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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
307/321

307.美容師~迷宮を探索する8

 

 たった数秒出遅れただけなのに、フィクスさんの隣に並んだ時にはすでに3匹を倒終わっていた。

 2匹はレイピアで切り捨て、残りの1匹は回し蹴りで壁に叩きつけていた。


 なんとなくわかっていたけれど、剣術に魔法だけではなく体術まで一級品だとは……Bランクって、ほんと凄い。


「遅いよー、ソーヤ君。ついでだから倒した数で勝負でもしようじゃないか。勝った方は負けた方の言うことを何でも1つ叶えるということでー! 現在のスコアは3対0でスタート!!」


 勝手に賭け事まではじめてしまい、しかもまた一人で前に飛び込んでいく。


 ここで賭け事なんてしませんよー! 等と言っていてもすでに聞いていないことはわかっているので、無駄な抵抗は諦めて有効な抵抗をすることに。


 このまま数歩分遅れていては、すでに3対0で負けているのに次の集団の5匹まで総取りされるのが目に見えているので、せめて右の2匹だけでもと≪脚力強化≫で追いすがる。


 金髪を靡かせて駆けているフィクスさんの横に並ぶと、「おっ、来たねっ」と笑いかけてきた。


 犬鬼は先頭が並んで2匹、その後ろに1匹、そのまた後ろに2匹……あとはもうぞくぞくとやってきている。


 とりあえず右の1匹を貰って、次の1匹もなんとかこっちで倒して、次の2匹の右を倒して……頭の片隅で行動を組み立てながら下手に孤影を構えながら走る。


 けれど、僕は現在3対0でフィクスさんに負けているんだ。

 なのに、最初から向かってくる魔物の半分で納得していていいのだろうか?


 それに僕だって少しくらいフィクスさんに意地悪がしたい。

 どうせこの後は乱戦でグチャグチャになるんだし、ここで3対3のイーブンに戻して始めたいじゃないか!


 僕は短く息を吐き、左手を添えていた黒錐丸を抜いて素早く投擲した。

 走りながら狙いをつけた割には、運よく左側にいた犬鬼の首に吸い込まれるように突き刺さっていく。


 ちょうど刺突を放とうとしていたフィクスさんより、数秒早く僕が倒したことになる。


 右側の犬鬼には構えている短剣をかいくぐる様に孤影を下から振り上げ首を跳ね飛ばした。

 これで3対2だ。


「あーっ! ズルいよ、ソーヤ君!! 遠距離攻撃はなしの約束だよ!!」


「魔法は使っていませんので、ルールは破っていませんっ!」


 左側を並走しながら文句を言ってくるフィクスさんに対して、僕は次の犬鬼だけに視線を固定して対応し、今のうちにと心臓付近に剣先を突き刺す。


 前に倒れこんできた犬鬼が邪魔になるので、後ろ回し蹴りで壁際に蹴り弾く。


「これで3対3の同点ですねっ」


 フィクスさんに微笑みつつも告げると、ズルいズルいとブーブー文句が飛んできた。

 それを無視しつつ、残りの2匹もこちらで貰おうと狙いを定めるが、


「そっちがその気なら、こっちにも考えがあるよ」


 小さな呟きなのに、何故だか僕にははっきり聴こえた。

 そして、聴こえてはいけないはずのものが。


「ちょっ、ちょっとフィクスさん!? 約束は?」


 そう問いかけた僕の言葉をかき消すように、フィクスさんが叫んだ。


『エアハンマー!!』と。


 不可視の風の衝撃が、犬鬼2匹を吹き飛ばしていく。

 そして後続の犬鬼をも巻き込んで、もみくちゃになって通路の奥にぶち当たっていった。


 10匹以上の犬鬼が、ぐちゃりぐちゃりと地面に落ち重なっている。


「イェーイ! これで15対3だねー。さすがわたしっ! 大きく勝ち越したね!!」


 思わず僕は足を止めてフィクスさんを見る。


「危なくなるまで魔法は無しって約束じゃなかったんですか? 自分で言い出したんだから、罰ゲームも受けてくださいよ?」


「ふふん、ソーヤ君。負け惜しみはそのくらいにしておきたまえ」


 自分が悪い癖に、何故か偉そうに髪の毛をかきあげているので無性に腹が立つ。

 その自慢の髪の毛を切り刻んでやりたい。


 いや、毛先を綺麗に整えさせてもらえればそれでいい。

 なんなら、少しブローさせてもらうくらいでも。


 自らの思考がおかしくなり始めたので、ブンブンと首を振って両頬を手のひらで叩いた。


 そんな僕の奇行を不思議そうに眺めていたフィクスさんだが、改めて僕が冷たい視線を向けると、再び「ふふんっ」と鼻を鳴らした。


「フィクスさん、アウトです」


 右手の親指を立てて示す僕に、フィクスさんがやれやれと首を振った。


「ソーヤ君、よーく思い出してみなよ。わたしの言葉を、わたしはなんて言ったかな?」


 マリーばりのジト目を向ける僕に、フィクスさんがちょっと焦り気味に続けた。


「わたしはこう言ったはずだよ。『危なくなるまでは魔法は無しで!』と」


 僕は一切口を開かずに、ただただフィクスさんを見つめた。

 いったこの人はどう言い逃れをするのだろう、と心の中ではちょっと楽しみだったりするのだがそれは外に出さないように。


「確かにわたしは魔法を使ったさ! けれどね、わたしは『危ない』と思ったから魔法を使ったのだよ!

 そう! このままではわたしが勝負に負ける危険があると感じたからさっ!!」


 どうだ! と胸をはるフィクスさんを見つめ僕はため息をついて言葉を捧げた。


「わかりました。フィクスさんの反則負けということで」


「なんでさっ!?」


「なんでもなにもないですよ。ほらっ、後続が来たみたいですよ。とりあえず勝負はおいておいて、倒しきってしまいましょう」


 フィクスさんが使ったのだから、魔法はもう解禁でいいのだろう。

 なんだったら、僕の方も勝負に負ける危険を感じたので、としてもいいわけだし。


 元から勝負をするつもりはなかったし、ちょっと残念ではあるけれど純粋に戦闘訓練といこうじゃないか。




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