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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
317/321

317.美容師~迷宮を攻略する18

 

 レザーは僕の手のひらの中で横たわり、ほんのりと碧色の光を纏いながら淡く発光していた。

 その光を見つめていると、再び、リィィィィン、と音がする。


【女神リリエンデールの加護により、レザーの経験値取得を確認……レベルが上がり、テクニカルスキル《シェーブ》を取得しました】


「シザーじゃなくってレザー……今度はお前が僕に力を貸してくれるのか。新しく覚えたスキルはシェーブ……そうか!!」


 カットでシザーではなくレザーを使うのは、いらない毛をそぎ落とす時。

 ということは、こいつの才能はそぎ落とす、つまり排除する。


 だから、シェーブ!!

 そぎ落とし、その存在を無くすことに特化しているのだとしたら……



 僕はレザーの柄を握りしめて、レッドオーガに走り寄る。

 それで何かをするのは察したのだろう。

 フィクスさんが牽制するように、魔法を撃ち出してオーガの動きをその場に留めてくれた。


 オーガは見えない風の弾丸をうっとおしそうに両手で払い落し、目の前に現れた僕にも同じように腕を振り落としてきた。


 その腕をかいくぐる様にしながら、僕はそっとレザーを腕に添わせるように置き、


『シェーブ』


 と呟くと、何かをレザーがそぎ落とすように剥がしていくのがわかった。

 追加とばかりに胸の辺りをレザーでひと撫でし、背後に回り込んで背中にも滑らせた。


 これで、やるべきことはやったはずだ。

 妙な確信を覚える僕を裏付けるように、レザーの纏っていた碧の光が消えていく。


「フィクスさん! 攻撃を! 全力全開でお願いします!!」


 叫びながらレザーをシザーケースに戻し、そのかわりに孤影を抜き放ち、オーガの膝裏辺りを狙って斬りつけた。

 右手首に鈍い痛みを感じながらも歯を食いしばって振り切り、その結果として紫色の液体が飛び散ったのを確認した。


 ナイス、レザー!

 あと、リリエンデール様も!!


 心の中で喝采をあげ、膝をつくオーガの角を狙って2本の孤影をクロスするように上から叩きつける。


 けれど、さすがはAランクのオーガ。

 挟み込むように角を斬り飛ばそうとした孤影を、力任せに両腕を重ねて振り上げ、下から弾き飛ばした。

 そのまま子供のようにでたらめに腕を振り回すので、危なくって近くにいられなくなり後ろに下がる。


 その瞬間、狙いすましていたかのように、空気が震えた。

 暴れていたオーガの体が宙に浮いて、そのまま視界から消えた。


「攻撃……全力……全開……これでいいのかい?」


 聴覚拡張が、消えそうな呟きを僕の耳に届けてくれる。

 その音の元といえば、前傾姿勢で膝に両手を付き、地面まで金髪を垂らした姿。

 なんか、金髪のお化けみたいだ。


 こんな時なのに、場違いなことを考えてしまい、思わず笑みがこぼれた。

 金髪お化けに駆け寄った僕は、


「大丈夫ですか?」


 と声をかけたが、返ってきたのはこんな言葉。


「大丈夫かと問われれば、大丈夫ではないと答えたいところだけれど、大丈夫と答えなければいけないのだろうね。でも大丈夫ではないのは確かなことで、だから大丈夫だけれど大丈夫ではないというところだね」


