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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
298/321

298.美容師~スケルトンと戦う

 

 次に見つけたスケルトンとは、僕が一人で戦わせてもらうことにした。

 腰のポーチから出した聖水を弧影の刃に垂らそうとすると、何故だかフィクスさんにとめられる。


「どうかしましたか?」


 と聞いてみれば、初めは聖水なしで戦ってみれば、とのことらしい。

 スケルトンの硬さを身を持って実感してみろ、ということだ。


 危なくなればフィクスさんが助けてくれると言うので、やってみることに。


 緊張しながらも近づき、相手が動き出したので腕を狙うと、なんとか切り落とすことはできたが衝撃で剣を握る手首に痺れが走った。


 後ろに下がって聖水を使おうか迷ったが、痺れもすぐに収まってきたので今回はこのまま続けることにした。


 首から上を切り離そうと試みるも、フラフラとした動きに翻弄されてうまく狙いが定まらない。

 何度か剣を振るっていると、削れた胸の奥から魔核結晶が覗いていたので、その部分に剣先を叩きこんだ。


「うん、うまいうまい」


 フィクスさんが褒めてくれると、スケルトンはパタリと後ろに倒れこんだ。


「とりあえず首をはねて頭を潰しておこうか。用心しすぎるにこしたことはないからね」


 警戒しながら首に剣を叩きつけると、あっさりと頭蓋骨が離れてコロリと転がる。


「うん、大丈夫そうだね。でも、一応踏んでおいて」


「わかりました」


 足の裏をのせて体重をかけると、抵抗もなくグシャッと潰れて地面に足がつく。


「こっちもやってみるかい?」


 スケルトンの胴体部を指さすフィクスさんに頷き、胸の辺りを踏み抜くと紫色の魔核が白の中から零れ落ちてきた。


「嘘みたいに脆くなるんですね」


 指先で魔核を拾い上げフィクスさんに手渡す。


「でしょ? 不思議なもんだよねー。前回来たときは苦労させられたから。ソーヤ君にも是非ともこれを味わってもらいたくてさ」


「十分に味合わせてもらいましたよ。できれば次からは僕も聖水を使いたいものですね」


「どうぞどうぞ。好きなようにすればいいさ。

 打撃武器を使う冒険者からは『ストレス発散になっていい』って意見もあるけれど、わたしもできれば聖水を使いたいからね」


「他の土地でも、スケルトンは出るんですか?」


「うーん、あまり多くは出ないかなー。

 古い墓地の周りとか、亡くなった冒険者がきちんと埋葬されずに残っていたりとか、あとは迷宮なんかではその特性によるかも。出るところは出るし、出ないところはでない」


 迷宮っていうと、RPGゲームでいうダンジョン?

 この世界には剣や魔法だけではなくダンジョンまであるのか。


「迷宮ってダンジョンのことですか?」


「ん? 迷宮は迷宮だよ。ダンジョンって呼び方はあまり聞かないかな。ソーヤ君は行ったことないのかい?」


「はい、行ったことないどころか初耳です」


「そうなのかい。でも『行ったことがない』っていうのは間違いだね。だってここ、たぶん迷宮だから」


 ん?

 ここが迷宮?


 悪戯っ子のように笑うフィクスさんの言葉を聞く限り、僕は今迷宮にいるらしい。

 知らないうちに迷宮デビューをしていたのだ。


「それならそうと、出かける前に教えてくれてもいいじゃないですか」


 口調がどこかぶっきらぼうになるのは仕方がないと思う。

 だってせっかくの迷宮探索なのに気持ちの準備ができていないというか、意地悪をされた気分だ。


 素直に教えてくれていれば、マリーや師匠から情報収集だってできたかもしれないのに。


「あれ? 怒ってる?」


「別に怒ってはいないですよ。ただちょっと不満です」


「ごめんごめん。でも仕方ないじゃないか。わたしだってついさっき気がついたんだし。ここに来るまでは知らなかったんだから」


 苦笑交じりに謝ってはくれたが、『知らなかった』とはどういうことだ?


「そうなんですか? でもここに来たことはあるんですよね?」


「ああ、わたしが昔ここに来た時は迷宮じゃなかった。それは確かだね」


「でも今は迷宮なんですか?」


「うん、たぶん」


 迷いなく頷くフィクスさんだが、今度は『たぶん』が気にかかる。


「この辺りに魔物の気配はないし、歩きながら話そうか」


「はい、構いませんが」


「ああ、でも一応警戒はしておいてね」



 改めてフィクスさんの言い訳を聞くところ、昔ここを訪れた時は確かに迷宮ではなかったらしい。

 でも今は、たぶん迷宮だと思うんだって。

 それは、この場所が長い時間を経て『迷宮化』したということ。


 そういうことは珍しくはあるが、ないことではない。

 あくまでフィクスさんの言葉を信じるならば。


 ではその根拠は? と訊ねたところ。

 所謂『匂いが違う』との回答。

 僕にはわからないが、迷宮特有の匂いがするらしい。


 Bランク冒険者だからこそわかるものなのか、それとも何度も迷宮に潜ったことがあるからわかるものなのか、それはどちらとも言えるしどちらとも言えないとの答え。


 わかる人にはわかるし、わからない人にはわからない。

 そして、どうやらフィクスさんはわかる人の部類だと言うのだ。


 まぁ、僕にとっては経験値稼ぎができればいいわけだし、フィクスさんと一緒に迷宮探索ができるなら色々と教えてもらうことができるし、どちらにせよ悪いことではない。


 そう思い、納得したのでフィクスさんを許すことにした。

 許すも何も、本気で怒っていたわけではないのだけれど。

 どこか憎めない、親戚のお兄ちゃんのような存在だからたちが悪い。





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