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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
262/321

262.閑話 ジスト~ほんとのきもち

 

 ボクの名前はジスト。

 たぶん、そうだと思う。

 だって、みんながボクを見てそう呼んでいるから。


 ボクのからだは黒い。

 でもみんなは黒くない。


 ボクは小さい。

 みんなは大きい。


 ボクだけみんなと違う。

 みんなはだいたい同じ。


 ボクはひとりぼっち……。



 ボクが生まれた時は、そばにおかあさんがいた。

 おとうさんはいなかった。


 ボクと同じ小さいの(・・・・)もいたけど、やっぱりボクだけ変だった。


 ボクがそばに行くと、おかあさんがはなれていった。

 おにいちゃんやいもうと達も、あっちにいけってボクを噛んだ。


 それが悲しくておかあさんに、助けて、って言うんだけど助けてくれなくて……少しずつおかあさんはボクのことを見なくなった。


 みんなはお腹いっぱいおかあさんのお乳をもらえるのに、ボクはちょっとだけしかもらえなかった。


 そのうちちょっとももらえなくなって、お乳がほしくて近くに行くと、あっちに行ってなさい、って怒られた。


 あと、おかあさん、って呼ばないでって言われた。

 話しかけないで、って……。


 なんでだろう。

 おかあさんは、ボクのおかあさんなのに。



 みんながボクを置いてどこかに行こうとするから、ボクは必死に後をついていった。

 でもお腹が空いて元気が出なくなって、気がついたらみんながいなかった。


 みんなの匂いがする方へ、ちょっとずつ追いかけた。

 やっとみんなを見つけて、うれしくてそばに行ったのに、おかあさんがボクを見て、いくわよ、ってみんなと走っていった。


 どうして? 

 ボクもいっしょにいくよ!?


 いっしょうけんめいに呼んでも、みんなは止まってくれなかった。



 ひとりになったけど、ボクはおかあさんの匂いを探して歩いた。

 疲れて歩けなくなったら少し休んで、また歩いた。


 もうこれ以上は歩けない、そう思った時におかあさんの匂いを感じた。

 ズリズリと這いずりながら、みんなのそばに向かった。


 おかあさんのお乳の匂いがしたから、ボクもちょっとだけでも飲みたくて、手も足も痛かったけど、がんばって少しずつ近くに。


 おかあさん、と呼ぶと、おかあさんがボクを見た。

 ボクのことを見てくれた。


 ボクはうれしくて、おかあさんにかけよった。

 それなのに、おかあさんがボクのことをたたいた。

 あっちにいって、って、ボクを手ではね飛ばした。


 どうして?

 からだじゅうがいたい。


 ボクはおかあさんの近くにいった。

 おかあさんはボクを手で飛ばした。


 おかあさんの近くにいった。

 おかあさんが手で……ボクはちょっとも動けなくなった。


 みんなが遠くに走っていった。

 ボクはここでひとりぼっち。


 ボクはもう動けないから、みんなを追いかけられない。

 おかあさん、って呼びたいけど、声がでなかった。


 お腹がすいた。

 手と足と、背中とお腹と喉と、たくさん痛い。


 それに寒い。

 寒くて体がぶるぶるする。


 たすけて、おかあさん。

 ボクはここだよ。

 ここにいるよ。




 目が覚めたらあたたかかった。

 口の中におかあさんのお乳の味がする。


 おかあさんが帰ってきてくれたのかな?

 ちょっと目を開けてみたけれど、おかあさんはいない。

 そのかわりに見たことがない大きなの(・・・・)がいた。



 それから、ボクはひとりぼっちじゃなくなった。

 ボクと同じ黒いの(・・・)といっしょ。


 黒いのはソーヤって呼ばれている。

 みんなと違って、ボクと同じ黒のふさふさがある。


 だとするとボクのおとうさんなのかな?

 でも、ボクはフサフサしているのに、ソーヤはちょっとしかふさふさしていない。


 なんでだろう?

 やっぱりおとうさんじゃないのかな。

 それともボクも大きくなったら、あんなふうになるのかなぁ。



 ボクはソーヤを見ている。

 ソーヤがボクを見ると、ボクはさっと目をそらす。


 ソーヤもボクが近くに行ったら怒るかもしれない。

 あっちにいって、っておいていかれるかもしれない。

 そう思っていた。


 それなのに、ソーヤはボクをやさしくさわる。

 ボクのことがすきなのかな?

