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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
266/321

266.美容師~経験値の譲渡に失敗する

 

 リィィィン、と頭の中で音がした。

 そして声が。


【シアンよりトリミングシザーへの足りない経験値の譲渡(じょうと)を開始……30…40……50……】


 あれっ……前に聞いた時と、少し違うのに気がついた。

 『???』で聞き取れなかった箇所が『シアン』に置き換わっている。


 でも、それはいい。

 リリエンデール様ではないが、僕としても想定内だ。


 僕が今、気にかかっているのは、不安を感じているのは、経験値の譲渡が開始された数字。


 シアンからトリミングシザーへの経験値の譲渡が始まった数字が低いことだ。


 確か……。

 僕は古くなりつつある記憶をなんとか手繰り寄せて思い出す。

 初めてシザー7が覚醒した時は、80から譲渡が開始されていた。


 2度目の時もそう。

 シアンが青く発光して、シアンからシザー7に経験値の譲渡が行われた。


 リリエンデール様の加護によって、《チョップカット》というスキルを得た。

 その時も、数字は80から始まっていたはずだ。


 それなのに、今回は30からのスタート。

 その違いが、ボクを不安にさせる。


 それを裏付けるかのように、数字は10ずつの上りではなく、小刻みな数字に変化していた。


【50……52……53……54……55……56…………57…………58………………シアンからトリミングシザーへの経験値の譲渡を終了しました】


 無情にもコエが終了を告げて、数秒後に青い光も消え去ってしまう。


 何故?

 どうして?

 どういうことだ?


「これで終わりなのか?」


 震える声で呟く僕を見て、リリエンデール様が眉をひそめた。

 どうやら、あのコエはリリエンデール様には聞こえていないようだ。


 だから、シアンが光り上手くいったと思えていたはずなのに、僕の呟きを聴いて、僕の表情を見て、何かがおかしいと気がついた。


「ソーヤ君? 何が起きているの?」


 尋ねてくるリリエンデール様に答えることなく、僕はシアンに呼びかける。


「シアン? シアン!! どうして終了させるんだよ? まだだっ! まだ終わっていない! 足りていないじゃないか!?」


「待って。落ち着いて、ソーヤ君」


 今にもシアンに向けて拳を振り下ろそうとする僕の右腕を、リリエンデール様が必死に縋りついて止めてくる。


「……シアン、もう一度だ。もう一度経験値の譲渡を再開してくれ。まだあるんだろ? 残っているんだろ?

 だって、僕はかなりの数の魔物を倒している。ついさっきだって、マッドウルフの群れを殲滅させた。10や20じゃない。あれだけの数だぞ? シザー7が覚醒する前に倒していた魔物の数の何倍も多いはずだ。

 頼むから出し渋らないでくれ。僕にとって、今が大事な時なんだよ。今、僕には必要なんだ。

 また魔物をいっぱい倒すから。そうしたら、またいくらでも経験値を貯めこめばいい。なんだったら、僕に渡す分も、お前達で使えばいい。僕には分けなくてもいい。だから……だからさ」


 握りしめた拳を解いて、指先でシアンを撫でる。

 僕の中にあった怒りはすでにどこかに消えていた。


 かわりに僕を満たしているのは願い、懇願、祈り。

 それらが指先を通してシアンに伝わるように願いながら、何度も撫でる。


 そうしていると、シアンが青く光った。

 僕の願いが通じたのかと思ったが、そうではなく小刻みに点滅をした。


 弱く、消えそうなくらいの光で、青い色が数度瞬く。

 けれど、僕が望んでいるのはそれではない。


 もっと、目の奥を焼き尽くすような光だ。

 全てを塗りつぶすような青の閃光。

 あの音とあのコエを連れてきてくれる光なんだ。



「そう、そういうことなのね」


 ピリピリと痛みを感じるくらいの沈黙の中、リリエンデール様が呟いた。


「わかったわ。あとはわたしに任せておいて。

 大丈夫、ソーヤ君はあなたに怒っているわけではないのよ。大丈夫、大丈夫だから泣かないで。わたしがちゃんと説明しておいてあげるから」


 立ちつくす僕の腰にそっと手を伸ばし、リリエンデール様が優しくシアンを撫でた。


 シアンが泣いている?

 リリエンデール様の言葉で、シアンが傷ついていることを知った。


 僕はシアンに謝らなければいけないのだろうか?

 シアンを傷つけたのは、誰でもない、間違いなく僕のはずなのだから。


 躊躇している僕に、リリエンデール様が向き直る。


「ソーヤ君、シアンに謝るのは後でもできるわ。シアンもそれはわかってくれている。

 それよりも、今はやるべきことがあるの。例のあのコを出してちょうだい」




いつも読んでいただき、ありがとうございます。


ブックマークや感想、評価、レビュー等いただけると、更新の励みになるので嬉しいです。


今後とも宜しくお願いします。


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