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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
303/321

303.美容師~迷宮を探索する4

 

 誰かに肩を揺らされる振動で目が覚めた。

 閉じようとする瞼を手の甲で擦って無理やりに開くと、薄っすらとした視界には微笑むフィクスさんの姿。


「おはよー、なんだかお疲れの様子だねぇ。なんだったら、もう少し眠るかい? わたしはそんなに眠くないから大丈夫だけど」


「いえ、もう目が覚めたので大丈夫です。僕が変わりますので、フィクスさんも休んでください」


「そうかい? 無理しなくてもいいんだよ?」


 心配そうに二度寝を勧めてくるフィクスさんに「大丈夫ですから」と繰り返し、横になって休んでもらう。

 しばらくすると規則正しい寝息が聴こえてきたので、眠気覚ましに冷たい水を飲み両手で頬を擦った。


 そして、自分が失敗したことに気づく。

 フィクスさんをいつ、どのタイミングで起こせばいいのか聞くのを忘れたのだ。


 時計なんてものはないので時間がわからない。

 わざわざ起こしてまでそれを尋ねるのも気がひけるし、仕方がないので起きるまで待つという戦法を取ることにしよう。


 もしくはある程度の時間が経ったら、わざと大きめの音を出してみるとか。

 そう決めてしまえば気持ちも楽になったので、お腹は空いていないが干し肉をかじる。


 すでにフィクスさんは食べることを放棄しているようだが、日本人の心情としてはいらないからと捨てることはできない。

 モゴモゴと口を動かすが本当に美味しくない。


 唾液と合わさっても、ただただ硬くて塩辛い。

 人任せにせず、今度はもっと美味しい食料を持ってこようと心に誓う。


 それか、無理やりにでも日帰りで街に帰るんだ。

 水の力を借りて干し肉を喉の奥に流し込んだ。


 やることがないので、迷宮の壁を1辺ずつ順番に眺め一周したら天井を見て地面を見た。

 興味をひくようなモノは特に何も見つからない。


 最近サボり気味だったシザーの開閉練習でもするかとシザー7を取り出して始めてみたが、思ったよりもシャキンという音が響いてフィクスさんを起こしてしまう恐れがあるので泣く泣く諦めることに。


 さて、本格的にやることがなくなってしまった。

 僕が寝ている間、フィクスさんはどうやって時間をつぶしていたのだろうか?


 こんなことなら、読書ようの本でも1冊カバンに入れておくべきだった。

 カバンを漁ってはみるが、入れていないのだからあるはずもない。


 これで今の自分にできることは瞑想ぐらい。

 無駄にはならないので目を閉じて瞑想することにした。



 ポーン、ポーンと頭の中で音が鳴り、スキルのレベルが上がる。

 聴こえてくるコエに瞑想を邪魔されつつも、これもいい修行になると自分に言い聞かせてそのまま続けた。

 音もコエも聴こえなくなる頃、かわりに布の擦れる音が聴こえた。


「うーん……おはよう。ソーヤ君、何しているんだい?」


 どうやらフィクスさんがお目覚めのようだ。

 どのくらい時間が経ったのかは不明だが、自主的に起きてくれたので起こす必要がなく一安心だったりする。


「やることがないので瞑想していました」


 答えつつも目を開けると、壁の発する光を感じる。


「それはそれは、こんな所でまで、真面目と言うかソーヤ君は勤勉だねぇ」


 ファー、と欠伸をしつつフィクスさんが褒めてくれた? のかな。

 水筒から水を飲み、「氷ちょうだいー」と口を向けられたので、魔言を呟き氷を入れてあげると、


「これこれ、これを知ってしまったら、ぬるい水なんてとてもじゃないけど飲めないよねー」


 喉を鳴らして水を飲み、ご満悦の様子。

 そんなに喜んでもらえるとこちらの気分も悪くない。


 そうだ、今なら、と試しに干し肉を差し出してみたが、「いらない」と短く断られた。

 どうしよう、干し肉の処理。

 自分の口に入れる気もおきないので、布で包んでカバンの中にしまった。



 休憩していた部屋を出てしばらく進むと大きな扉がある場所にたどり着いた。

 迷宮の壁の材質とは違い、赤い石のような材質で発行していない。


 何か模様のようなものが彫られているが、意味があるのだろうか?

 フィクスさんは少し離れた場所で立ち止まり、


「ふむふむ、やっぱりこう来たか」


 なんて訳知り顔で呟いているので、きっと想定内なのだろう。

 この先には何があるんですか? そう聞く前に元気いっぱいなフィクスさんが叫びながら進み、しかも扉を開けてしまう。


「さぁ、ソーヤ君! いよいよお待ちかねのボス戦だよ! 張り切っていこうじゃないか!!」


「ちょっとフィクスさん! さすがにボス戦? とかの説明くらいしてほしいです!!」


 非難してみるも、フィクスさんは聞く耳も持たずに扉の向こうに駆け込んでいった。

 仕方なく、僕も孤影を抜いて追いかけるしかない。

 数歩遅れてだが隣に並び、フィクスさんの視線の先を一緒に見つめる。





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