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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
25/321

25.美容師~マリーの行動が気にかかる

 

 キラービーの生息地はニムルの森を入ってずっと左に進んだ林の中だ。

 木の葉の影に隠れて獲物を狙う習性があるらしい。

 飛んでいるときは、ジジジジと羽の音がするので、気をつけていれば奇襲されることもないとのこと。


 取ったばかりのスキル《聴覚拡張》を意識して、耳を澄まし警戒する。

 長剣は腰から抜いて右手に持っておいた。

 

 とりあえず戦ってみて、余裕があれば抜剣からの攻撃等の練習もしてみよう。

 先に先にと進むと、急に気配を感じた。

 

 右か!?

 とっさに剣を振りあげた。

 短剣を振るよりもやはり速度が出ないが、ギッと鳴き声とともに飛んできた物体は二つに別れて落ちた。

 

 ボーリングの球くらいの大きさの蜂型の魔物だ。

 お尻には10センチ程の針が生えている。

 どこかに潜んで、こちらを狙っていたのか。

 針と魔核結晶を剥ぎ取り、小袋にしまう。


 周りを見渡す。

 他に魔物の姿はないが、何かに見られているような気配がある。

 目を凝らして、気配のする方を順番に眺めた。


 ポーン、


【スキル 気配察知を獲得しました】


 これで隠れているキラービーを探せればいいのだが……。

 

 視界の中で、気になりますが発動し、重なり合った葉の裏に気配を感じた。

 長剣を左手に持ち替え、右手で短剣を抜いた。

 

 一度その場所から視線を逸らし、素早く短剣を投げた。

 短剣は真っ直ぐに葉を切り裂き、標的に刺さったまま地面に落ちた。


 ポーン、


【スキル 投擲を獲得しました】


 もう投擲スキルを覚えたのか……投擲の才能なんて、僕にあったのか?


 キラービーから短剣を抜いて、針と魔核結晶を剥ぎ取る。

 ビッグワームの魔核は茶色一色だったが、キラービーの魔核は緑色が混じっている。

 こちらの方が魔物のランクが上だからだろうか。


 短剣を籠手に収納して、長剣を抜いた。

 もう少しキラービーを狩って、長剣の練習をしよう。

 気配察知のスキルを意識しながら、気になりますが訪れるのを待った。



 合計で15匹のキラービーを討伐し、長剣の扱いにも大分慣れてきたので街に帰ることにした。

 剣術スキルのレベルが3に上がると、無駄な力を入れることなく、スムーズに剣を振れるようになり、空中で同じ個体に3回切り付けることができた。

 

 投擲スキルもレベル2になった。

 順調にスキルを獲得し、レベル上げも進んでいる。

 

 一般の冒険者と比べて、僕はどの程度強くなったのだろう。

 少なくとも、キラービーからの攻撃は3匹に囲まれても一度も喰らわず倒すことができた。



 ギルドの受付にはマリーではなく、他の受付嬢がいた。

 寂しいような騒がれなくてすむと安堵するような……複雑な気持ちだ。


「こんにちは。どのようなご用でしょうか?」


「依頼達成の確認と買い取りをお願いします」


「かしこまりました。では、ギルドカードと討伐証明等があればお出しください」


 小袋から、キラービーの針と魔核結晶を取り出してカウンターに並べた。


「キラービーの討伐依頼ですね……針が15本に魔核も15個。はい、問題ありません。魔核も買い取りですか?」


「はい、お願いします」


「計算しますのでお待ちください」


 紙に羽ペンで数字を書き込み計算している間、暇なので彼女を観察した。

 栗色の髪は背中側に流されているので正確にはわからないが、腰までありそうだ。


「えーと、針が1本30リムで、魔核が個40リムで……1050リムだから……はい、依頼報酬と合わせ1250リムになります。随分たくさん倒したんですね。確認してください」


