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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
255/321

255.美容師~ジストを奪われる

 

「さて、というわけでお前には悪いが、こっちも仕事なんでな。恨むんならあの場にいたことを恨むんだね」


「何をする気なんだ?」


 地面に頬をつけたままで話しかけると、


「しゃべった!? こんなに近くで大量に嗅がせているのに」


 コルラがびくっとして、まじまじと見降ろしてくる。


「不思議……残念……できればもっといろいろ実験がしたいのに」


「あー、コルラ。あんたは撤収の準備をしてなよ。あとはあたしがやっておくからさ」


「ダメ。カルラには任せておけない。せめて捕獲対象はわたしが連れていく。失敗したら、またバリスタイン様に怒られる」


「ったく、ちょっとはあたしのことを信用しろよな。まぁ、いいけど。ほらっ、こいつだろ、受け取れ」


 カルラが僕のフードに手を入れて、嫌がるジストの首を掴んで引きずり出した。


「やめろ! まだ子供なんだ! 乱暴にするな!!」


 ジストを取り返したいのに、僕の体はまったく自由にならない。

 どんなに力を入れても、指先の数本が痺れたように震えるだけだ。


 さっきまでの間の抜けた空気はなく、冷たい汗が額から頬に落ちて地面を濡らす。


「こいつの心配よりも自分の心配をしたらどうなんだ? お前、バリスタイン様に逆らって、このまま無事に冒険者を続けられるとでも思っているのか?」


 凄みを効かせた低い声で、カルラが脅しの言葉をぶつけてきた。


 こいつら、ここに僕を始末しにきたのか?

 でも、それならさっきからこいつらが言っている『捕獲対象』とはなんだ?


 黙っている僕が怯えているとでも思ったのか、カルラが言葉を重ねてくる。


「カッコつけて女を庇うからこんな目に合うんだ。

 お前も他の奴らみたいに、見て見ぬ振りさえすれば、こんな目に合わなかったのに残念だったな」


 せせら笑うカルラのあとに、コルラが無表情で続ける。


「でも、このコがバリスタイン様に見つかった段階で、どっちにしろ同じ。金を貰って手放すか、無理やり奪い取られるかの二択しかあなたには選択肢はないし」


「お前達の目的はジストなのか? どうして?」


「ジスト? こいつのことか? 変な名前だな。まぁ、どうでもいいけど」


「そう、バリスタイン様は珍しいものを集めるのが趣味。

 偶然目に入った、この真っ黒で毛むくじゃらな生き物に興味があるみたい。だから、このコはわたしが貰っていく」


「そう言われて、はいそうですかって渡すとでも思うのか?」


「ふん、そんな怖い顔をしても無駄。あなたは麻痺で体が痺れて動けない。

 いくらマッドウルフの群れを倒す実力があっても、どうすることもできない。ご愁傷様」


「そうだぜ。ちょっと実力があるからって調子に乗っているからこうなるんだ。

 せっかく隠れて魔物寄せの香を焚いたのに、あれだけのマッドウルフに囲まれて、まさか生き残るなんてな」


 カルラの言葉の中に気になる単語があった。

 魔物寄せの香?

 それって、


「もしかして、大量のマッドウルフの群れはお前達の仕業なのか?」


「カルラの馬鹿。あの香はこの国でも使用を禁止されているものなのに。

 絶対にバリスタイン様から怒られる。下手したらあなたの命もないかもしれない」


「……しまったな。こいつ、殺るか?」


「駄目。直接手を出すと、この街のギルマスが騒いで子爵様に連絡されたら面倒。だからわざわざ魔物寄せの香で大量の魔物に襲わせて殺そうとしたのに」


「そうだよな……でも、ようするにあたし達の仕業だとバレなきゃいいんだろ? 仕方ないから上手く偽装するさ。

 コルラ、あんたはその奇妙な生き物を連れて先に戻ってな。あまり遅いとバリスタイン様に叱られる」


「カルラはどうするの?」


「あたしはこいつを始末してから行くよ。

 しばらく体は動かないんだろ? 適当な魔物の目の前に置いて来れば、あとはご自由にってとこさ。

 なに、ぐちゃぐちゃに食い殺されれば、あたし達のせいにはされないよ、大丈夫さ」


 2人の会話を聞きながら、このままではマズイと作戦を考える。


 幸いにも≪麻痺耐性≫のおかげか、口が動くということは魔言を唱えられる。

 隙を見て、魔法を発動させればなんとかなるかも。


 感情の見えない目で僕を見降ろしていたコルラが、腰のポーチから茶色い草を取り出して、すばやく僕の口の中にねじ込んできた。


「カルラは馬鹿だから、わたしが対応しておく。

 魔法を使うかもしれないから麻痺の草を直接口内に接種させた。さすがわたし、カルラはぞんぶんにわたしを褒めるといい」


「ああ、ありがとよ。ほらっ、あとはあたしに任せてさっさと行けよ」


「任せるも何も、カルラが巻いた種を自分で刈り取るだけ。わたしには関係ない。でも、気をつけて」


 最後に僕をじっと見つめて、コルラが立ち去っていく。

 片手でジストの首を掴んで、予め用意していたであろう布袋の中に無理やり押し込みながら。


「よし、ちゃっちゃとすませて、あたしも帰るとするか。

 悪く思うなよ……っていうか、お前のせいで、あたし達は昨日、バリスタイン様に凄く怒られたから、やっぱりお前のせいだな。後悔して自分のせいだと諦めろ」


 この女、無茶苦茶言うな。

 言い返してやりたいが、舌が痺れていて無理っぽい。


 体は動かない。

 魔法も発動できない。

 これは詰んだか。


 こんな時に、颯爽と助けに来てくれる仲間がいればいいのだけど。


 これもパーティーを組んだ方がいいとマリーに言われ続けていたのに、ソロで押し通した自分が悪い。


「とりあえず手と足の一本でも折っておくか。万が一、放置した後に体が自由になると困るしな」


 不穏な言葉を呟きながら近づいてくるカルラを見つめ、僕は天に祈った。


 どうか、せめてジストだけでも誰か助けてくれないか、と。



いつも読んでいただき、ありがとうございます。


ブックマーク、評価、レビュー等頂けると大変嬉しく思います。


今後ともよろしくお願いします。


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