表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
312/321

312.美容師~迷宮を攻略する13


 レイピアを右手に、フィクスさんが駆けていく。

 いつもあの人はこんな感じだな。

 苦笑しつつ、僕も孤影を片手にコボルトメイジに向かう。


 本当は相手が魔法を撃って、それを躱すなり防御するなりしてから向かいたいところだけれど、相方が今にも剣を交わそうとしているのでそんな時間は僕には残されていないのだ。


 コボルトメイジの杖の先に火の玉が生まれた。

 あとはあれをフィクスさんか僕に向かって飛ばしてくるのだけど、フィクスさんは左に進路を大きく取って斜めに駆けていく。


 左側にいたコボルトソードマンが身体の立ち位置を変えて、体ごと目で追っているが、右側のソードマンは真っすぐに僕を見据えて動かない。


 二匹のコボルトソードマンを相手すると言っていたけれど、あの右側の奴はどうするつもりなのだろう。


 コボルトメイジが僕に向かって火の玉を飛ばしてきたので、大きく右に迂回しながら躱す。

 これくらいのスピードならば、あまり近づきすぎなければ余裕をもって避けることができそうだ。


 コボルトメイジが再び魔法の準備を始めたので、今がチャンスと一気に距離を詰める為に走るスピードを上げた。


 それを見て右側のコボルトソードマンが斜め前に体の向きを変え剣を構えなおすが、急に後ろからの衝撃を受けてつんのめる様に飛んで行き壁に激突した。


 その衝撃の犯人はフィクスさんで、大胆にも左側からコボルトメイジの背後を駆け抜け、右側にいたコボルトソードマンの背中に蹴りを入れたのだ。

 しかも左手では、左側にいたコボルトソードマンを掴んで引きずりながら。


 フィクスさんがレイピアを持つ右手を掲げて、視界の端を駆けていく。

 笑顔で僕に手を振る余裕まであるみたい。


 フィクスさんにとって、この3匹はどれだけ格下なのだろう。

 いくらなんでも遊びすぎではないのか。


 取り巻きを倒されて1人きりになったコボルトメイジは、何が起こったのかもわからずに突然消えたコボルトソードマンをおろおろと探しているが、フィクスさんが左手に掴んでいたソードマンを投げた音でその居場所に気がついたのだろう。


 覚悟を決めたように僕を睨みつけ、後ずさりながらも魔法の準備を始めたようだ。

 狙いを付けるように、杖の先を真っすぐ僕に向けてくる。


 あまりの出来事に走るのをやめて立ち止まってしまっていた僕は、とても中途半端な位置にいて悩んでいた。

 前に出て剣で攻撃するべきか、はたまた一度距離を取り魔法を躱してから前に出るのかだ。


 まだコボルトメイジが魔法を撃つには時間があるので、ちらっとフィクスさんを見ると、2匹のコボルトソードマンを相手にしながらもこちらに顔を向けていた。


 何故か左手の親指を立ててサインを送ってくる。

 ただ、その意味は不明だ。


 予め決めているわけではないので、理解不能。

 そこから感じ取れるのは、こちらは余裕なので好きにしろ、ということかな。


 だとすると……僕は孤影を顔の前で立てて≪集中≫を使用。

 あとは≪魔力操作≫でいいのかな。


 孤影を握っている手のひらから魔力を押し出すように意識して、剣の先まで染み渡るように……ちょっと待って。


 そう言えば、フィクスさんは何やら魔言っぽいものを呟いてはいなかったっけ?

 僕、それを聞いていないので知らないし。


 集中すれば、魔言なしでもいけるものなのだろうか?

 目の前の剣は光を纏うことなく、うんともすんとも言わない。


 焦る僕のことなんかお構いなしに、コボルトメイジの魔法が発動した。


 向かってくる『フレイムボール』を切り裂くことしか考えていなかったので、両足は地面にべったり付着したように動く準備ができていない。


 こうなったら……孤影を目の前で横に構えてスキル発動!

 5本の指を使って孤影の束を手のひらの中で回すと、軽い衝撃とともに火の玉が頭上をかすめるようにして後ろに飛んで行った。


 背後を振り返りはしなかったが、壁に当たって爆発したんだと思う。

 そんなような音が聴こえた。


 で、できた……のかな?

 思わず首を傾げていると、ドカッと大きな音がして風を纏って走り寄ってきたフィクスさんが孤影を持つ僕の右手を掴んできた。


「ソーヤ君! 今の何!? 君、今、何をしたんだい!?」


 興奮しているのか顔が近い。

 顔が近いのも問題だけれど、金色の長い前髪が僕の鼻先にくっついてしまいそうで緊張する。


「ねぇ、聞いているのかい? 見ていた感じだと、剣に魔力を纏わせるのには失敗していたと思うんだけれど、それなのにどうして魔法を弾けたんだい?

 光は見えなかったけれど魔力を纏わせることに成功したのかい? それとも魔法に触れる瞬間にだけ魔力を纏ったとか?

 そうじゃないとおかしいじゃないか!! 魔力を纏わない武器で、魔法を弾けるはずがない!!」


 どうやら僕は、何かおかしなことをしてしまったようだ。


「さぁ、早く。白状するんだよ、ソーヤ君!」


 フィクスさんが僕の腕を左手で掴んで、ぐいぐい引っ張ってくる。


「えーと、フィクスさん。まずは魔物を倒さないと」


「2匹はもう倒したよ」


 あのドカッという音はソレのようだ。


「まだメイジがいますし」


 無言でフィクスさんがレイピアを振り上げて、投げた。

 レイピアの切っ先がコボルトメイジの胸の中に消えていった。


「今倒した」


「メイジは僕の相手だったんですが」


「うん、ごめん。後でいくらでも謝るから、そんなことよりも説明を」


 レイピアを放った右手までも僕の体に伸びてくる。

 するしかないのだ、説明を。


 はたして僕に上手く説明ができるだろうか。

 フィクスさんの納得するような説明が、だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