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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
294/321

294.美容師~寵愛について聞く

 

「……ソーヤ、それではさすがにわたしにも意味がわからない。

 それの何が問題なんだい? 内容だけ聞けば困るというよりも喜ぶべきことだとわたしは思うんだがね。でもそうではないんだろう?」


「ええ、そうです。ええと……何から説明すればいいんだろう」


 隠すべきこと、打ち明けてもいいこと、その境界線を瞬時に引くことができなくて言葉に詰まる。

 称号については話すしかないし、でもリリエンデール様とのことは話してもいいのかわからないし、ここではない世界から来たことは……やっぱり話せないよな。

 悩み始める僕をじっと見つめていた師匠が、小さく息を吐いた。


「ソーヤ、これでもわたしはあんたの師匠のつもりだよ。もちろん言葉だけじゃなく、心からそう思っている。その上で、あんたがわたしに話してもいいと思うことは話せばいいし、話せないと判断したことは話さなくてもいい。ただ、本当に困っていることを解決したいのなら、できる限りの情報は必要になるよ。じゃないとわたしにだって、どうしてやることもできないからね」


 僕を気づかって、優しい笑みでそう言ってくれた師匠の気持ちが伝わってくるだけに辛い。

 言えないことが辛い。

 黙っていることが辛い。


 もういっそ、全てを打ち明けてしまってもいいんじゃないか?

 そう思えてくるのが辛い。


「口止めが必要なことなら、誰にも話さないと約束してやる。それこそ墓まで大事に持って行ってやる。

 それにあと何年生きられるかわからないこの身だけれど、生きているうちは何があってもあんたのことを守ってやるよ。これでもあんたの師匠になると決めたんだからねぇ。大事な弟子を見捨てることはしない。『青のイリス』の名にかけて誓ってもいい」


「師匠……」


 師匠の優しい言葉に涙がこぼれそうになった。

 ここまで言ってくれるのであれば、師匠にだけは僕の秘密を打ち明けるべきなのだろう。

 まだ全てを打ち明けることはできないとしても、その一端だけでも話すことにしよう。


 だって僕は、師匠の弟子なのだから。

 『青のイリス』の最後の弟子なのだから。


 いずれ、『青』の名を受け継ぐことを期待され、その意思を持つ者なのだから。

 僕はシザーケースから手帳を出してノートにし、師匠の前に広げて出した。



==


 名前 ソーヤ・オリガミ

 種族 人間 男 

 年齢 26歳

 職業:剣舞師

 レベル:2

 HP:40/80 

 MP:40/80 

 筋力:52   

 体力:52   

 魔力:56   

 器用:104  

 俊敏:58   


 テクニカルスキル:シザー7 6300/???

 《Lv1》カット

 《Lv2》チョップカット


 テクニカルスキル:トリミングシザー 

 トリミング


 ユニークスキル:言語翻訳《/》、回転《Lv7》、観察《Lv7》、好奇心耐性《Lv2》、調色《Lv4》、意思疎通(普通種)《/》


 スキル:採取《Lv5》、恐怖耐性《Lv5》、身軽《Lv5》、剣術《Lv6》、聴覚拡張《Lv5》、気配察知《Lv5》、投擲《Lv5》、集中《Lv7》、忍び足《LV6》、脚力強化《Lv6》、心肺強化《Lv4》、精神耐性《Lv1》、調合《Lv1》、《魔力操作Lv5》、《水属性魔法Lv5》、《危険察知Lv3》、《氷属性魔法Lv5》、《風属性魔法Lv4》、麻痺耐性《Lv2》、暗視≪Lv3≫、筋力強化≪Lv1≫


 称号:女神リリエンデールの寵愛 女神リリエンデールの使徒


 装備:シザーケース、月刀×2、黒錘×2、黒夜叉の胸当て、黒曜の籠手、黒夜叉の籠手、黒夜叉の脛当×2、シガー、


 ==



 

「見てもいいのかい?」


 師匠の問いかけに、僕は黙って頷くことで返した。

 師匠がソファーに手をついて身を乗り出し、目を細めてノートを凝視する。


「あんたまだレベル2のままなのかい? それにしてはステータスの数値が高いのが気にかかるねぇ……でも今回の問題はそれじゃないんだろう? それに相変わらず、凄まじいスキルの数にレベルだけれど……」


 師匠の目線が上から下へと移動していき、ピタッと止まった。


「これかい? これがあんたが抱えているモノなんだね」


 師匠の指さす先には称号が書かれた場所。


『女神リリエンデールの寵愛』と『女神リリエンデールの使徒』


「昨日、女神リリエンデール様の神殿で洗礼を受けたんです。ある友人とちょっとした用事で訪れて、その流れでというか、僕がまだ女神様の洗礼を受けていないという話からその場で急遽受けることになったというか」


「ふむ、女神様の洗礼かい。魔法を習いたいってことだったから法神様の洗礼を受けているものだとばっかり決めつけていて確認はしなかったけれど……そうかい、ソーヤは洗礼を受けていなかったのだね。それで? リリエンデール様の『祝福』を賜ったのかい?」


「ええ、その通りなんですけど……師匠は女神様の『祝福』についてご存知ですか?」


「ああ、わたしも持っているからねぇ。一応、あんたよりは存じているつもりだよ」


 ん?

