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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
252/321

252.美容師~会いたくない人物に出会う

ジストがソーヤのフードにいることに、文章を加筆して修正しました。

 

 魔力回復薬を飲み干して、タプタプするお腹を手のひらでさする。


 うーん、飲みすぎて気持ちが悪い。

 それに体のいたるところが痛いし。


 自分の体なのに、どこに怪我をしているのか見当もつかなかった。

 血や泥、中には肉片等がこびり付いていて、かなりスプラッタな状態なのだ。


 そんな僕だけど、何故か一か所だけこぎれいな場所がある。

 シザ―ケースだけは切り取られた別空間のように汚れが一切ないんだ。


 これもリリエンデール様の加護の影響なのかはわからないが、血の汚れは革に染み込むと取れないので助かった。


 とりあえず、これ以上水分は取りたくないので、体力回復薬を痛みを発する場所に振りかけていくと大分ましにはなった。


 だけど、やっぱりやる気がでない。

 これはしょうがないな、うん。


 応援を呼ぶしかない。

 どう考えても今の僕には無理だ。


 この数の死体から剥ぎ取りを行い、かつ一ヶ所に纏めて燃やすなんてハードすぎる。

 一旦冒険者ギルドまで戻って、依頼を出して人手を募集しよう。


 これだけのマッドウルフの魔核結晶や部位の報酬があるんだ。

 10人程集めて、一人につきマッドウルフを一体進呈すれば誰も文句は言わないはずだ。


 そうと決まればと、疲れた体に鞭を打ち、のそのそと歩き出す。


「僕は一旦帰るよー。ここには人がたくさん来るから、お前達もここを離れた方がいいよ」


 声をかけるが、狼達は何故かこの場を動こうとはしない。


「どうした? 僕の言っている意味がわからないのか?」


 さっきまでの以心伝心な感じはどこに行ってしまったのか。

 首を傾げ狼親子に近づく僕に、子狼が「ガゥ」と一鳴き。


【臭い!】


 頭の中に言葉が浮かぶ。


「わかってるって、僕が血まみれで臭いから近寄るなって言いたいんだろ?

 酷いよね。僕ってば一応、お前達を魔物から守ったつもりなんだけど」


【違う! 臭い! 臭い匂い! あっちから!!】


 子狼が「ガゥ! グアゥ!」と鳴いて、森の入り口に顔を向ける。


 父狼と母狼も同じ方向に顔を向けて、「ガウゥ!」、「グルゥ」と警戒したように体ごと向き直る。


【来る!】


【何か!】


 狼親子が叫ぶように意志を伝えてくるので、森の入り口方向から何かが来るようだ。


 とりあえず何が起きてもいいように、僕はジストを回収しようと動いたが、こんな時なのにジストはさささっと僕から離れていく。


 この子ってば、そんなに僕のことが嫌いなのだろうか。

 少し、いやかなりへこむんだけど。


 仕方がないので、嫌がるジストを無理矢理に捕まえてフードに収納。

 暴れているけど、ここは我慢してもらう。


 気を取り直して、≪気配察知≫を発動。

 本当だ、何か……誰かがいる。

 しかも2人。


「誰かな? そこの木の陰に隠れているのはわかっているんだけど」


 親切な冒険者がマッドウルフの剥ぎ取りを手伝いにきてくれたのならいいのに。

 そんな淡い期待を裏切るべく、木の陰から現れたのは会いたくもない人物だった。


「カルラ、やっぱりアレ、普通種の狼だと思う」


「珍しいわね、こんな所でお目にかけるなんて……しかもあの大きさ、親子みたい。

 バリスタイン様に持って帰れば、昨日の失態も帳消しにしてもらえそうね」


 剣を持った女性とフード付きのローブを纏った女性の二人組。

 確か、剣士のカルラと魔導士のコルラだっけ。

 2人共Cランクの冒険者で、小太りの男と一緒にいたあいつらだ。


「とりあえず捕まえよう。足を狙って、なるべく殺さないようにしないとね。

 コルラ、逃がさないように子供から魔法で捕まえられない? 子供を捕まえれば親は逃げないはず」


「わかった、やってみる」


 カルラとコルラは僕を無視して二人で話し合い、コルラが魔言を紡ぎ始めた。

 その間、カルラは何かを探すように辺りをキョロキョロと見回している。


「コルラ、捕獲対象の姿が見つからないんだけど。どこかに逃げられた?」


「待って……それはない。わたしの探知だと、この場の生命反応は5つ。たぶん、どこかに隠れていると思う……いた、あそこ」


 ふらふらとさ迷っていたコルラの杖が、ピタリと僕に向けられた。


 捕獲対象?

 さっきからこの二人は何を言っているんだ?


 しかも、狼親子を捕まえる?

 バリスタイン様に持って帰る?


「ねぇ、急に現れてなんなんだ? あの貴族の息子は一緒じゃないのか? こんな所で何をしている?」


 矢継ぎ早に質問をしてみるが、返事はない。

 コルラは再び魔言を紡ぎ始めているし、カルラはねっとりとした目を僕に向けてきている。


「言葉が通じないのか? それとも……やる気なのか?」


 やる気なのか? と自ら聞いてはいるが、できればやりたくはない。

 だって、僕はもうへとへとなんだ。


 こんな状態で格上のCランク2人を相手にするなんて、脱兎のごとく逃げ出したい。

 けど……そうはいかないんだろうな。


 僕だけが狙われているのならまだしも、こいつらは狼親子を狙っている。

 捕獲してあの男に持って帰りたいみたいだし。


 そうとなれば……コルラと狼親子の間に立ちふさがるように移動した。

 鞘に収めた月刀孤影に手をかけて、いつでも抜けるように準備をする。




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