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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
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28.美容師~スキル《回転》を覚える

 

 北西とのことだったので、まずは門を出て道沿いに進み馬車が来たので道から外れて左に曲がった。

 

 視線を遮るものは何もなく、足元は土で膝丈くらいの草がまばらに生えている。

 しばらく進むとこちらにお尻を向けている生き物を見つけた。

 草を食べることに夢中のようで、まだこちらには気がついていないようだ。


 なるべく気配を殺して近づいてみる。

 ポーン、


【スキル 忍び足を獲得しました】


 ますます暗殺者のようなスキル構成になってしまった。

 そのまま後ろ姿を眺めていると、不意に生き物が振り返り、赤い目が僕を捕らえた。

 

 その頭部に20センチ程の角がある。

 こいつが一角兎か。

 体はそんなに大きくないな。

 丸々としていて、体も30センチくらいか。

 警戒しているのか襲っては来ない。


 観察を続けていると、また音がする。

 ポーン、


【スキル 観察のレベルが上がりました】


 観察しているとレベルが上がるスキルなのか?

 

 でもユニークスキルということは、持っている人は少ないのかな。

 キンバリーさんなら知っているかも。

 戻ったら聞いてみようかな。


 スキルについて考えていたせいで集中が乱れた。

 それを狙っていたのか、一角兎がすばやく地面を蹴り、飛び上がってきた。

 

 マズイ、僕はまだ剣を抜いていなかった。

 今更焦っても時はすでに遅く、必死に体を捻って奇襲を避けた。

 

 顔の真横を通り過ぎ、頬にピリッとした痛みを感じた。

 角にかすったのか。

 指で触れると血が付いていた。

 

 シザーで指を切るのには慣れているので、これくらいの血なら平気だ。

 美容師を舐めてもらっては困る。

 

 ただ、この魔物を舐めていたのは僕だ。

 可愛らしい外見に騙された。

 あの角にジャンプ力が加わったら、かなり危険だ。

 しかも躊躇なく顔を狙ってきている。


 長剣を抜いて、飛び掛かかってくる一角兎の角をかわす。

 よく見ているとわかるのだが、飛ぶ前に体を縮こめるような動作をするのだ。

 

 かわすのには慣れてきたので、キンバリーさんの助言に従い角を長剣で弾く練習を始める。

 剣で弾く為には大きく避けることができない。

 

 顔目掛けて突っ込んで来る角から目を反らすことなくタイミングを計り長剣を振るった。


「ギィッ」


 一角兎が小さく鳴いて地面に倒れ込んだ。

 長剣の刃は角ではなく、顔を切り裂いていたのだ。

 

 灰色の兎はピクピクと痙攣していたが、すぐに動かなくなった。

 

 長剣を腰の横に構えて、コンパクトに振り上げると、剣術スキルのおかげか、鋭い風切り音を伴い長剣が空を裂いた。

 

 悪くはないんだけどな。

 数回繰り返し、長剣を鞘にしまい、短剣で一角兎の剥ぎ取りをした。


 

 長剣に持ち直して、次の獲物を探しに歩く。

 5分程で一角兎を見つけたので、何度か攻撃をかわして動きに慣れ、角を弾く練習にうつる。

 

 今度は焦って剣を出さずに、タイミングを掴むことに集中した。

 1、2、3と声に出さずにテンポを区切り、ここだっと思ったところで長剣を振り始めた。

 

 剣の根本でなんとか角は弾いたが、こちらも体制を崩してよろめいてしまう。

 仕切り直して練習を続けるが、小さくても魔物の動きはすばやく、弾けはするのだが、イメージ通りに行かない。

 

 腕の力だけで弾くのがよくないのか?

 試行錯誤し、下から上から横からと試してみて問題点がわかってきた。

 どうにも、長剣が扱いにくいのだ。

 

 長い刃はリーチの差で有利だが、先の方まで細かい操作が伝わりにくい。

 

 一角兎が力を溜めている隙に、長剣を腰に戻し、短剣を抜いた。

 そして飛び掛かってきた角を手首のスナップを意識して弾く。

 キンッと澄んだ音が響いて、手首に軽い衝撃が走った。

 

 やっぱり、こっちの方がやりやすいな。

 一角兎も何かを感じ取ったのか、こちらを向いたままジリジリと後ろに下がる。

 

 僕は胸の辺りで短剣を斜めに構え、相手の飛ぶ瞬間を見極めようと集中した。


 ポーン、音がなる。


【スキル 集中を獲得しました】


 新しいスキルだ……集中していたからか?

 

 声の終わりと同時に、兎が跳ねた。

 今までで1番のジャンプだけど、よく見える。

 真っ直ぐに顔を目掛けて飛んで来る。

 

 手首を捻るのと同時に指を回してみよう。

   

 ロールブラシを動かすように、短剣の握りを親指で押し、人差し指と中指で引き寄せるように手前側に回すよう力を加えた。

 すると、手にかかる衝撃はほとんどなく、角ごと一角兎の頭がのけ反るように弾かれた。

 

 目の前には毛で覆われた無防備な喉が晒されている。

 無意識に手は動いていて、手首を柔らかく動かしながら振ると、短剣の先端が滑らかに肉を切った。

 

 血飛沫で汚れないように、バックステップし、今の感触を忘れないうちにと短剣を手の平の中でクルクルと回した。

 

 たぶん、束が円柱形の方が回しやすいな。

 特注品で作れるか、グラリスさんに相談してみるか。

 

 今はこれしかないから仕方ないとして。

 右手で十分慣れたので左手に持ち替えて同じように練習する。

 両手で1本ずつ持ってもいいかもしれない。

 

 右と左に持ち替え考えながらも、指を動かしていると、

 ポーンと音がした。


【スキル 回転を獲得しました】


 回転なんてスキルがあるのか?

 何に使うんだろう?


 なんだか面白くて夢中になってしまった。

 そのまま短剣を回しつづけているとまた音が、ポーン


【スキル 回転のレベルが上がりました】


 これでレベル2か。

 回転のスピードが少し早くなったか?

 

 腕を持ち上げ、目の前で回転させる。

 まだ6日しか経っていないのに、指の動きが懐かしい。

 

 短剣を籠手に戻し、シザーケースからロールブラシを出して指先で回した。

 しっくりと手に馴染むのは使い続けていた愛用の道具だからか。

 途切れることなくクルクル回転し続ける。

 

 このブラシで弾けたら楽なのにな。

 無理を承知でそんなことを考えてしまった。

 

 一人苦笑し、ブラシをしまって短剣で一角兎の角と魔核結晶を剥ぎ取る。

 小さな魔物の剥ぎ取りにはナイフの方が便利そうだな。

 

 ナイフ、欲しいな。

 持ち手が円柱型のやつ。

 

 想像して、やっぱり特注品かなとグラリスさんの顔を思い浮かべた。

 とりあえず今は練習を続けよう。

 兎探しの再開だな。




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