 師匠は今なんと言った?

 聞き流しそうになったが、師匠は今、さらっと凄いことを言わなかったか?


「あの、師匠? 僕の聞き間違いじゃなければ、師匠も女神様の『祝福』を持っているとか聴こえたんですが」


「ああ、そう言ったよ。わたしも若い頃に法神様の『祝福』を賜ったことがあるからねぇ」


「そんなこと聞いてないですよ!?」


「だって、ソーヤ。あんたわたしに聞いたかい? 『女神様の祝福を持っていますか?』って」


「それは、聞いていないですけど」


「だろ? なのになんでわたしが文句を言われなくちゃいけないんだい? それに、あんた以外の他の奴に聞かれたとしても、わたしは『持っていない』と答えただろうけどねぇ」


 あっけらかんと言い放つ師匠に、何か言い返したいけれど言葉が出てこない。


「あんたも、『祝福持ち』だってことはむやみやたらと話すんじゃないよ。面倒なことになるからねぇ」


「ええ、自分から誰かに話すつもりはありませんが」


「それならいいよ。それで? 『祝福』についてだったかい? 特に話す必要がなかったから話さなかったけれど、わたしは若い頃、それこそ冒険者になってしばらくした時だから……まだ10代の半ばくらいの時だったかねぇ。

 当時魔法を教えてもらっていた師匠の勧めで女神ブランシェアラ様の神殿で洗礼を受けたのさ。魔法を司る女神様だし、師匠の勧めもあったし、当時も序列第1位だったし、理由は様々だったけれど、まぁ興味半分というか、まさかこのわたしが『祝福』を賜るなんて心にも思っていなかった。あんたもそうだったんだろう? ソーヤ」


「はい、その通りです」


「まぁ、わたしも驚いたよ」


 僕の答えを聞いて、小さく呟きながら師匠が続ける。


「それで『祝福』についてだけれどね、わたしの場合は『法神様の祝福』だったからか、魔法を扱う能力が飛躍的にアップしたよ。

 たぶん、その女神様の司る権能が強化されるのが『祝福』だとわたしは考えている。他の『祝福持ち』に確認したわけではないから、確かか? と聞かれればわからない、と答えるしかないけれど、間違えてはいないとわたしは思っているよ」


 知識と魔法を司る『法神様の祝福』だから魔法に関する能力に強化がかかったわけか、だとしたら好奇心と才能を司るリリエンデール様の祝福は、スキルを得る才能に強化がかかるわけだから、新しいスキルを獲得しやすくなり、スキルのレベルが上がりやすくなる。


 確かに納得のいく考え方だな。

 それに、僕の場合は『祝福』と『加護』が合わさって『寵愛』になったわけだし、その効力も2倍? もしくは3倍になっているとか?


 だとすれば、急激にスキルが増えたりレベルアップしているのも、『寵愛』の影響があるわけだけど……。


「でもね、ソーヤ。確かにわたしは『祝福』についてはある程度説明できるし、わかることもある。ただ、あんたの持つ称号の『寵愛』に関してはわからないとしか言えないね。

 ひとつ言えることは、『祝福』を飛び越えた称号だろう、ってことだけさね。なんせ女神様から愛されている、ってことだろうからねぇ。そりゃ、スキルも増えるしレベルも上がる、ってなことだろうよ」


 よかったじゃないか、素直に喜べばいい。

 師匠は簡単にそう言うけれど、僕としては喜ぶだけじゃすまないこともある。

 だって、もう一つのアレも同じく強化されているということなのだから。


 今でも≪好奇心耐性≫が働いてくれてギリギリなんとか保っているのに、下手したらリリエンデール様なみに抑えが利かなくなるなんてことになれ……僕は何に対しても疑問を持たないように、無の平常心を身につけなくては生きてはいけなくなるだろう。


 果たして僕に、それができるのだろうか?

 怖い。

 怖くて仕方がない。


 あの時のリリエンデール様の悲しそうな顔が目に浮かぶ。

 湧き上がる好奇心を抑えきれずに、半ば本気で僕の頭の中を無理やりにでも覗こうとしたリリエンデール様。


 我に返った後、そんなことを平然と選択肢に入れていたことを後悔しているリリエンデール様の表情が忘れられないのだ。





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