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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
302/321

302.美容師~迷宮を探索する3

 

 身体を休めつつも警戒だけは怠らないようにと、時折周りを気にする僕に、


「大丈夫大丈夫、この部屋はたぶん魔物が出てこないから。だからそんなことより、続きを早く!」


 駄々っ子のように手のひらで地面を叩いて催促してくるので、信じて話を続けることに。

 ちょうど女郎蜘蛛との戦闘シーンの途中だったのだ。


 最後まで話し終えると、喉がカラカラだったので、水筒の中の水を全部飲み干した。


 水属性魔法で水を補充して氷も入れておく。

 ついでにフィクスさんの分も満タンにして終了。

 お腹が空いたので、美味しくはないが硬いパンと干し肉を食べる。


 フィクスさんは何度か話の途中で質問をしてきたが、途中から何かを考え込むように眉間に皺を寄せたり、座り込んで腕を組んだり、はたまた手の平で額を抑えて天を仰いだりしていたが、気にせず最後まで話終えた。


 ここでついでに、というべきか、トイトットさんの妹さんのことも話しておくことにした。

 酷い貴族には僕もついこの間遭遇したので、他の地域にもそんな奴がいるのであれば聞いておこうと思ったからだ。


「悪い奴はどこにでもいるからねー」


 なんて鼻で笑っていたフィクスさんは、「ん? あれっ?」と呟いてパチパチと瞬きをし、


「そのソーヤ君の友達の妹を虐めた貴族って、この間のなんとかって言う男のことじゃないの?」


 なんてことを言うので、確かめることはできないがそうかもしれない、と僕もそんな風に思う。

 だとすると、間接的にだが、トイトットさんの妹の敵が討てたのならよかった、のかな?


 疑問形になるのは仕方がない。

 だって、あの事件は色々とありすぎたから。


「暗い話はここまででいいよね!

 それよりも、ソーヤ君のシザーってやつを見せておくれよ。いつもの戦闘じゃ使っていないよね? そのバックの中身についてはわたしも気にはなっていたんだよ!!」


 早く、早く、とフィクスさんが宙に浮かべた手のひらを上下に動かす。

 苦笑しつつも、僕はそっとシザー7をフィクスさんの手のひらに置いてあげた。

 もちろん、シザーの刃先はこちらに向けて。


 この世界に来てから不思議パワーのおかげか切れ味が段違いに増していて、不用意に触れるとかなり危ないからだ。


「刃部分は気をつけてくださいね。かなり切れ味が鋭いので」


「そりゃぁ、マッドウルフの腕をちょん切るくらいでしょ? わたしだって怪我はしたくないから気をつけるさ」


 フィクスさんは指を通す穴部分を一つずつ指で摘まんで両手で持ち、顔の高さで慎重に開け閉めしている。

 シャキン、シャキン、と音を響かせて開閉されるシザーは、迷宮の中の光を受けてキラキラと輝いているように見えた。


「ねぇ、ソーヤ君。これって武器なの?」


 目を細めて刃を見つめながらフィクスさんが尋ねてくる。


「厳密にいうと道具ですね。武器ではないはずなんですが」


 なんとも答えづらいことを聞いてくるので、しどろもどろになるのは許しほしい。


「でも、ソーヤ君はこれで奥義? 必殺技? そんな感じのことができるんでしょ?」


 女郎蜘蛛との戦闘シーンの中でシザー7の活躍まで話すのではなかった。

 他には? と聞かれて、マッドウルフとの戦闘で使用したことまで話してしまったし。


 ジストを治した時のことだけは辛うじて黙っていた。

 この世界には回復魔法はないようだし、その手段を持っていることがばれたら不味いような気がしたから。

 もちろん、フィクスさんなら黙っていてくれるかもしれないけれど。


「その……なんだっけ? 『カット』だっけ? もう一個のでもいいけれど、ちょっとやってみてくれない?」


 丁寧に閉じたシザー7を渡してきながら、満面の笑みでおねだりしてくる。


「えー、嫌ですよ。あれは原理が僕にもよくわからないですし。なんというか、遊び半分で使っていいモノではないような気がするし」


「なんだよー、ケチだなぁー」


 膨らんだ頬で唇を尖らせて、ぶーぶー文句を言いつつブーイングをしてくる。


「さぁ、疲れていることだし、そろそろ寝ましょう?

 本当にここには魔物が出てこないんですか? それでも一応、見張りは必要ですよね? 二人でそろって眠るわけにもいかないでしょうし。

 ということで、たくさん話して疲れたので、僕から先に休ませてもらいますね。だいたいの時間になったら起こしてください。変わりますから」


 逃げるように言い切って、毛布に横になりフィクスさんに背中を向けた。


「ちぇー、ソーヤ君の意地悪―。けちんぼー」


 悪態をつきつつも諦めたのだろうか。

 僕の体に触れて起こすようなことはせずに、ぶつぶつと呟く言葉だけが微かに聴こえた。


 それを子守歌代わりに、というといささか趣味が悪いが、疲れているのは本当で、すぐに僕は眠りに落ちることになった。






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