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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
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257.閑話 カルラ~脅威を感じる

 

 ニムルの森に到着。

 コルラが風属性の魔法で探知を行い、「いた」と小さく呟いた。


「戦闘中か? あたし、マッドウルフってあんまり好きじゃないんだよな。一匹か二匹ならいいんだけどさ。あいつら群れて仲間を呼ぶから面倒で」


「カルラ、うるさい。集中してるから黙ってて」


 コルラに冷たく言われて、あたしはおとなしく口を閉じた。


 数分後、コルラが荷物の中から鉄製の香炉と数種類の葉や粉を取り出した。


 黙って見ているあたしに、コルラが自慢げに説明をしてくれる。


「これは魔物を引き寄せる香を出すもの。風上はこっちだからちょうどいい。マッドウルフの群れを集めて、あの男にぶつける作戦。

 わたし達は離れた場所から見張って、あの男が疲弊したところを奇襲する」


「わかった。そこであたしの出番だな。こっそり近づいて斬ればいいんだろ?」


 自信満々に答えるあたしに、コルラがため息をひとつ。


「カルラはわたしの話を全然聞いていない。

 バリスタイン様からも昨日、言われているはず。わたし達が直接手を出すのはダメ。ギルドマスターにバレると面倒だから。

 子爵様に告げ口をされるとバリスタイン様が怒る。だからあくまで事故に見せかける。その為の魔物寄せの香なんだから」


「でもさぁ、マッドウルフの群れくらいであいつを倒せるのかよ? 昨日ちらっと見ただけだけど、かなり良さそうな剣を持ってたぞ。あいつのランクはわかったのか?」


「確かにそこそこ強そうだった。でも、あの男はDランクらしい。だから数匹なら倒せるけど、連続で群れを相手にするのはソロではしんどいはず。

 怪我くらいは確実に負うと思う。そこを麻痺の香で動けなくすれば間違ってもわたし達が負けるはずはない。だから大丈夫。カルラはわたしの言うことを聞いていればいい」


「いつものように、か?」


「そう、いつものように。それでうまくいくはず、今回も」



 うまくいくはず、今回も。

 コルラの言葉通り、上手くいくはずだった。


 なのに……あの男はコルラの想像以上に強かったようだ。


 魔物寄せの香が利きすぎたのか、予想以上のマッドウルフが集まってしまい、途中で焦ったコルラが乱入しそうになり、あたしは必死にコルラを掴んで止めなければいけなかった。


 あの男を心配して?

 いやいや、そうじゃない。


 あの男の巻き添えになって、『捕獲対象』が死んでしまうことを恐れたコルラが軽くパニックになってしまったのだ。

 もしそうなったらそうなったで諦めるしかない。


 バリスタイン様には怒られるかもしれないが、あの数のマッドウルフの群れを相手にするのは、さすがにあたしとコルラでも無理だし。

 命あっての物種だ。


「バリスタイン様に怒られる」


 そう呟き落ち込むコルラをしり目に、あたしはその戦闘を観察していた。


 かなり距離があるので細かいところはわからないが、あの男はなんとか生きているようだ。


 しかも、どうやっているのかはわからないが、自分を囲むマッドウルフの群れを弾き飛ばしていたりする。


 ヤバいな、あいつ相当な強者なんじゃないのか?

 あたしとコルラ二人がかりでも勝てないんじゃないのか?


 あたしは冷や汗をかきながらも唾を飲み込み、コルラをその場に残してそっと近づきながらも観察を続けていた。


「ねぇ、コルラ……あいつのランク、なんだっけ?」


「……たしかDランク」


「だよなぁ……なんでDランクのあいつが、あの数のマッドウルフに囲まれて無事なわけ?」


「知らない……そんなことわたしが聞きたい」


 あたしとコルラはその光景を眺めて呆然としていた。


 少しずつ距離を縮めていたあたしに気がついたコルラが後を追いかけてきて、限界まで近づきあの男の戦闘を木の陰に隠れて見ていた。


 助けようと考えたわけではない。

 チャンスがあれば『捕獲対象』だけでも強奪しようと思ってのことだ。


 徐々にその数を減らすマッドウルフの群れ、満身創痍で今にも倒れそうになりながら剣を振るあの男。


 一瞬の隙を待ち、結局は最後まであたしは動けなかった。


 なんとあの男は全てのマッドウルフを撃退してしまった。

 いや、殲滅してしまったのだ。


 それは、辺り一面に飛び散る血や体の一部だった残骸、マッドウルフの死体を見れば一目瞭然だった。


 一匹たりとも撃ち漏らすことなく、全てを殺しつくしていた。

 むせ返るような血の匂いが、ここまで届いてくる。


 あの男と敵対するのは間違いかもしれない。

 あたしだけではなく、コルラの脳裏にもきっと同じ言葉が浮かんでいるはずだ。


 けれど、あたし達は逃げるわけにはいかない。

 バリスタイン様からの命を受けてこの場所にいるのだから。


 でも、あたしは確認してしまう。

 頭のいいコルラならば、計画を取りやめる名案が浮かんでいるかもしれないし。


「どうする? やるか? それとも――」


「やるしかない。手ぶらで帰れば、わたし達が罰を受ける。

 大丈夫、さっきから麻痺の香を焚いているし、あと数分で効果が表れるはず。それに見て」


 見て?

 何をだ?


 確かにあいつは弱っているだろう。

 足取りはフラフラしているし、今にも倒れそうだ。


 さっきまでの光景を見ていなければ、これ幸いとあたしは剣を片手に飛び込んでいくだろう。


 ただ、アレを見させられたら無理だ。

 あたしには勝てない。


 そうわかってしまったから。

 心がそう思い込んでしまっているから。


 コルラには悪いが、あたしでは勝てない。

 そう言おうとした時だ。

 あの男のそばに、見慣れないものがいた。


 またマッドウルフか?

 いや、似ているが雰囲気が違う。


 あの生き物はなんだ?

 もっと良く見ようとするが、木々や草で視界を遮られて見えづらい。

 答えを求めるあたしに、コルラが呟く。


「あれは、たぶん普通種の狼。こんなに近くで見たのは初めて。

 この地方にいるとは聞いていたけれど、わたし達は運がいい。あれらを捕まえれば、バリスタイン様から褒められる。

 万が一、『捕獲対象』を手に入れられなかったとしても、罰を受けることはないと思う。

 カルラ、最悪、あの普通種の狼にターゲットを移そう」


「わかった。その判断はコルラに任せる」


 返事をしながらも、どこかあたしはほっとしていた。

 あの男と敵対しなくてもすむかもしれないのだ。


 それならそれが一番いい。

 コルラが大丈夫だと言うならば、是非そうしたい。


 あたしはコルラの次の言葉を待ちつつ、その場で待機した。


 待機とは名ばかりで、実際は息を殺して見つからないようにじっとしていたのだけど。




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