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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
296/321

296.美容師~森の奥へ向かう

 

 門の前で待つ僕を見つけたフィクスさんが、片手を上げて小走りで向かってきたのでペコリとお辞儀することで返すと、


「悪いね、待ったかい?」


 まるでデートに遅れてやってきた彼氏のような言葉をかけられたので、


「いえ、今さっき来たところです」


 ひとり内心でほくそ笑みながら答えた。


「そうかい、ならよかった。ではさっそく出発と行こうかね」


 僕の言葉を疑う素振りなど見せずに、フィクスさんが門を出て歩き出したので、


「ですね」


 呟いて僕も後に続く。


「聖水は持ってきているよね?」


 何気なく聞いてきたフィクスさんに頷き、


「はい、ここに」


 腰につけたポーチの中に、回復薬と一緒に入れてあることを伝えた。


「使い方としては相手に投げつけてもいいけど、わたしとしては武器に垂らして使うことをおすすめするよ。なんといっても、1本しかないからね。大事に使わないとすぐになくなってしまうから」


「わかりました。そうします」


「もちろん、やばい相手には遠慮なしで投げつけておくれよ。いくら希少品だといってもわたしもそうするし、所詮命あっての物だから」


 茶目っ気たっぷりに片目を瞑るフィクスさんに笑顔で頷き、歩きながら質問することにした。


「それで、今日これから向かう場所についてなんですが、そのやばい相手に遭遇することはありそうなんですか?」


「うーん、そうだねぇ……わたしも久しぶりに向かう場所だからなんとも答えづらいところなんだけれど、やっぱりなんとも言えないかな」


 顎に手を当てて数秒考えこみ、


「行ったことがあると言っても、ずいぶん昔のことだし、結局はわたしにとっても未知の体験だということで、答えは不明としておこうか」


 結局はそんな回答しか得ることはできなかった。



 ニムルの森に入り、泉を越えて歩くこと2時間程度。

 目の前には緑の蔦に覆われた、石でできた山というか、神殿のような建物がある。


「さて、入る前に腹ごしらえといこうじゃないか」


 周りを見渡して魔物の気配がないことを確認すると、フィクスさんが地面に腰を下ろして干し肉と黒パンをかじる。


「はい、これはソーヤ君のぶんね」


 手渡されたものを受け取り、僕も腰を下ろして干し肉をナイフで薄く削り口に入れた。

 塩っ辛くて美味しくない。


 パンも硬いし、お腹を膨らせる為だけの食事だ。

 ただ、これを怠って戦闘時に空腹に苛まれることは避けたいので仕方がないともいえる。


「ほんと、不味いよねコレ」


 パンを噛みながら顔をしかめるフィクスさん。


「わかっていて買ったんですか?」


「うん、だって手間がかからなくて保存もきくし、何より楽だから」


 悪びれることなくあっけらかんと言われた。


「僕は楽じゃなくても、美味しい物が食べたいですね」


 無理やり口の中に黒パンを押し込み、水でなんとか流し込む。

 フィクスさんはというと、ほんの少しずつ咀嚼しただけで、もういらないとばかりにそこらにポイっと投げ捨てた。


「食べないんですか?」


 地面に転がる黒パンと干し肉を指さすと、


「だって不味いんだもの」


 子供のように唇を尖らせて、首を振ることで拒否を示した。


「さて、お腹も膨れたことだし出発しようか!」


 元気いっぱいに伸びをして、僕の返事を待つことなくフィクスさんが神殿の入り口に向かうので、僕はため息を一つついて背中を追いかけることにした。


 なんだか緊張感がわかないけれど、油断だけはしないように、と自分の言い聞かせながら。




 火属性魔法が使えないフィクスさんのかわりに僕が『トーチ』を使い、二つの光の玉を出して前後に一つずつ浮かべた。


 僕が水属性魔法と風属性魔法だけではなく、少しだが火属性魔法も使えることはフィクスさんにはすでに打ち明けてあるので僕から提案したのだ。


 もちろん火属性を込めた魔玉を使えばフィクスさんにもできるのだろうが、僕ができるのだから使うのはもったいないし、使うべき場面になればその時に使えばいい。


 万が一僕とフィクスさんが離れ離れになって、その時に魔玉が手元にないと困るだろうし、と。


 僕だって魔力量には限りがあるが、トーチのひとつやふたつくらいなら微々たるものだし、歩いているうちに回復するだろう。

 ということで、薄暗い入り口を通り抜け、廃墟のような石の神殿を探索開始だ。



 通路は二人並んで歩くこともできるくらいに広さはあるが、フィクスさんが前衛で僕が後衛という配置で進むことにした。


 フィクスさん曰く、弱い風を前方に送り込んで見えない場所まで探査するスキルをお持ちらしい。

 それに種族特性上、スキル≪暗視≫も僕より上のレベルだと言うし、お言葉に甘えさせてもらうことにしたのだ。


 そのかわり、僕は背後を警戒する役目。

 いつぞやのように、壁を破って横から魔物に襲われる可能性もないとは言えないし、≪気配察知≫と≪危険察知≫は常にオンにしておく。


 ポーン、ポーン、と頭の中で音が鳴り、スキルのレベルが上がったが、もうこうなれば気にした方が負けなような気がするし、いっそ好きなだけ上がれ。


 これは悪いことではない、良いことだ。

 そう思い込むことにした。




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