?
皆さんもいろいろと聞きたいことがあるようですし。
そうそう、傷の手当もしなくちゃですね」
「マリー? 違うよ? 違うんだよ。これには訳があって」
「はいはい、あとでゆっくりと聞いてあげますからね」
僕はマリーに引きずられて詰め所に連行されたのだった。
「しばらくここで頭を冷やしてください」
三度、僕は牢屋の中に入っている。
子供を助け出した英雄から一転、傷の手当なんてしなくてもいいんじゃね、の扱いに変わってしまったが、マリーが頼み込んで救急セットを借りてくれた。
事情聴取をされつつ、マリーに怒られつつ、傷の手当が終わった僕はとりあえず牢屋に入ることになったのだ。
今後の僕の扱いは、明日の朝メェちゃんの話を聞いてから決まるらしい。
自分の懲りない馬鹿さ加減と、子供の約束を信じた愚かさの両方に落ち込んでいると、見張りの兵がやってきた。
その男は僕を見るなり、
「またお前かよ……ほんと懲りない奴だな」
ため息混じりに言われてしまった。
はい、僕もそう思います。
とりあえずふて寝というわけではないが横になることにした。
実際、体は疲れていて休息を必要としているからだ。
「大人しく寝てるなら寝てろよ。魔物と戦ったんだろ」
そうなんだ。
メェちゃんの父親を襲った狼と交渉し、その後マッドウルフ二匹と戦いになったと報告したら、よく生きていたな、と全員から褒められた。
マリーからはどうしてそんな危ない目に合うんだ! と泣きながら怒られたが。
その為に、牢屋には入れられたが、僕に対する態度はかなり軟化していたのだ。
見張りの男もそれを聞いていたのだろう。
懲りないなとは言われたが、どこか労るような態度が見られる。
「そうします。実は体中が痛くて」
ゆっくりと寝転び、目を閉じると吸い込まれるように眠りに落ちた。
……はずだった。
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