 なんだか禅問答みたいで、よくわからない。

 とりあえず、苦しそうにしているのは魔力切れということなんだろう。


 自分勝手に結論を出し、そういえばオーガはどうなったかな、と吹き飛んで行った赤色を探すと、ゆっくりとだがこちらに向かって歩いてきていた。


 フィクスさんの『エアハンマー』で折れたのだろう左腕をブラブラと揺らし、右足を引きずってはいるが、真っ赤な目は爛々と輝いている。


 まだまだやる気は十分って感じだ。

 さてさて、フィクスさんはちょっと休憩しないと使い物にならなそうだし、ここはもう一息僕がなんとか頑張るとするか。


 フィクスさんを庇うように背中に隠し、魔言を紡ぎ始める。

 僕が選んだ魔法はもちろんこれ。


 というか、これしかないと言った方がいいかもしれない。

 僕の使える最も攻撃力のある魔法。


『アクアブーメラン』


 呟き、右手で持ち手を掴む。

 そして、


『アクアブーメラン』


 左手でも持ち手を掴む。

 ここは最後の大盤振る舞い、二刀流ならぬ……ゴロが悪いのでやめておこう。

 とにかく、両手に『アクアブーメラン』だ。


 魔力がごっそりと減ったのがわかった。

 きっとあとで僕も呟くのだろう。

 大丈夫なのか大丈夫ではないのかわからない、あの呪文のような言葉を。




 右手の『アクアブーメラン』を投擲開始。

 もちろん、スキルは上乗せ状態で。


 遅れて左手の『アクアブーメラン』も発射。

 弧を描きながら飛んで行った『アクアブーメラン右』がオーガの左側から接近する。


 それと同時に『アクアブーメラン左』が右側から迫る。

 角度を変えて投げることによって軌道を修正したのだ。


 これで、ほぼほぼ同時に左右の『アクアブーメラン』がオーガに当たる。

 これまでの経験上、避けることではなく迎撃を選ぶと予測したがやっぱりそうだ。

 その場で拳を構え、左右の刃を狙い撃つ模様。


 そこに、第三の攻撃が現れたらどうだろう。

 オーガにだって、腕は2本しかないわけで、その2本で間に合わなければ3本目を出すしかない。

 もちろん、相手に3本目の腕があればの話ではあるけれど。


 結果、3本目の腕がないオーガは、かわりのモノで僕の攻撃を防いだ。

 それは、何か。

 答えは頭に生えた1本の角である。


 両の拳で左右の水の刃を殴り落とし、右手の孤影を角で迎撃。

 でも、僕には4本目の腕があるわけで。

 つまり、左手の孤影を遮るものはないのだ。


 角で孤影を受ける為に、下を向くような恰好になったオーガには、僕の左腕が視界には入らない。

 なので、準備しておいた左手の孤影をオーガの首に目掛けて振り下ろした。


 その際、体ごと左に飛び跳ね刃を滑らせるように手首を曲げて引き抜く。

 刃を伝わってきた硬い感触は、たぶん首の骨だろう。


 ここまでしても、首を断ち切るどころかその骨すら斬ることはできなかったようだ。

 フィクスさんではないけれど、ほんとに嫌だ、レッドオーガ。


 追撃を食らわないうちにと、逃げるようにフィクスさんの元に駆けていく僕。

 恐る恐る振り返ってみると、右手と両膝を地面についたまま、睨みつけるように射貫く2つの赤と目が合った。


「やっぱり、まだ生きていらっしゃる」


 そうだとは思っていたけれど、そうではなければいいなと思っていた。

 左手に伝わってきた感触には、いまいち手ごたえがなかったから。


 身体の中の魔力の残りを計算しながら、大きく息を吐いた。

 さっきのをもう一度。


 魔力は足りるだろうか。

 そもそも、同じ攻撃が通じるだろうか。


 今度は、殺られるのは僕の方ではないのか。

 頭の中にマイナスのイメージがあふれ出してくる。


 それでも、もう一回やるしかない。

 このまま見ていても、絶対にあいつは死なないだろう。


 それこそ、こそぎ取った驚異的な回復力とまではいかないとしても、Aランク種族の強さに見合った回復はするかもしれない。


 そもそも、能力を永続的に奪えるのだろうか?

 もし、レザーの力に時間制限的なものがあったとしたら?

 今にも、オーガの体から白い煙が立ち上ったとしたら?


 間違いなく、僕とフィクスさんは殺される。

 だとしたら、この場で考えている暇などないのだ。


 残りの魔力が足りなかったとしても、それこそ相打ちのような結果になったとしても。

 少なくとも、フィクスさんだけは生かすことができる。

 僕だって、誰かを失うのはごめんですよ、フィクスさん。






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