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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
261/321

261.美容師~コルラの嘆きを聞かされる

 

「見つけた!」


 ≪気配察知≫の範囲の中にコルラとジストが飛び込んできた。

 向こうも僕の存在に気がついたのだろう。

 急に動きが早くなった。


 けれど、魔法職のコルラよりも、スキルを総動員している僕の方が圧倒的に早い。

 グングンと加速し、ニムルの街の門でついに追いつくことができた。


 門の前には1台の馬車。

 貴族が乗っていると一目でわかるような豪華なものだ。


 その横には小太りな男。

 門に立っていた門番の男を邪魔そうに追い払い、コルラを見つけるなり、「早くしろ!」と叫んだが、追いかけてきた僕が視界に入ると「ちっ」と舌打ちをした。


「コルラ、なんであいつがここにいる? 例のモノはどこだ? んっ? そういえば、カルラはどうした?」


 男が矢継ぎ早にコルラに話しかけるが、コルラは息を整えるのに精一杯で返答ができない。


 しかも僕と相対しているものだから、その表情には怯えのようなものが見え隠れしていて、男の問いに答える余裕はなさそうだ。


「ジストを返せ」


 ≪心肺強化≫のおかげか、僕の息はそれほど上がっていない。

 なのでゆっくりと近づき、右手を真っ直ぐに差し出した。


 コルラは胸の前で抱えていたジストをぎゅっと抱きしめ、真っ青な顔で呟いた。


「カルラは? ……殺したの?」


 僕が殺したわけではない。

 けれど生きているわけでもないので、結果だけを答えた。


「あいつは死んだ」と。


「そう。死んだの」


 コルラはポツリと呟き、地面に視線を向けた。


「だからカルラは馬鹿なんだ。余計なことばかりして、わたしの言うことをちっとも聞かない。

 だからわたしが目を離した隙に、簡単に死んでしまう」


 ブツブツと小声でささやくコルラの声を≪聴覚拡張≫が僕に届けてくれる。


「カルラがいないと、わたしは一人になってしまった。

 カルラだけがわたしに話しかけてくれたのに。みんなが暗い奴って言っても、カルラだけは『笑え』って」


 コルラの呟きは止まらない。

 腕の中でジストが苦しそうに身じろぎをくり返している。


 なんか、ヤバそうだ。

 これ以上興奮させると、何をするかわからなくて危うい。

 なるべく刺激せずにジストを取り戻さなくては。


 門番の男も、状況を理解して判断したのか詰め所に向かって走っていく。

 それなのに、一人だけこの場を理解できない男がいた。


「おい! 何をさっきからブツブツと。いいからさっさとその黒い生き物を寄越せ!」


 タイミングを計る僕をよそに、あの男が横からコルラにつかみかかるが、その手を、コルラが勢いよく振り払った。


「何がいいの!? カルラが死んだ! 

 元はと言えばお前のせいだ! お前があの男に変なちょっかいをかけようとしたから。お前がこの奇妙な生き物を奪ってこいなんて命令をしたから! 

 そのせいでカルラが死んだ!! 全部、お前のせいだ!」


 髪を振り乱して叫ぶコルラに、よせばいいのに男が言い返す。


「なんだと! 吾輩に向かってなんたる口の利き方だ。暗くてジメジメした女のくせに生意気な。

 カルラが死んだだと? 馬鹿が一人死んだだけではないか。吾輩にはそんなことよりその生き物の方が大事だ。

 わかったらさっさと寄越せ。あと、こうなったら目の前にいる男も邪魔だ。始末しろ!」


「こいつを殺せって? できるわけない。

 この男はカルラよりも強い。わたし達が二人揃っていても勝てない。それをどうやって殺せばいい?」


「使えん……ならば相打ちでもなんでもいい。とにかく殺せ! カルラの敵だぞ。生かしておいていいのか?」


「……カルラの敵……」


 コルラの呟きを聞いて、男がニヤリと笑う。


 自分でも上手い言い訳だと思ったのだろう。

 コルラを誘導できたと確信したのだろう。


 これでコルラが僕に特攻をしかけると踏んだはずだ。

 それには腕に抱えているジストが邪魔になるはずだと。


「ほら、その邪魔なモノは吾輩が預かっていてやろう。こちらに渡すといい」


 笑顔のままコルラの腕からジストを抜き取ろうとした男の手を、再びコルラが振り払った。


 しかも、その手にはいつのまにかナイフが握られていて、腕を斬りつけられた男が「ひぃぃ」と悲鳴をあげた。


 ただ、コルラの目はその男を見ていない。

 真っ直ぐに僕へ向けられていた。


「カルラの敵ね……確かにあんたはカルラの敵だ。だから、あんたにも同じ目にあってもらう。大事なモノを失くしてもらう。

 わたしは一人になった。だからあんたも一人になればいい。この子に恨みはないけれど、こうさせてもらう。恨めばいい。好きなだけ」


 コルラが左手に持ったジストを掲げた。

 そして、右手のナイフをその首元に突き刺す。


 その瞬間、ジストの声が聴こえた。

 小さな、小さな声だった。


 けれど、はっきりと僕には聞こえた。

 理解できた。


「たすけて……おとうさん」と。







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