 やっぱりボクのおとうさんなのかな?


 でも、おとうさん、って呼んだら、おかあさんみたいにボクのことをきらいになるのかな?


 すきだよ、って言ったら、おかあさんみたいにボクのことをきらいになるのかな?


 こえをかけないで、って言われるのかな?

 話しかけないでって……。


 わからない。

 わからないからこわい。


 またおいていかれたらこわい。

 ひとりぼっちにされるのがこわい。


 どうしよう。

 おとうさん、ってよんでみたらいいのかな。

 でも……でも、でも。



 ソーヤのそばにはいろんなの(・・・・・)がいる。

 みんな大きくて黒くない。

 だからボクの仲間じゃない。


 ちがう。

 ボクとはちがう。


 それなのに、みんなやさしい。

 ボクのことをやさしくなでてくれる。


 うれしい。

 すきになってもいいのかな?

 でも、すきになったらいなくなるのかな?


 わからないけど、いいや。

 やさしいからすき。

 なめてあげる。


 でも、ソーヤのことだけはすきになっちゃダメだ。

 すきになったらいなくなっちゃうかもしれない。


 ほかの(・・・)がいなくなってもだいじょうぶ。

 がまんできる。


 ただ、ソーヤだけはダメ。

 いなくなったらイヤだ。


 だから、

 ボクはソーヤがきらい。

 きらいなふりをしなくちゃ。



 起きたら暗かった。

 まだ夜だ。

 ソーヤもねている。


 ちょっとだけ近くにいってみよう。

 おきてないからだいじょうぶ。

 見つからないようにそっと。


 ソーヤにくっついてみる。

 あたたかい。

 安心する。


 なんだかねむくなってきた。

 はやくはなれないと。


 でも、ちょっと。

 もうちょっとだけそばにいたい。

 ソーヤがおきる前にはなれればいいや。



 きょうは変なヤツ(・・・・)にあった。

 ボクよりちょっとだけ大きいヤツだ。


 ソーヤのことをペロペロなめている。

 なんか、いやなきもち。


 あっちにいけ、って言ったら、おまえもこっちに来いよ、って言われた。

 いきたい、けどいけない。


 ちかくにいたらうれしくて、さわられたらソーヤをなめちゃうかもしれない。

 ボクがソーヤをすきなことがばれちゃうかもしれない。


 ソーヤがこっちを見ている。

 ダメダメ、目があっちゃう。



 ソーヤがこわい顔をしている。

 どうしたの?


 ボク、なにかした?

 ボクのことをきらいになった?


 変なヤツのおとうさんがボクの首を噛んだ。

 なに?


 やだ。

 やめて。

 ボクはソーヤといっしょにいる。


 あぶないからこっち、って変なヤツが言った。

 ソーヤに頼まれたから少しはなれるの、と変なヤツのおかあさんがいった。

 だからボクはおとなしくした。



 ソーヤはたくさんの怖いヤツと戦っていた。

 倒しても倒してもたくさん。


 がんばれ!

 まけないで!!


 ソーヤはすごくつよい。

 ぜんぶやっつけた。


 変なヤツは喜んで走っていった。

 ボクも走っていきたいけどがまん。


 ソーヤ、だいじょうぶ?

 血がたくさんだけどいたくない?


 変なヤツみたいにいっぱいなめてあげたいのにできない。

 くるしくてかなしい。

 ソーヤは、ボクのおとうさんなのに。



 なんだか変なにおいがする。

 変なヤツのおとうさんとおかあさんも言ってる。


 ソーヤがボクをつかんでいつもの場所にいれた。

 ちょっといたかった。


 どうしたの?

 ソーヤが急に倒れた。


 しらないヤツがボクのことをつかんだ。


 なに!?

 なにするの!?

 やめてよ!!


 ソーヤの匂いがはなれていく。

 どうして?

 ボクはソーヤといたいのに。


 もしかして、ボクがソーヤをすきなのがばれちゃったのかな?

 だからいっしょにいられなくなったのかな?


 やだ。

 やだよ。



 ソーヤが来た。

 ボクを返せ、って怒ってる。


 ボクはソーヤにとって大事なの?

 やっぱり、ソーヤはボクのことがすきなの?

 ボクのおとうさんなの?



 首をつかまれた。

 くるしいっ。

 えっ、なに!?


 いたいっ!

 のどがあついっ!!


 口がかってにうごいちゃう。

 こえをだしちゃいけないのに。




 たすけて……おとうさん……。




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