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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
32/321

32.美容師~マリーと約束をする

 

 ギルドに着くと受付にはマリーが立っていて、僕に気がつくと笑いかけてくれたので、一安心した。

 

 今日も休んでいたら様子を見に行こうかと思っていたから。


「おはようございます。ソーヤさん」


「おはよう、マリー。今日はキラービーの討伐に行きたいんだけど、いいかな?」


「わかりました。すぐに準備しますね」


 言うが早いか、カードを受け取り箱に指して操作するので、


「更新はしなくていいよ」


 と告げるとマリーの動きが止まり、ゆっくりと顔を上げて僕を見た。


「……何か、誰かに聞きましたか?」


「普通は毎回カードの更新をしないってこと? それともギルド職員は冒険者に頼まれて更新をするのであって、許可なく勝手に更新はしないし内容も見ないってこと?」


「今日は意地悪ですね、ソーヤさん。その……怒ってますか?」


「別に怒ってはいないよ。ただ、なんでなのかなって、気にはなってる」


「それは、ですね……」


「僕のことが心配だったから?」


 僕の受注する依頼が実力に適しているかどうか、それを見極める為にステータスを見る必要があったのではないか、僕はそう予想していた。

 

 マリーはうなだれるように視線を落とし、


「そうです」


 と答え、そのまま固まってしまった。


「さっきも言ったけど、別に怒ってるわけじゃないんだ」


「でも、わたしはソーヤさんが更新の仕組みを知らないのをいいことに、勝手にステータスやスキルを盗み見ていたんですよ! 誰かにばらされたら、ソーヤさんは困ったことになるのに」


「でも、誰かにばらしたりしていないんだろ? キンバリーさんは、僕のステータスやスキルについて、詳しく知らなかったみたいだし」


「それは……そうですけど」


「だから今までのことはもういいよ。これからは一言断ってくれればいい。マリーが見たいなら見せてあげるし」


「いいんですか?」


「かまわないよ。その代わり条件がある」


「条件ですか? はっ!?」


 突如マリーが警戒するように身構え、自らの体を抱きしめた。


 「時折ソーヤさんから、妙に熱い視線を感じるとは思っていましたが、やっぱり、わたしの体が目当てだったんですね……でもそれも仕方ないですね、わたしはそれだけのことをソーヤさんにしてしまったわけだし、こうなったら責任を取る為にもソーヤさんの言うことに逆らうわけには――あいたぁっ」


 一人で変な勘違いをしているようなので、ていっと、ピンク色のヘアクリップで前髪を持ち上げられてむき出しのオデコを叩いたら、ぺチンといい音がした。


「いたた……何するんですか!? はっ、もしやもうソーヤさんの調教は始まっているのですか? 約束だから仕方がないといえ、せめてこんな人目のある場所ではやめてほしいというか、でもソーヤさんの趣味だとしたら、わたしが合わせるしかないし……」


 目を潤ませて恥ずかしそうに見てくるので右手を振り上げたら、叩かれないようにオデコを手で押さえてマリーが後ろに一歩下がった。


「……そろそろきちんとした会話をしたいんだけどいいかな?」


 (にら)み合っていても現状は変わらないので、右手を下ろした。


「もう叩きませんか?」


「マリーがちゃんと僕の話を聞いてくれるなら叩かないよ。それに僕には女性を叩いて楽しむ性癖はないよ」


「本当ですか? 実はさっきの一撃でちょっと新たな扉が開いたとか?」


「そんな扉は開かないよ!」


 侵害だな。

 変な称号がついたら、どう責任をとってくれるというんだ。


 マリーは僕が動いたらすぐに逃げられるように、ジリジリと時間をかけて受付の定位置まで戻ってきた。

 

 さて、仕切り直そう。


「僕の出す条件は、これまで通り、受注する依頼についてアドバイスをくれることだよ。どうかな?」


「それって、今までと何も変わってませんけど」


「でも僕はそれでとても助かっていたから……不満かな?」


「不満というかなんというか、わたしに優しすぎませんか?」


「ならもう一つ、マリーの空いている時間でいいから、文字の読み書きを教えてほしい。読み書きについては、こちらからの依頼として報酬を出すよ」


「報酬が貰えるなら、わたしにとって良いことになります。他に何かないんですか? わたしにとって罰になるようなお願いは」


 どうにも納得いかないようで、食い入るように迫ってきた。

 

 僕の望み……望みといえばもちろんあるにはあるのだが……言ってしまっていいものか……男だろ! 言ってみよう!

 

 心の中で発破(はっぱ)をかけ、真摯(しんし)な雰囲気が(かも)し出るように意識しながら告げた。


「マリーの髪の毛を少しでいいから、触らせてほしいんだ!」


 すると、どうでしょう……

 マリーは物凄い勢いで飛びすさり、背後の棚に体ごとぶつかった。


「や、やっぱりわたしの体が目当てだったんですね……そんな真剣な表情で何を言うかと思えば」


 ワナワナと体を奮わせて、冷たい目を向けられた。


 まぁ、こうなるよね。

 頭の中で自分の放った言葉を、この世界に照らし合わせて変換してみる。


 マリーの髪の毛を少しでいいから、触らせてほしいんだ!=マリーの胸を少しでいいから、触らせてほしいんだ!


