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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
283/321

283.美容師~神殿に行く

明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします

 

 フィクスさんの言う通り、ニムルの街の門を潜って直進し、西側へしばらく歩くと本当に壁ギリギリの位置に神殿があった。


 2階建てくらいの大きさの木造の建物で、あまり綺麗とは言えない。

 というよりもぼろい。


 長年の雨風にさらされて劣化しているのか、冒険者ギルドや僕が泊っている宿よりもオンボロに見える。


 それに僕のイメージした神殿や教会とは違い、キラキラのステンドグラスもないし、屋根のてっぺんに十字架も飾られてはいない。


 大きな普通の家、いや小屋に見えてしまう。

 フィクスさんが、「ここが神殿だよ」と言わなければ、神殿だとは思えないだろう。


「なんか、前に見た時よりも汚くなったような気がするねぇ……まぁ、いいか。さ、ソーヤ君、女神様の神殿にお邪魔しようじゃないか」


 躊躇することなく扉を手で押して、勝手に入っていくフィクスさん。


「お邪魔します」


 小声で呟いて、僕も中に入ることにした。


「ふむ……誰もいないのかな。おーい、誰かいませんかー?」


 大声で呼びかけるフィクスさんをよそに、僕はぐるりと回りを見渡した。


 外観から想像するよりも中は清潔に整えられていて、きちんと毎日掃除をしているのか、床にはゴミひとつ落ちていない。


 それに、何よりも僕の目を奪ったのは、壁際にひっそりと立つ170センチくらいの石像の姿だ。


 それは……僕の記憶の中にあるあの方に少し似ているような気がした。


 そう、ついこの間まで序列七位だった女神、リリエンデール様のお姿に。


「あらあら、これは珍しいこと。信者様でしょうか? どうぞご自由にお祈りくださって結構ですよ」


 脇の扉から女性が現れて、僕とフィクスさんに小さくお辞儀した。


 灰色のフードをかぶっているのでよく顔が見えないが、声の感じからすると20代から30代前半だと思う。

 女神様に仕えるシスターのようなものだろうか。


「えーと、申し訳ないけれ、どわたしはこの女神様の信者ではないよ。今日はこの神殿にお願いがあってきたんだ」


「そうですか。それは残念ですね」


 女性はため息をひとつ吐いて、気持ちを切り替えるように、「コホン」と小さく咳払いをした。


「でも、わたくしどもの女神様のお力が必要とあればご相談下さい。もちろん、できることとできないことはありますが。それでなくとも、あなたの為に祈ることはできましょう」


 背中側にフードを落とし、女性がにっこりと微笑みを浮かべた。


 薄い赤茶色の綺麗な髪の毛の持ち主だ。

 長さは腰まであり、癖のないストレートヘア。


 毛先が少し痛んでいるのが気にかかり、もったいないなぁ、と思ってしまう。


 それと同時に、触りたい、切りたい、という衝動に襲われ、ぶんぶんと首を振ることでその想いをなんとか外に追い出した。


 シスターは不思議そうにそんな僕を見つめ、フィクスさんは苦笑いして、


「ああ、気にしないで。悪い子ではないので。ちょっと変わっているだけだから」


 と、一応フォローのようなものをしてくれている。


「それでね、ここに来た要件なんだけど、ずばり、聖水をいただきたい。あるかな?」


「聖水ですか……幸い、ここにあることにはありますが、それはどの程度のランクのものでしょうか?」


「おっ、あるのかい? 聞いておいてなんだけど、実は期待していなかったんだよねぇ。

 なるべく高ランクのものであれば嬉しいけれど、低ランクのものでもないよりはマシだからねぇ。頂けるだけ貰いたいねぇ」


 嬉しそうに告げるフィクスさんに、シスターは困ったように微笑んだ。


「そう言っていただけて喜んでよいのか悪いのか。わかりました。今お持ちしますので少々お待ちください」



「いやぁ、ラッキーだったね、ソーヤ君。ダメ元で来てみたけれど、こんな小さな神殿で、まさか聖水が手に入るなんて思わなかったよ」


 シスターが戻ってくるのを待ちつつ、僕はリリエンデール様に似た石像を近くによって観察してみる。


 石でできているので、顔のつくりはあまり細かくはないけれど、優しく微笑みを浮かべている感じはよく似ている。


 うーん、髪の毛の長さは同じくらい……いや、実物よりも短いか。


 最近は結構なスピードで伸びているし、ああ、初めて会った時のリリエンデール様と同じくらいなんだ。


 謎が解けて満足していると、いつの間にか隣にはフィクスさんがいた。


「ずいぶん熱心に見つめているけれど、何か面白いことでもあるのかい?

 あっ、もしかしてソーヤ君はこの女神様の信者だったりして? だとしたら失言があったかなぁ、ごめんよ。いや、でも、それはないか。もしそうなら、この女神様の神殿があることぐらいは知っているはずだしね」


 フィクスさんは一人で驚いて、謝って、納得して、訳知り顔で頷いている。


「面白いというか……初めて見るものなので」


 信者についてはよくわからないので、答えることをスルーしておいた。


「初めて? ああ、この女神様の石像を見るのが初めて、ってことかい?

 確かにあまり有名な女神様ではないから、王都や帝都なんかの大きな街か、逆に小さな小さな特殊な町や村にしかこの女神様の神殿はないかもねぇ。

 わたしが覚えている限りでも……全ての女神様の神殿は一つの国に最低一ヵ所はあるはずだから……7、いや8ヵ所だったかねぇ。

 そう言われてみると、この街にあるのは珍しい部類に入るとも言えるね」


「そんなに珍しいのですか? その、この女神様は」


「ん? なになにソーヤ君。この女神様が気になるのかい?」


「ええ、気にはなりますね」


【気になります 気になります】


 うるさい。


 僕は頭の中だけで、声に対して文句を言った。



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