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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
291/321

291.美容師~称号について考える


 宿に帰ってベッドに腰を下ろした。


 半ば無理やりに招待された夕食だが、結論から言うと出された料理は文句なしに美味しく、メェちゃんと遊ぶのは楽しいし、相変わらずリンダさんが泊っていくように迫ってくる以外は何も問題はなかった。


 リンダさんとの関係も、僕自身が割り切ることができれば問題はないと言えるのかもしれないが、何故かあと一歩踏み込むべきところでマリーの笑顔が脳裏に浮かんできて身体が震えるのだ。

 何故か、そう理由はわからないが何故か、だ。



 宿の女将さんに断りを入れて、裏の空き地でお風呂に入る。

 他の泊り客に見られないように簡単な衝立も付けたし、もはやこの場所は僕専用になっている。


 これは女将さんに対して追加でこの場所を借りている家賃を払うべきなのかもしれない。


 温かなお湯に肩までつかりながらそう思った。

 時間がある時にでも相談してみよう。


 身体を拭いて部屋に戻ると、明日の準備に取り掛かった。

 古い回復薬と今日購入した新しい回復薬の区別がつくように簡単に印をつけてバッグにしまっていく。


 マリーやケネスさんが言うところには、消費期限? のようなものはわりと長いのでそこまで気にすることはないとは言うが、日本人のさがなのか僕の性格が細かいだけなのか、先入れ先出しは基本だと考える。

 なるべくなら古いものから処理していきたいのだ。


 荷物の整理も終えて、やるべきことはなくなった。

 持ち上げてみると、食料や水等のこまごましたもの、それに回復薬がたくさん入っているせいか結構重い。


 これを身に着けたまま全力ですばやく動きまわるのは、ちょっと無理だと感じる。


 戦闘時は腰のポーチに入れてある少量の回復薬があれば事足りるのでバッグを下ろすことができるが、つい先日のように魔物の群れに囲まれて置いたバッグから離れてしまった時にポーチの中だけでは足りなくなるのが怖い。

 どうにかして解決することはできないものか。


 そういえば、『いつか俺は異世界に転生するんだ。常にその為の構想は欠かしていないし、その準備もできている』と豪語していた愛すべき僕の顧客であるもっさんが言っていた。


『異世界転生において、まず手に入れるべきなのはチート能力だ』と。

『その中でも欠かせないのが、物を調べる為の【鑑定】、無限の収納ができる【アイテムボックス】、あとは……なんだっけな。


 いつも、「はいはい、そうだねぇ」と適当に聞き流していたので思い出せない。

 こんなことならもっと真剣に聞いておくのだった。


 もしくは、もっさんが言う『俺の構想の詰まった最強ノート』とやらをコピーさせてもらうべきだったのかも。


 興奮して楽しそうに話すもっさんの顔が思い出され、懐かしさに思わず笑みが浮かぶのが自分でもわかる。


 とにかく、とりあえず【アイテムボックス】という能力があればいいわけだ。

 それがあれば無限の荷物を手軽に持ち運べるのだろう、たぶん。

 もっさんの言うことが正しいならば、だけれど。


 くくくっ、と声に出して笑いながら、明かりを消し、ベッドに寝転がって毛布をかぶった。


 無駄かもしれないが、【アイテムボックス】というスキルが欲しい、とリリエンデール様にお願いしてみようかな。


 まぁ、それはまた今度だ。

 今は今できることでやるしかない。

 気を引き締めなおして、頭の中のもっさんの笑顔に手を振った。



 明日は朝早くからフィクスさんと森の奥に探検に行くことになる。

 早く寝て体調を整えておかなければ。


 目を閉じる。

 目を閉じて、あとは眠るだけなのだが……どうしてもリリエンデール様のことが気にかかった。


 元から僕には付いていた称号『女神リリエンデールの加護』。


 神殿で『祝福』を受けると稀に貰えることのある称号『女神リリエンデールの祝福』。


 僕の場合は、その二つが統合されて付いた称号、『女神リリエンデールの寵愛』


 そして、何故か付いた称号『女神リリエンデールの使徒』


 この4つの称号とはなんなのだろう。


『好奇心と才能の女神リリエンデール』


 その司る権能は『好奇心』と『才能』


『加護』を与えられた僕は元々持っていた才能をより伸ばす恩恵を受け、好奇心を抑えることができないと言う、云わば『呪い』のような恩恵も同時に抱えることになった。


 それは『加護』が『加護2』に強化されたことによって強さを増し、ステータスの数値が一気に伸び、他の人よりもスキルを取得しやすくなり、同時にスキルレベルの上がるスピードが早くなるのとともに、『好奇心』に対する『呪い』を抑えることも、より一層難しくなったのだ。


 短い時間ではあるが、『加護』の効果は身を持って理解している。

 ならば『祝福』の効果とはなんなのだろう?


 ラルーチェに聞くところ、他の女神様の『祝福』を受けている人は少人数だがいるらしい。

 では『加護』を受けている人はいるのだろうか?


 本当はあの場で聞くべきだったのかもしれない。

 でも、もしリリエンデール様の『祝福』を受けた僕が『加護』を持っていると明かしたら?


 しかも、その2つが統合されて『寵愛』という称号を手に入れたことを伝えたら?

 それに、『使徒』という称号を与えられたことを話したら?


 目を閉じているのに、爛々と輝くラルーチェの瞳が見えた気がした。

 その瞳が4つ、6つ、8つ……次々に増えて僕を取り囲んでいく。


 リリエンデール様の信者達が僕を中心にして膝まづく光景が容易に目に浮かんでしまった。


 やめよう……。

 やっぱりこのことは誰にも言えない。

 言うべきではないと思う。


 改めて明日、フィクスさんにはきつく口止めをしなければ。

 遺憾ではあるが、僕の守護天使マリーの名前を存分に使ってでも。




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