27.美容師~不良品をつかまされる?
「さて、話は以上だ。時間を取らせて悪かったね。依頼だが討伐系でいいのかい? よければ僕が選んであげるよ?」
「それではお言葉に甘えて、お願いします」
よかった。マリーがいないので、どうしようかと悩んでいたのだ。
「いい機会だし、カードを見せてもらってもいいかな? 元Cランクのアドバイスは必要ないかい?」
「どうぞ、見てください。アドバイスもいただければ」
キンバリーさんはカードの更新を行い、
「適性は《剣術》か」
と呟いた。
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名前 ソーヤ・オリガミ
種族 人間 男
年齢 26歳
職業:
レベル:1
HP:20/20
MP:20/20
筋力:16
体力:16
魔力:16
器用:32
俊敏:18
スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv1》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv1》、気配察知《Lv1》、投擲《Lv2》
称号:
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「《採取》スキルが高いのは聞いていたが、《剣術》もレベル3とはね。まだ冒険者登録をして数日じゃなかったかい?」
「ええ、今日で6日目です。討伐依頼はビッグワームとキラービーです」
「《剣術》スキルの成長が早すぎるな……それにスキルの数も多い……君は冒険者になる前は何をしていた? どこかの国の暗殺者とか密偵とか?」
「違います。戦いなんてしたこともないですよ」
「だよな。冗談はさておき……日常的に刃物を扱っていなかったかい? それに周りに気を配り動いていた。どうだい?」
確かに、シザーを手に従業員と客、フロアー全体を気にしながら動いていた。
それが関係しているのか?
「ええ、そんなようなことはしていました」
「決まりだな。それがなんの職業かは知らないが、その経験がスキルの取得を早めているんじゃないか? 僕の推測でしかないがね。それしか説明がつかない。ただ、それにしてもおかしい」
キンバリーさんは一人で納得し、また考え込んでしまう。
何がおかしいのだろう。
《投擲》スキル?
仕事中にナイフを投げたことはなかったなぁ。
それとも《恐怖耐性》か?
ビッグワームとキラービーで、レベル2は恥ずかしいことなのか。
怖がりすぎだって?
でも、レベル2に上がったのは魔物ではなくマリーのせいなわけで。
それをキンバリーさんになら話してしまってもいいかもしれないけれど。
「あの、《恐怖耐性》のことだったら……」
「んっ? 《恐怖耐性》? ああ、これは魔物に慣れていない人が初めて、それも一人で相対したから取得しいたんだろうね。それもレベル2とは、君は虫が苦手なんじゃないか? 苦手な種類の相手だとよくあることだね」
どうやら、《恐怖耐性》について悩んでいるのではないようだ。
だったら他に何が……。
「ギルドカードの不良? でも、そんなことは聞いたことないし」
思案顔でキンバリーさんがカードをつつく。
「ビッグワームとキラービーの討伐数は?」
「たしか、5匹と15匹です」
「そんなに? やっぱりおかしい」
引き出しから緑色のカードを取り出し、キンバリーさんが箱にセットする。
「ソーヤ君、悪いけどカードの登録をし直すから、ここに手置いてくれるかな」
「わかりました」
登録のし直し?
どういうことだ?
キンバリーさんはすばやく操作を行い、古いカードと新しいカードを見比べる。
そして……、
「やっぱりおかしい」
天井を見上げてそのまま固まってしまった。
「あの……どうかしたんですか?」
そろそろ僕にも教えてほしかった。
「ああ、悪いね。君のことなのに説明もせずに。ここを見てごらん」
キンバリーさんが指で差すのは職業欄の下。
レベルと書かれた所。
僕のレベルは1と表示されている。
「レベル1になっているでしょ?」
「はい、それが?」
「1のはずないんだよ。ビックワーム5匹にキラービー15匹。少なくともレベル2にはなっているはずだ。3でもおかしくない」
そうなのか?
自分では経験値のようなものが足りないのかと思っていたのだが。
「個体差というか、人によって違うのでは?」
「いや、これは冒険者ギルドの秘匿で仕組みは明かされていないから内緒の話になるんだけど、レベルが上がるための経験値の必要量は共通とされている。じゃないとレベルの数字が信頼できないからね」
確かに、レベルの上がりやすい人と上がりにくい人がいれば、レベルの数字が同じでも実力が違うことになるか。
「何人かでパーティーを組んだら経験値はその人数で分散されるし、自分が倒していない魔物の討伐証明だけを拾ってきたならこの結果はわかるのだけど、そうなるとスキルの取得が説明できなくなる。この討伐数で《剣術》レベル3なんて逆に少ないくらいだし」
「だからギルドカードの不良を疑った?」
「ああ、でも新品と取り替えても君のレベルは1のままだ。だから悩んでいる」
「でも、理由がわからないと?」
「その通りだよ。すまないね、ギルマスに報告してギルド本部に問い合わせておくから、今は我慢してくれ」
「表示されていないだけで、実際にレベルは上がっているとか?」
「それは……わからないな。今までこんなことなかったから」
「そうですか。まぁ、わからないものはしょうがないです。今日の依頼を選んでもらえませんか」
「そうだった。これなんてどうだい?」
1枚の紙をカウンターに出してくれる。
けれど、内容は不明。
読めないから。
文字、覚えなくちゃなぁ。
「《剣術》スキルもあるし、君ならそんなに危険はないんじゃないかな」
「あの、文字が……」
「読めないの? 冒険者としてやっていくんなら、読み書きはできないとダメだよ」
怒られてしまった。
よし、明日から勉強しよう。
「Fランクの魔物で、一角兎だよ。特徴は頭に角があってそれで攻撃してくるから注意ね」
「魔物事典を見せてもらってもいいですか?」
「魔物事典? ああ、あれはマリーの私物なんだよね。自分で調べて絵を描いて作ったんだ。マリーが持って帰ってしまっているようだね」
あの事典を自作だって……マリーはどこまで凄いんだ。
「一角兎を探すなら、街の門を出て北西に進むといい。ニムル平原が生息地だね。
ジャンプして角で攻撃してくるからすぐに倒さず、剣で弾いたり受け流す練習をしてごらん。
討伐証明は角だけど、肉も食用で売れるからギルドで買い取ってもいいし、泊まっている宿屋に持っていくと喜ばれるよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「気をつけて、なるべく怪我のないようにね」




