285.美容師~女神について説明を受ける
「では気を取り直して、フィクスさんの女神様講座といこうかねぇ。とりあえず、この世界トリーティアには七柱の女神様が存在する。ここまではいいかい?」
「はい、さすがにそれは知識として理解しています」
ここで、リリエンデール様の言う『主神様』のことは、あえて口に出すことはしない。
なんとなく、言ってはいけないような気がするのだ。
ただの感だけど、間違っていないと思う。
もちろん、フィクスさんの口から出てくれば聞いてみようとは思うけど。
「七柱の女神様にはね、序列というものが定められていているんだけれど、序列一位から順番に、
『知識と魔法の女神ブランシェアラ』
『断罪と武の女神ヤークトアルシュ』
『豊穣と生命の女神ハイマケーシュ』
『誠実と美の女神ミルニニルラ』
『歌と享楽の女神ロンドロンド』
『契約と商売の女神タルトロイス』
『好奇心と才能の女神リリエンデール』
という感じだねぇ。
それぞれ簡略化して『法神』、『武神』、『生神』、『美神』、『楽神』、『商神』、『奇神』なんて呼ばれ方もするよ。
冒険者だと洗礼を受ける女神としては『法神』や『武神』を選ぶことが多いし、農民は『生神』、貴族の女性は『美神』だし、飲食関係は『楽神』、商人は『商神』、学者みたいないのが『奇神』っていうような感じかな。
これもだいたいこんな風にわけただけで、別にこだわることなんてないんだよ。それぞれ好きな女神様を選んで洗礼を受ければいいのさ。1度選んだら変えることができないわけでもないし、次々に違う女神様の信者になる人だってたまにいたりする。もちろん、神殿関係者からはあまりよくは思われないけどね。
別に必ず選んで信者にならなくてはいけないような誰からの強制力があるわけじゃないし、選ばなくったって罰があるわけでもない。
ただ、冒険者という職業をするならば、どれかを選ぶのが普通だね。
だってソーヤ君、考えてもみなよ。冒険に出て困った時、魔物に襲われてピンチに陥った時、『ダレカ』や『ナニモノカ』に助けを求める時、自らを脅威から守ってほしい時、その願う相手はやっぱり女神様になるじゃないか。
だとしたら、その時に祈る相手は決めておいた方が便利だからね。見ず知らずの女神様に祈るよりかは、信者としての女神様に祈る方がご利益だってありそうだし。
女神様だって自分の信者はかわいいはずさ。他の女神様の信者よりかは自分の信者を優遇してくれそうだし。きっと、たぶんね」
くくくっ、と小さく笑いながらフィクスさんがウィンクを飛ばす。
そんなものだろうか。
試しに、リリエンデール様の姿を脳裏に思い浮かべて考えてみる。
確かに僕は良くしてもらっている。
優遇されている。
それもかなりだ。
でも、考えてみよう。
果たして僕はリリエンデール様の信者なのだろうか?
リリエンデール様を祭る神殿での洗礼は受けていない。
なのに、リリエンデール様から『祝福』は受けていないけれど、代わりに加護は持っている。
それもいつのまにかランクアップして『2』という文字が付いていたりする。
アレの存在を思えば、嬉しいような嬉しくないような加護だ。
ただ、いつもリリエンデール様に助けてもらっているのは確かなわけで……いっそフィクスさんの言うように、ここで洗礼を受けてみるのもいいかもしれない。
うん、そうだ。
そうしよう。
そうこう考えていると、硝子のような透明の瓶を持ったシスターが扉を開けて戻ってきた。
「今この神殿にあるのはこの2つきりです。こちらでよろしければ、どうぞお持ちください」
「ありがとう。確かに頂いていくよ。2つもあるなんて十分さ。御代、いやいや、お布施はこちらに。どうぞお納めくださいな」
フィクスさんが革袋をシスターに渡した。
「はい、確かに頂きました。ご用件は以上でしょうか? では、お二人に、リリエンデール様のご加護がありますように」
両手を胸の前で組んで、シスターが祈りを捧げてくれた。
それを見て、
「こちらこそ。シスターの敬愛する女神リリエンデール様の序列が上がることを、わたしも陰ながら応援させていただくよ。ずっと七位のままでかわいそうだし、そろそろ六位くらいにはいきたいものだよねぇ」
なんて、フィクスさんがぽろっと言わなくていいことまで口にする。
それだから、
「あら? ご存知なかったでしょうか? わが女神様の現在の序列は第五位です。なのであなたの応援は現在の第七位に捧げるか、リリエンデール様が第四位になるようにお願いします」
シスターがちくりと一刺しし、にっこりと微笑んだ。