 並べられた硬貨を確認して、財布代わりの小袋にしまう。

 たくさん倒したと褒められたが、ノインがないと報酬が少なく感じてしまう。

 あとは、この人がカードのスキルを見て騒がなければいいのだが。


「ギルドカードの更新はなさいますか?」


 カードを渡し身構えていると、受付嬢が機械操作しながら聞いてきた。


「えっ? 自分で選べるのですか? でも、カードの更新は依頼を受けたり達成確認の時に自動で更新されるのでは?」


 今までのマリーとのやり取りを思いだし、疑問がわく。


「えっ……基本的にギルド側で勝手に更新することはありませんよ。

 長期間更新をしていない時には、更新をお勧めすることはありますが。

 まぁ、更新をしないとステータスの確認ができませんので、皆様定期的に更新はしますが、流石に毎回は行いません。毎回、スキルを取得できるなら別ですけどね」


 なん……だと……。

 マリーは毎回、僕のカードを勝手に更新していたということか。

 少なくとも、更新するかを聞かれたことはない。

 でもどうして……。


「あの、どうかしましたか? 当ギルドの対応で何か不手際(ふてぎわ)でも?」


 カード受け取らず、考え込む僕を見て、彼女が不安そうにする。


「いえ、すいません。変なことを聞いて。今日は更新はしなくていいです」


「でも15匹も倒したので、レベルが上がっている可能性がありますよ」


 そういうこともあるのか。

 それに彼女は僕のスキル構成を知らないはずだ。

 騒がれる心配はないか。


「では、更新をお願いします」


 彼女が更新作業を終えて、カードを返してくれた。


 緑のカードを受け取り、ポケットにねじ込んだ。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 椅子に座って、ゆっくりと確認することにしよう。

 テーブルについて、喉が渇いていたので果実酒を注文した。

 たまには軽く酒でも飲もう。

 改めてギルドカードを確認する。



 ==


 名前 ソーヤ・オリガミ

 種族 人間 男 

 年齢 26歳

 職業:    

 レベル:1

 HP:20/20 

 MP:20/20

 筋力:16

 体力:16

 魔力:16

 器用:32

 俊敏:18


 スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv1》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv1》、気配察知《Lv1》、投擲《Lv2》


 称号:


 ==


 ずいぶんスキルが増えてきたな。

 でも、やっぱり観察がない。

 

 あの時、頭の中で聞こえたようだったが、あれはなんだったのだろう。  

 そうだ、言語翻訳のスキルもギルドカードには表示されていなかった。

 ノートにはより詳細にステータスが書かれているとしたら……果実酒を飲み干し、宿屋に向かった。



 女将に頼んで夕飯は部屋に運んでもらった。

 肉と野菜を炒めたものと、いつもの灰色の固いパン。

 日本で食べていたものと比べると、味はかなり落ちるがだんだん慣れてきた。

 パンをかじり、ノートに書かれたステータスを眺めた。



 ==


 名前 ソーヤ・オリガミ

 種族 人間 男 

 年齢 26歳

 職業:    

 レベル:1

 HP:20/20 

 MP:20/20

 筋力:16

 体力:16

 魔力:16

 器用:32

 俊敏:18


 ユニークスキル:言語翻訳《/》、観察《Lv1》


 スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv1》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv1》、気配察知《Lv1》、投擲《Lv2》


 称号:女神リリエンデールの加護


 装備:カットソー、ジーンズ、シザーケース、腕時計、長剣、短剣、革の防具一式、黒曜の籠手


 ==


 …‥やっぱりあった。

 観察はユニークスキルの項目になるのか。

 

 ギルドカードに表示されないということは、あまりおおっぴらにしないほうがいいのだろうか。

 

 ギルドカードの更新が義務じゃないのなら、僕に限っては必要がないと言える。

 好きな時にこのノートで確認すればいいし、より詳細にわかる。

 

 マリーは、何故僕に尋ねることなく、毎回カードの更新をしたのだろう。

 

 今日対応してくれた受付嬢は、更新後にカードの内容を見ることなく渡してきた。

 別にマリーに見られて困るわけではないし、見たいのなら見ればいいとも思う。

 ただ、このノートは見せられないな……。

 

 特にユニークスキルと称号の項目だ。

 この世界で女神様の加護を得ている人はどれくらいいるのだろう。

 女神様についての情報等、調べてみたほうがいいかもしれない。

 

 それに教会……この世界で唯一他人の髪の毛に触れることが許された機関。

 僕も教会で働けば、美容室を開くことができるのだろうか。

 

 布袋から、アンジェリーナを出して、編み上げていた髪の毛をほどいた。

 癖がついてパーマをかけたように、緩やかにうねっている。

 その手触りを楽しみつつ、マリーとグラリスさんの会話を思い出した。


 あの黒い籠手は、ノートには黒曜の籠手と表示されていた。

 

 籠手の持ち主である、二人の言う、あの人とはいったい誰なのだろう。

 大事な人の大事な物なのは、雰囲気から理解できた。

 そして、その人がもう帰ってこない……亡くなってしまったということも。

 

 午後、マリーが受付にいなかったのも気にかかる。

 たまたまなのか、早退でもしたのか……。

 

 明日はいつもの笑顔でいてくれればいいな。

 アンジェリーナの頭を撫で、


 「お前もそう思わないか?」


 話しかけてみたが、当然のように返事はなかった。




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