29.美容師~Dランクパーティーと知り合う
一角兎を狩り終えニムルの街の門でギルドカードを見せて中に入ると、詰め所から大柄な男が出てきたところだった。
テッドだっけ?
僕に気がついたのか、ニヤニヤと笑い顔で近づいて来ると、
「よぉ、首狩り族! 今日も元気に首を刈ってきたのか?」
肩をバンバンと叩いてきた。
「ちょっと、痛いですよ。手加減とか知らないんですか? それに、僕は首狩り族ではありませんので、狩ってきたのは兎です」
袋の中から一角兎を1匹出して、テッドに投げる。
「おっ、良いもの持ってるじゃねーか。焼いて食べると旨いんだよな、これ」
「良かったら1匹差し上げますよ」
「いいのか? 悪いな、催促したみたいで」
一角兎の足を手に、ご機嫌そうだ。
「一応、あなたにはお世話になりましたので、そのお礼です」
「怪しい奴にも優しくしておくもんだな。これからはどんなに怪しくても、見逃してやることにするか」
「それもどうかと思いますが……」
それでは、犯罪者が野放しになってしまう。
本気ではないと思いたいが一応注意をしておくべきかと決めかねていると、一組の親子が目にとまった。
茶色の髪の長い幼女と父親らしき男だ。
手を繋いで屋台で果実ジュースを買っている。
「あの子は……」
思わず歩み寄ろうとすると、テッドに肩を掴まれた。
「やめとけ。おおかた謝りたいんだろうけど、怖がらせるだけだぞ」
僕の考えていることなど、お見通しのようだ。
テッドの言っていることが正しいかもしれない。
僕は布袋から一角兎を1匹取りだし、テッドに渡した。
「あなたから渡してもらえませんか?」
「ああ、わかった。渡しておくよ」
「お願いしますね」
親子の様子を横目で眺めながら、幼女に気付かれないように通り過ぎた。
ただ、父親から頭を撫でられる女の子の表情があまり嬉しそうではないのが、少し気にかかったのだが……。
ギルドに戻りキンバリーさんに長剣が扱いづらいと告げると、好きな武器を使えば良いと言われたので、グラリスさんの工房に向かった。
ちなみに、ギルドカードを更新しても、やっぱりレベルは1のままで上がっておらず、ますますキンバリーさんは悩み込むことになった。
スキル《回転》はギルドカードに表示されなかったので、たぶんユニークスキルの扱いなのだろうとわかり、聞くのはやめておいた。
グラリスさんの工房には先客がいたようだ。
3人組の男で、それぞれ大剣と槍を持った男と杖を持ち、ローブを被った男がいた。
商売の邪魔になると悪いので、離れたところで男達の買い物が終わるのを待っていると、グラリスさんが僕に向かって手招きしているのに気がついた。
「よぉ、ソーヤ。なんか用か? そんな所に突っ立ってないで、こっちに来いよ」
気を使う必要はなかったようだ。
男達も僕に注目していたので、
「こんにちは」
と挨拶をすると、「やぁ」とか「おお」とか思い思いの返事が返ってきた。
「こいつはまだ新人なんだ。何かあったら頼むぜ」
「お前がそこまで気遣うなんて、珍しいもんだな」
大剣の男が興味深そうに視線を寄越すので、なんだか緊張してしまう。
「だってよぉ、ヒョロヒョロで女みたいな顔で、すぐに死んじまいそうだろ?」
失礼な。
確かに女顔だとはよく言われていたが、それなりに鍛えている。
残念ながら体質らしく、筋肉はあまりつかないけれど。
「俺達は3人で活動している。Dランクでパーティー名は狼の遠吠えだ。
何かあったら言ってくれ。グラリスの知り合いなら、助けになれる時は頼ってくれていい」
大剣の男が右手を差し出してきたので握手だとわかり右手を出すと、すごい力で握られた。
「ちょっ、痛いですって」
「確かに、鍛えが足りんな」
まったく、この世界には手加減という言葉はないのか。
苦笑して右手をさすっていると、杖を持った男が、「すまないな」と謝罪を口にした。
「こいつは見ての通り脳筋で力しか取り柄がないのでね」
「おいおい、それはないだろ」
大剣男が反論するが、
「確かに、取り柄は力だけだね」
槍を持った男にも言われてしまった。
「いーんだよ、俺は力で敵をぶった切るのが役目だ。チマチマした攻撃や戦術はお前らに任してあるんだからな」
ついには開き直り、偉そうに胸を張っている。
「私達はパーティーですからね。足りないものは補い合えばいい。あなたの言う通りですよ」
「そうだな」
三人は顔を見合わせ笑い合った。
「仲がいいんですね。パーティー名が狼の遠吠えっていうのは何か意味があるんですか?」
狼の親子を思い出して、つい聞いてしまう。
「意味ならあるぜ。俺達のパーティー名の狼は魔物じゃなくって、普通種の狼の方だ。
あいつらは仲間思いで頭がいい。こちらの言っている言葉の意味がわかるって話も聞いたことがあるぜ。俺達も互いに助け合ってやっていこうと、狼の名前を借りたんだ。遠吠えはカッコイイからだな」
言葉の意味を理解できる?
察するということかな。
「なんとなくわかります。狼の親子連れに襲われたんですが、撃退して、逃げろ! って叫んだら、逃げて行きましたし」
「お前、狼に会ったのか? 珍しいな。今では魔物に追いやられて数も減っているから、滅多に見かけないんだが。運がよかったな」
羨ましそうに言ってくれるけど、
「僕は襲われたんですが」
「生きているんだからいーじゃねーか」
豪快に笑い飛ばされた。
「狼を殺さなかったんだな。お前はいい奴だ。気に入ったぜ。困ったら声をかけろよ。じゃあな」
彼らは仲良く去っていった。