 アウトォ!

 うん、誰が聞いてもアウトだね……。


「まぁ、冗談はこのくらいにして」


「冗談なんですか!? 本当に本当ですか? あんなに真剣なソーヤさんは見たことがないくらいに――」


「冗談だよ冗談。決まってるじゃないか。いきなりあんなこと言う奴なんて、変態しかいない!」


 強めの口調で言いきってやると、


「で、ですよね。ビックリしすぎて、心臓が止まるかと思いましたよ。とっさにキンバリーさんを呼んで、剣で真っ二つにしてもらうところでした」


 ……危ない。

 もう少しで死ぬところだった。

 こんな死に方だけは絶対に嫌だ。


「そもそもマリーが悪いんだよ。別にこれ以上お願いがないって言ってるのに、無理矢理せまってくるから」


「わたしですか!? わたしが悪いんですか?」


「違うの?」


 微笑みを浮かべて尋ねると、


「元はと言えば、わたしが悪いのは確かですけど……」


 ここは有耶無耶にするしかない。

 このまま押し切るしかないんだ。


「それにカードを更新して、ステータスとスキルを見るんじゃないの?」


「いいんですか?」


「見ないの?」


「見たいですけど……」


「あっ、もう一つ条件を追加で。カードの内容を見ても、驚いて大声を出すのは禁止で」


「……驚いて大声を出すような内容なんですね?」


 マリーがジト目を向けてくるので、


「個人差によります」


 とぼけておいた。


「じゃあ、見ますね」


 カードの更新作業を終え、マリーは律儀に一言断ってからカードに目を落とした。



 ==


 名前 ソーヤ・オリガミ

 種族 人間 男 

 年齢 26歳

 職業:    

 レベル:1

 HP:20/20 

 MP:20/20

 筋力:16

 体力:16

 魔力:16

 器用:32

 俊敏:18


 スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv1》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv1》、気配察知《Lv1》、投擲《Lv2》、忍び足《Lv1》、集中《Lv1》


 称号:


 ==



 時折向けて来る視線から目を逸らし、ため息をつきながら差し出されたカードを受けとった。


「なんというか……言葉も出ないというか。ソーヤさんはスキルを集めるのが趣味なんですか?」


「趣味ではないけど、役に立つならたくさん欲しいね」


「それは誰もが同じだと思いますが……一つ気になることがあります」


「何かな?」


 もしかして……、


「ソーヤさんのレベルが1のままなのはおかしいです。これだけのスキルを取っているなら、それなりに討伐して経験値を稼いでいるはずなのに」


 僕の受注状況を把握しているマリーなら気づいてもおかしくないとは思ったが、早かったな。


「それはキンバリーさんにも言われたよ」


「やっぱり……カードの不良とかは?」


「試したけど問題はなかったみたいだね。理由がわからなくて、ギルド本部に問い合わせをしてくれているみたいだけど」


「そうですか……なら一つ約束してください。ソーヤさんのステータスはスキルも多いし、元々普通の人よりも高い数値です。

 ただレベルが上がっていないせいで、HPが低いんです。魔物の集中攻撃や鋭い一撃を受けたりしたら、致命傷になりやすいんです。

 だから、危険なことは絶対に避けてくださいね。勝てないと思ったら、逃げてください。約束ですよ?」


「わかったよ。約束する」


「いいでしょう。では契約といきましょう、まとめますね。わたしはソーヤさんのカードを更新して見せてもらう代わりに大声を上げたり驚いたりしない。

 そして、依頼の為の情報と文字の読み書きを教える。これでよろしいですか?」


「うん、それでかまわないよ」


 僕が了承すると、マリーの目が一瞬キラリと光ったような気がした。

 そして、


「じゃあ、討伐に行く前に少しお話しましょうか。そこのテーブル辺りで座りながら、ゆっくりと」


 マリーの笑顔の質がいつのまにか変化していた。

 獲物を狙うような目が、ぜんぜん笑っていない。

 

 しまった。

 驚くなとは言ったが質問するなとは言っていなかった! 

 ので、


「あっ、マリー。ヘアクリップでとめた前髪が乱れているよっ。せっかく可愛いのに、早く直したら?」


「本当ですか?」


 マリーが鏡を見ていそいそと直しているうちに、この場を離れることにした。

 逃げたと言われてもいい。

 戦略的撤退だ。


 「じゃ、行ってきます。読み書きの勉強は、マリーの手が空いてる時でいいから」


 「あ、ちょっと、ソーヤさーん!」


 声が追いかけて来るが振り返ることなく走り出した。




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