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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
39/321

39.美容師~幼女と秘密の約束をする


『……シザーは、引きながら切る!』


 手首をすばやく手前に引き指を動かすと、

 シャキン! と清んだ音が鳴り、


「グガァァァァ!」


 マッドウルフが叫び声をあげた。

 血をばらまきながら、マッドウルフの手首から先がポトリと落ちる。

 ……切れた。

 切れちゃったよ。


『ほらっ、切れただろ?』


 懐かしい父の声が聴こえた気がした。


 そして、


 リィィィィン、と音がする。



【女神リリエンデールの加護により、シザー7の経験値取得を確認……レベルが上がり、テクニカルスキル《カット》を取得しました】


 

 テクニカルスキル? 

 さっきから意味不明の言葉が多すぎる。

 

 右手に持つシザーの光が一層強くなった。

 

 マッドウルフは木に刺さった爪を抜く為に、左腕に自分の鼻先を勢いよくぶつけ、大きく後ろに飛んで距離をとったが、手首から先が無いので右腕を地面につけず、バランスを崩すようによろめいた。


 今だ!

 

 僕は緑色に光る7号シザーの刃を開き、右目を狙って突き出した。

 

 プスリ、と柔らかい感触が伝わり、


「グォォーン」


 マッドウルフが暴れるので、黒曜の籠手を鼻先に叩き付け、シザーを引きながら閉じた。

 

 シャキンッ、

 

 マッドウルフの顔が切り裂かれ、のけ反るように顔を上げたので、目の前に無防備な首が晒された。

 

 そこに再びシザーを突き入れすばやく開閉させると、血を吹き出させ、マッドウルフは力無くたわった。


 

 今度は警戒を忘れずに、気になりますレーダーを……魔物は近くにいないようだ。

 ようやく一息つけるか。


 

 メェちゃんは木の根本でペタリとしゃがみ込んでいる。

 

 シザーの手入れ……なんてこんな所ではできないか。

 とりあえず、短剣を回収しないと。

 

 最初に倒したマッドウルフの口を両手で開き、短剣を抜き取った。

 ついでに討伐証明の耳を剥ぎ取り、牙も4本切り取った。

 

 ナイフはと……投擲して落ちていたナイフも拾って腰に戻すと、メェちゃんのそばに座った。

 

 ちょっとだけ休憩。

 なんか、疲れたなぁ。

 

 いろんなことが一気にありすぎて、正直思考がストップしている。

 

 体力も気力も使い果たしていたし、背中や肩に腕、至る所が思い出したかのように痛みを主張し始めた。


「いてててっ」


 短剣を地面に置いて、右手で左肩を押さえた。


「だっ、大丈夫?」


 メェちゃんが縋り付くように聞いてきたので、


「大丈夫だよ」


 と頭を撫でた。

 

 安心させたくて、無意識の行動だった。

 いつもしてきてように自然と手が動いてしまったんだ。

 

 連続の戦闘を終えて、僕の気が緩んでいたのもあるだろう。

 だから僕は気がつかなかった。


「お、お兄ちゃん……あの……」


「ん? 何かな? 大丈夫だよ、もう怖い魔物は倒したからね。心配かけてごめんね」


 微笑みかける僕に、メェちゃんは申し訳なさそうに言ったんだ。


「手を……どけてほしいんだけど」


「手……?」


 手……僕の手は……メェちゃんの頭を撫で続けている。


「あぁぁぁ!? ごめん、ごめんね! またやっちゃった。頭を撫でちゃダメなのに!」


 僕はすばやくメェちゃんから距離を取り、謝罪した。

 

 もちろん、最大限の謝罪である土下座だ。

 まさか幼女に土下座をする日がくるとは思わなかった。


「ごめんなさい!」


 正座で深く頭を下げた。

 オデコが地面について、ゴンッと鈍い音がした。

 

