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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
315/321

315.美容師~迷宮を攻略する16

 

「オーガって、フィクスさんができれば戦いたくないって言っていた、あのオーガですか?」


「そうだよ。中でも一番手ごわいレッドオーガが出るなんて……わたしにあの時の借りを返せってことなのかね」


「借り? あの時?」


「こんな状況で話すことじゃないね。とりあえず実体化した瞬間に、二人で魔法を叩きこんでみようか。後は臨機応変にいくよ!」


「わかりました。指示出しをお願いします!」


 弧影を左手に魔言を紡ぐ。

 どの魔法にするか迷ったが、一番使い慣れている『アクアブーメラン』にしよう。

 横から聞こえる魔言でわかったが、フィクスさんも『エアハンマー』に決めたみたいだ。


「ガァルルァー!!」


 僕達を見つけたオーガが叫んだ。

 耳に聞こえる音だけでなく、圧力となって体にも響く。

 もしかして魔物特有のスキルだったりするのかもしれない。


 両手を前に突き出したフィクスさんが、先に撃てと視線で合図をくれたので、肩の上で握りしめていた『アクアブーメラン』を≪回転≫を意識した≪投擲≫で思い切り振りぬいた。


 投げっぱなしで回収するつもりはなかったので、無色透明の水の刃が空気を切り裂いて飛んでいく。

 その的であるオーガの両手には武器がない。

 ならば体ごと避けるしかないはずなのに、視認できないせいなのかどっかりと足を開いて待ち受けている。


 当たる! と思った瞬間、オーガが握りしめた拳で宙を殴ると、パンッと音がして、水がはじけ飛んだ。

 爆発するように飛び散る水を見て、


「……嘘だろ」


 思わず、言葉がこぼれてしまう。

 力づくで『アクアブーメラン』を壊したのか?


「やっぱりダメか」


 呟きながら、フィクスさんが両手から『エアハンマー!』を繰り出した。

 さすがに面での衝撃は殴り飛ばせないようで、両腕をクロスさせて数メートル後ろに下がったがダメージらしきものは感じられない。


「時間がないから簡潔に説明するよ。オーガの攻撃は両手両足を使った格闘のようなもの。それに噛みつきと頭の角による頭突き。いわゆる脳筋タイプだから魔法は使用してこないはずだよ。

 ただかなり力が強いから、一発喰らったら骨や内臓は損傷すると思った方がいい。わたしは目を潰すことに専念してみるから、ソーヤ君は首を狙ってくれ! それが難しいようなら足の膝裏辺りを頼んだ」


 早口で要点だけを伝えて、レイピアを構えたフィクスさんが金髪を靡かせて駆けていく。

 脳震盪くらいは起こしたのだろうか。

 両腕を下ろしたオーガは少しふらつき、二度三度と頭を振っている。


 でも、フィクスさんの『エアハンマー』を受けて脳震盪レベルとは、どれだけ打たれ強いのだろう。

 左手の孤影を右手に持ち替えて、すばやく魔言を紡いでいく。


 魔素が集まる感覚で僕が魔法を撃つことがわかったのだろう。

 フィクスさんが左斜めに進路を変えて、僕の『アクアバレット』の射線を開けてくれたので、5つの『アクアバレット』をオーガの頭部と足を狙うように撃ち、それを追いかけるように僕も走り出した。



 レッドオーガは右手の一振りで『アクアバレット』3つを吹き飛ばし、両足を狙った2つはかなりずれて腰の辺りに当たったが、ダメージどころかよろめきもしなかった。


 威力のない魔法では牽制にもなりはしないのか。

 落ち込んでいる暇もなく、フィクスさんのレイピアをうっとおしそうに殴りつけ、魔法を撃った犯人である僕に向かって、両手を振り上げたオーガが駆け寄ってきた。


 手のひらの中で孤影の束を握り直し、両足を肩幅に開いて迎え撃とうとしたが、近づいてくるオーガの迫力に足が竦み膝が震えた。


 あんなに太い腕を孤影1本で受け止められるのだろうか?

 脳裏に浮かんだ疑問に、体が勝手に答えを出した。


 すばやく左手がもう一本の孤影を引き抜き、右手の孤影に添わせるように平行の形に刃を置いた。

 向こうが2本なら、こちらも2本だ。


 あとは使えるものは使う。

 久しぶりだけれど、スキル全開放で!

 くる、くる、くる……来た。


 振り降ろされる両腕を少し斜めに傾けた2本の孤影で受け止めた瞬間、それぞれを手のひらの中ですばやく回すと、オーガの体が両腕と一緒に右側に流れた。


 近くでタイミングを計っていたのだろう。

 そこに風のように颯爽と現れたフィクスさんが、レイピアの切っ先をオーガの右目に突き入れる。


「ギャオォォ」


 予期せぬ痛みの為、反射的に振り回したオーガの右腕がフィクスさんの側頭部をかすって、少ないない量の金髪を千切り飛ばした。

 こんな時なのに、僕の視線はオーガではなく宙を漂う金色に固定されてしまう。


「ソーヤ君! 早く離れて!!」


 慌てて背後に飛びのくと、オーガがその場で両手をやたらめったら振り回している。

 僕達にとっては運よく、右目の血が左目にも入って、視界を塞いだようだ。


「チャンスだね。使うならここか」


 僕の隣に移動してきたフィクスさんが、レイピアを腰に戻して聞いたことのない魔言を紡ぎはじめた。





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