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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
310/321

310.美容師~迷宮を探索する11

 

 交代して水を浴び、着替えなど持っていなかったので、ドライヤー魔法で洗った服を乾かしていたら、濡れたままで着ていたフィクスさんに羨ましがられたのでついでに乾かしてあげた。


 さすがに防具は洗えないので、濡れた布で拭くだけに留めた。

 迷宮から出たら、グラリスさんに丸ごと整備を頼むとしよう。


 食べ飽きてはいたけれど美味しくない食事と水を飲む。

 空腹には耐えられないのか、不味そうな顔をしながらもフィクスさんも我慢して食べていたので少し笑ってしまったら顔をしかめられた。


 疲れもあるし時間もちょうどいいということで、仮眠を取って3階層への階段を探す。


 フィクスさんの風属性魔法を使った探知によれば、この階層には魔物の気配はまったくないらしい。

 先程のラッシュで全て吐き出してしまったのだとか。


 あとは罠を警戒しながらのんびりと探索をしていると、1階層の時と同じく赤い扉を見つけた。

 ボス部屋ということだ。


「フィクスさん、この階層のボスはなんだと思います?」


「そうだねぇ。通常の魔物が犬鬼だから……犬鬼かなぁ」


「ボスなのに犬鬼なんですか?」


「いや、たぶん魔法を使う犬鬼とか」


 魔法を使う犬鬼かぁ。

 フィクスさんと一緒になって考え込んでいると、ふともっさんとの会話を思い出した。

 ファンタジーにおける代表的な魔物といったら何か、という話だった。


「スライム、ゴブリン、コボルト……コボルトシャーマン? マジシャン? いや、マジシャンだと手品師になっちゃうのかな。だとするとウィザード? なんだかかっこよすぎるような」


 ぶつぶつと一人で呟いていると、フィクスさんが珍しいモノでも見るような眼で僕を見ていた。


「なんとも懐かしい言葉を知っているねぇ。どこで誰に習ったんだい?」


「えっ? どの言葉のことですか?」


「今、ゴブリンやコボルトって言ったよね? それは小鬼と犬鬼をさす、とても古い言葉なんだ。話して通じるのは、わたし達エルフや他の長命種くらいじゃないかな。

 もしかしてソーヤ君、年齢誤魔化していたりする? もしくは人種じゃなくて別の種族だったり?」


「いえ、年齢も誤魔化していないし、間違いなく人種ですよ。どこで誰に聞いたのかは覚えていないんですけど、頭の片隅に残っていたのを今思い出したので」


 しどろもどろながらもなんとか誤魔化すと、疑いつつもフィクスさんは信じてくれたようだ。


「まぁ、そういうこともあるのかな。

 魔物の名前はねぇ、地方によっても呼ばれ方が違うこともあるし、誰が聞いてもわかりやすいようにって、昔の冒険者ギルドが統一しようと頑張ったらしいよ。

 でも全てを完全にとはいかなくて、少しずつ冒険者ギルドによって呼び方を決めなおしてもいるみたい。でも久しぶりに聞いたからびっくりしたよ、ほんと」


 古い記憶と共に誰かを思い出しているのだろうか、とても優しい顔つきでほんのりと口元が笑っている。


「ってことは、一階層はゴブリンで2階層はコボルトで合ってます?」


「うん、合っているよ。ちなみに1階層のボスで出てきた中鬼は古い呼び方で言うとホブゴブリンで大鬼はオーガだったかな。

 そうそう、魔法を使う魔物は名前のあとにメイジって付くのが一般的だね」


 立てた人差し指を振りながら、魔物の呼び方を教えてくれる。


「ということは、魔法を使う犬鬼はコボルトメイジ?」


「正解だね。よくできました」


 ご丁寧に、手を叩いて褒めてくれる。

 もしかして、古い魔物の名前を決めたのは僕みたいにこの世界にやってきた日本人だったりするのだろうか?


 でも、勝手に翻訳されたりするかもだから、他の国の地球人だったり。


 新しい疑問がわいてきたが、あまり考え過ぎるとアレなので、よくわからないけれどそういうことかも、と思うだけにとどめておく。


「さて、魔物の名称講座はこんなところでいいかな。また機会があれば教えてあげよう。もちろん、ソーヤ君が希望するならだけど」


「はい。時間がある時にでもお願いします」


「了解だよ。じゃ、ボス戦といこうかね。準備はいいかい? 開けるよ」


 準備はいいかと聞いておきながら、僕の返事を待たずに扉を開けてしまっているし。

 ため息をつきながらも、右手を孤影の束に添わせる。


 フィクスさんの予想が当たりなら、2階層のボスはコボルトメイジだ。


 魔法を使う魔物とはあまり戦った経験はないし、何より人型で知能もそこそこあると言うし、警戒だけは怠らないようにしよう。


「魔法を撃つとこ見たいよね? 最初は防御に徹して、向こうに攻撃させてみようか?」


 レイピアを抜いてわくわくしているフィクスさんをしり目に、部屋の中央付近に現る魔物に注目する。


 1匹ではなく3匹出てくるようだ。

 ボス戦は1匹相手だと思い込んでいたので、少し警戒を強めることにした。


「やっぱりコボルトメイジだね。しかも取り巻きつきかぁ。

 あっ、こっちの呼び方でもいいかな? 発音しやすいんだよね。どこかエルフ語に似ているところがあって」


「どちらでもいいです。それよりも、取り巻きの2匹って、普通のコボルトとはちょっと雰囲気が違いませんか?」


「うん、よく気がついたね。あれはコボルトメイジを守る為の犬鬼剣士だよ。えーと確か、コボルトファイターだったかな? それともソードマン? どっちでもいいか。

 簡単に説明すると、普通のコボルトよりもちょっと強い感じ。短剣が長剣になっているでしょ? ソーヤ君なら大丈夫だから。油断しなければ簡単に倒せるよ」


 油断しなければ簡単に倒せるとは、なんとも不思議な言い方で首を傾げたくなる。


 とりあえずフィクスさんは待ちの姿勢のようだし、僕も相手の魔法は見てみたい。

 いつでも動けるように、爪先に重心を移動させておこう。



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