 そのまま数秒固まり、また泣かしてしまったのではないかと恐る恐る顔を上げた。


 メェちゃんはキョトンと大きな目を丸くして、


「それ、なぁに?」


「これ? これはお兄ちゃんの住んでいた所では、物凄く悪いことをして謝る時にはこうするんだ、ごめんなさいって」


 再び頭を下げた。


「ふーん、変な動きだね。ちょっと面白いけど」


 クスクスと笑っているので、泣かしていなかったことに安堵(あんど)していると、


「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはどうしてメェの頭を撫でるの? そーゆーのが好きな人なの? 悪い人なの?」


「それは……」


 これまた直球すぎてなんと返せばいいものかと悩むが、直球には直球で返すことにして、正直に答えた。


「お兄ちゃんの住んでいた所ではね、大人は小さい子供の頭を撫でてもよかったんだ。

 良いことをしたら、偉いねって褒めて撫でる。

 怖いことや悲しいことがあったら、大丈夫だよ、心配いらないよって安心させる為に撫でるんだ。だからついメェちゃんの頭を撫ででしまった。

 本当にごめんね。もう触らないように気をつけるから」


「そっか……なら、お兄ちゃんはメェのことを褒めてくれて、安心させてくれようとしたんだね。そっか……お兄ちゃん、手を出して」


 メェちゃんは、うんうんと頷いて、僕の手を取り自分の頭に僕の手の平が当たるようにのせた。

 

 慌てて引っ込めようとする僕の腕を両手で掴み、


「メェ、嫌じゃないよ。お兄ちゃんに頭を触られるの、撫で撫でされるの嫌じゃない。

 だから、触ってもいいよ。もっとして」


 花が開くような、満面の笑顔を向けてくれた。

 とても嬉しいことを言ってくれた。

 言ってくれたのだが……、


「でもねメェちゃん、周りの人が見たら大変な騒ぎになるし、メェちゃんのお母さんが怒るというか、心配するというか」


 しどろもどろになりながらも、僕の手はメェちゃんの頭を撫でている。

 

 言動と行動が完全に一致していないのが自分でも嫌になるが、チャンスは今しかないとも思えてしまうのだ。

 

 足りない髪の毛に触れる成分を補充しようと体は必死というか……。


「ここなら、誰も見てないよ。それにメェが誰にも言わなきゃいいんでしょ? 

 メェ、お母さんにも言わないよ。黙っててあげる。それなら、いいでしょ?」


 子供ながらの理屈というか、なんというか、良いのだろうか?

 

 決してやましい気持ちはないと言える。

 幼女を愛する性癖など皆無だと断言はできる。

 

 ただ、この世界の禁忌と照らし合わせると、僕は許されないことをしているわけで……幼女の胸を触りつづけている!?


 あー、頭が混乱してきた。

 とりあえず、すでに触ってしまったわけだし、触り続けているわけだし、ここはメェちゃんの提案を受け入れて黙っていてもらおう。


「ふふ……ふふふ。なんだか気持ち良くて……眠くなってきちゃった」


 僕に頭を撫でられ続け安心したのか、メェちゃんは眠ってしまったようだ。

 

 髪の毛を触られていると、大人でも気持ちが良くて眠ってしまう人がいる。

 美容室ではよくカットやドライヤーをかけている最中に寝てしまう人がいたなぁ。

 何人かの常連客が頭の中に浮かんできて、まだ数日しか経っていないのに懐かしかった。


 一応スキル《気配察知》を意識して魔物が近くにいないことを確かめ、短剣を黒曜の籠手に収納して、メェちゃんを起こしてしまわないように注意しながら抱き上げた。

 

 眠ってしまった子供の体温はどうしてこんなに高いのか、ポカポカと温かい。

 あまりのんびりしていると、血の臭いに惹かれてまた魔物が寄ってきそうだ。


 小走りに僕は泉を目指して移動を開始した。

 胸に抱えたメェちゃんからは、優しい日だまりの匂いがした。




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