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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
30/321

30.美容師~特注の武器を依頼する

 

「なんと言うか、気持ちのいい人達ですね」


「だろ? まだDランクで(くすぶ)ってるが、そろそろCランクになってもおかしくねーはずだぜ」


「Cランクか……」


 Fランクの僕にはまだまだ先の話だ。


「で、今日はなんだ? 武器か? 防具か?」


「それが……」


 長剣が扱いづらいこと、短剣をメイン武器にしたいこと、もしあるならば円柱形の握りがいいこと、ナイフが欲しいこと等を伝え、


「せっかく長剣を選んでもらったのにすみません」

 と頭を下げた。

 

 黙って僕の話を聞いていたグラリスさんは、


「どうして謝るんだ? お前が使う武器だろ。好きな物を使えばいいじゃねーか」


 不思議そうに首を傾げる。


「そういうものですか?」


「そういうものだろ。相変わらず、変わった奴だな」


 金づちの柄の部分で、頭をポカリと殴られた。

 加減されていたので痛みはないが、つい殴られたところをさすっていると、


「で、円柱形の持ち手の短剣にナイフだっけか?」


「ありますか?」


「あるわけねーだろ、そんな変なもん。いったい、何に使うんだ? って、武器として使うんだろーけどよー、大丈夫なのか? 本当に」


「大丈夫だと思いますよ。少なくても僕には使いやすいと思います」


「そうかよ」


 グラリスさんは短く呟いて、工房の奥に入っていった。

 出てきた時には、両手に短剣とナイフが握られていた。


「この二本はどうだ? こいつでよければ、持ち手を円柱形に加工してやるよ」


「ナイフだけでいいんですが。短剣はこれがありますし」


 籠手からナイフを出して作業台に置くと、


「冒険者としてやって行くんなら、予備の武器くらい身につけておけ。短剣一本じゃ、心許ないだろ」


「ナイフがありますけど」


「馬鹿かお前は!? ナイフなんて剥ぎ取り用に毛が生えたくらいの品物だぞ。

 投擲ならまだしも、攻撃を受け止めたりしてたら、すぐに折れてダメになるのくらい、わかんねーかなー」


 わかりませんでした。

 ナイフで攻撃を受け止める気でいた僕は馬鹿でした。


「悪いことは言わねーから、短剣をメイン武器にするなら、短剣の二本持ちにしとけ。代金ならまけてやるからよー」


 ということで、ナイフと短剣をそれぞれ一本ずつ購入することにした。

 

 手持ちのお金が少ないので、長剣を買い取りしてもらい、足りない分はツケでいいとまで言ってくれた。

 なんとも、見かけによらず優しいものだ。


「とりあえず、このナイフと短剣から仕上げるぞ。身を守るもんは必要だから、1本はそのまま使っとけ。終わったら交換でいいだろ?」


「はい、それで構いません」


「持ち手の加工だけだから、明日の朝までには仕上げておいてやるよ。それよりよー、その籠手はどうだ? 使いにくいとかあるか?」


「いえ、すごく使いやすいですよ。手首を動かすのにも邪魔になりませんし」


「なら、いーんだけどよ」


 満足気にグラリスさんが頷いたので、


「明日、ギルドに行く前に取りに来ます」


 お願いしてその場を後にした。



 宿屋に帰り、女将に一角兎の肉を一匹分渡すと大層喜ばれて、夕食に焼いたものを出してもらえたので、いつもより豪華だ。

 

 スパイスの類が余り行き通ってないので仕方ないが、美味しいけれど、どこか物足りない。

 早く自分の家を持って自炊をしたいものだ。

 

 部屋に戻り、久しぶりにシザーに触れた。

 ロールブラシをクルクルと回して気がついたのだか、どうも指の感覚が鈍っていたので、開閉の練習だけでもしようと思った。

 

 7インチの1番大きなシザーを目の前で横に構え、ゆっくりと開閉させる。

 動かすのは動刃(どうば)の親指だけ。

 静刃(せいば)の薬指側は動かさない。

 

 毎日、仕事終わりにはよくやっていた、個人練習のようなものだ。

 

 無心で開閉かいへいを続ける。


 シャキシャキシャキシャキと聞き慣れた音が部屋に響き……100回で終了。

 刃こぼれがないか刃の具合を確かめ、シザーケースに納めた。

 

 理容師だった父親の形見のシザーで、美容師が使うには大きめだが、今ではスムーズに扱える。

 ロングヘアーを大きなシザーでスライドカットするのは、かなりカッコイイと同僚やお客にも評判だった。


 今度は1番小さなシザーを抜いた。

 美容師だった母親の形見で、5インチのシザー。

 

 6インチ前後を使用するのが一般的な中で、かなり小さめなコイツを母親はトリミングシザーと呼んでいた。

 父親の大きなシザーのことは、刈り上げシザーとも。

 刈り上げシザーは文字通り、父親は刈り上げをするのに使用していた。


 トリミングシザーを使用する母親は、丁寧に傷んだ髪の毛の先端や枝毛を切り落としていた。


『これで傷んだ毛はなくしたから、栄養をたっぷり取って、元気になるのよー』


 と、まるで植物に語りかけるように微笑みながら。


 目を閉じると浮かんでくる、両親の働く姿。

 あの頃が1番幸せだった。

 

 小さいながらも自分の店を持ち、忙しくても楽しそうに働く両親とそれを見ていた僕。

 僕もあんなお店を持ちたかった。

 持てるはずだった……。


 やめよう。

 まだ僕は諦めたわけじゃない。

 今はやるべきことをしているだけだ。

 

 この世界で生きていく為に力を付け、お金を貯めるんだ。

 いつか、自分の美容室を開く為に。





読んでいただき、ありがとうございます。


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