249.美容師~マッドウルフを間引く
247話、終わり付近に一部加筆を加えました。
女神からほんのお礼を貰う、という内容です。
マッドウルフの討伐依頼を受けてニムルの森に向かう。
フィクスさんとの共闘でほぼ殲滅しつくしていたような気はするが、まだまだ目撃情報があるらしい。
キンバリーさん曰く、マッドウルフの数が増えることはたまにはあるらしいが、この数は少し異常かもしれない、とのこと。
無理をしないで危なくなったら逃げることを約束し、危険だと小言を言われながらも特別に一人でも依頼を受けさせてもらえた。
キンバリーさんにせめてジストを預かってあげよう、と提案されたが、昨日はお休みした分、今日は一緒に戦闘訓練という名の同行で。
さすがにマッドウルフ相手にジストが戦うことはないけれど、僕のそばにいれば経験値が手に入るので成長も早まると思う。
最近、日増しに体が大きくなり、子犬くらいの大きさになってきたので、そろそろフードにも収まりきらなくなってきた。
お父さんとしては息子の成長が嬉しくもあり、どこかさみしくもあるのだが、早く大きくなって相棒として一緒に狩りをするのも楽しみだったりする。
どこか冷たい息子の為だけど、お父さんは今日も頑張るとしますか。
森に入り泉の手前で狼親子を探してみるが、残念ながら今日もいない。
最近会っていないけれど、どこか住処を移したのだろうか。
元気になったジストを会わせてやりたいのだが、また今度の機会を待つしかない。
奥に進み、《気配察知》でマッドウルフを探す。
フードの中でジストが暴れまわるので地面に下ろすと、生意気に鼻を鳴らして辺りを嗅ぎまわっていた。
魔物の気配がしたらすぐに回収できるよう、離れすぎない距離を保って近くをついてまわる。
30分程ジストの好きなようにさせていると、《気配察知》が反応したのですばやくジストを捕まえてフードにしまった。
「1匹か……たぶんマッドウルフだと思うけれど」
月刀弧影を右手で抜いて、近づいてくる魔物を待ち構える。
頭の中で事前に戦闘の組立を行い、まずは魔法で先制攻撃をすることにした。
魔言を紡いで『アクアバレット』を発動。
3つの水の礫がスピードを落とさずに飛びかかってきたマッドウルフの鼻先に命中。
「ギャインッ」
悲鳴をあげて空中で丸まったマッドウルフの腹部を力強く切り裂き、地面に落ちた所を返す刀で仕留めに行く。
首元に入れた一撃が致命傷となり、ピクピクと動いているのを離れて見守っているとすぐに絶命したようだ。
《気配察知》で周囲を探りながら、魔核結晶と売却部位を剥ぎ取り革袋にしまう。
袋は邪魔になるので木の根元に置いておく。
僕がいるのは風上なので、血の匂いが流れていけばマッドウルフが集まってくるはずだ。
この場所に待機でいいだろう。
水を一口飲んで、再びジストをフードから下ろす。
今までならば、魔法で傷を負わせて剣でとどめをさすとしても、もう一手二手は余分にかけていた。
今回は最小の手数で倒せたと思うし、あの直後に横から別の魔物に奇襲されていたとしてもきちんと対応できていたと思う。
自分が攻撃されないように慎重なのは良いが、慎重すぎて逃げ腰なのをフィクスさんに注意されていたので、及第点を貰えるはずだ。
手ごたえを感じながら、次の獲物が近づいてくるのを待つことに。
その後、合計で4匹のマッドウルフを討伐してお昼にすることにした。
さすがに昨日のように大量の群れや連続で襲われることはなく、30分おきくらいに1匹ずつの戦闘だった。
本来群れで襲いかかってくるはずのマッドウルフが群れていないので、数はだいぶ減ったのだろう。
この分だと、マッドウルフの間引きも今日で終了かもしれない。
ギルドに戻ったらキンバリーさんに報告してみよう。
泉の手前側まで戻り、宿でお弁当にしてもらったパンをジストと食べていると、《気配察知》に反応が3つ。
この大きさは……草むらから飛び出てきた子供狼が駆け寄ってきて、僕の胸元に飛び乗ってきた。
それを見たジストが警戒したように少し離れ、「ぐるるるるぅ」と小さな声で威嚇し始めるが、父狼と母狼が後から現れると、尻尾を股の間に挟んで小刻みに震えだす。
まだ赤ちゃんだし仕方ないかな。
僕を守る為に戦かおうとしてくれるくらいは、ちょっと期待していたんだけど。
心の中だけで呟いて、苦笑交じりに3匹にも昼食のパンを分けてやることに。
僕にじゃれつく子狼を離れた場所から眺めるジストに、「おいで」と声をかけてやるが、プイッと顔をそむけられてしまった。
お父さんが取られたと思って拗ねているのかな?
子狼を片手であやしながらジストの様子を窺っていると、チラチラとこちらを見ているのがわかる。
ばれていないと思っているようだが、わざと気がつかない振りをしているだけだ。
たまに顔を向けると、急いでまたそっぽを向くので面白い。
父狼と母狼は、最初にチラリとジストを見ただけで、あとは僕のそばで寝そべってリラックスした感じで目を閉じている。
子狼も遊び疲れたのか、寝ころぶ僕の胸に顔を乗せて、くあぁと欠伸を1つ。
天気もいいし、絶好の昼寝日和だ。
子狼の背中を撫でてその手触りを楽しんでいると、僕まで眠くなってきてしまう。
「ジストー、こっちに来て一緒に昼寝でもしようよー」
声をかけると、耳だけがぴくっと動いてこっちを向いたが頑なに顔は向けようとしない。
強情だなぁ、まったく誰に似たんだか。
くくくっ、と笑いを噛み殺し、子狼につられるように欠伸をする。
子供同士、子狼と遊べばいいのに。
まだ慣れていないから急には無理かな。
子狼の方は興味自体はありそうで、時折ジストに向かって短く鳴いたりしているんだけど。
こっちに来いよ、なんとなくそう言っているのがわかる気がする。
我が子の引っ込み思案な性格を悩みながら、眠気に負けてまどろみを楽しむことにした。
その間も《気配察知》だけは切らさないようにしよう。
何かあっても、この4匹だけは絶対に守りきらないと。




