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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
247/321

247.美容師~愚痴を聞いてもらう

 

「……というわけで、酷いと思いませんか? 気がつくと、なんだか僕だけが損をしているんです」


 リリエンデール様の髪の毛をブラシで梳かしながら、愚痴を聞いてもらっていると、コロコロと笑いながら鏡越しに見つめられた。


「それは災難だったわね、ソーヤ君。

 でも、そうなるとわかっていたとしても、その女の子のことを見て見ぬ振りはできないんでしょ?」


「それはまぁ、そうだと思いますけど」


「そうよね。ソーヤ君は優しいから、きっと同じ場面に遭遇したら、次も同じようにすると思うわ。なんだったらわたし、賭けてもいいわよ」


 にっこりと笑いかけられてそう言われると、それもそうだなと思えてしまうから不思議だ。


 これも女神様のオーラが成せる技なのか。

 なんだかどうでもいいことのように思えてしまうから不思議だ。


 よし、この件に関してはこれでお終い。

 やってしまったことは仕方ないし、何より僕自身で後悔をしているわけではない。


 ならば、なるようになると信じて、マリーの無事を喜べばいい。

 そう思い直して、鏡の中に映るリリエンデール様を改めて見る。


 僕の思い違いでなければ、出会った頃から綺麗だったリリエンデール様は最近ますます綺麗になった。


『どう? 最近のわたしは光輝いていると思わない?』


 いつだかこんなことを言っていたが、本当に輝きが増しているような気すらする。

 青と緑の混ざったような碧の髪の毛は、『ドライヤー』を使用したブローで艶々になり、毛先は軽く外跳ねにしている。


 序列が5位に上がった頃から主神様に呼び出される回数が増えていて、今では10日に一度くらいはこうして僕も呼び出されることになっている。


 本人曰く、より一層の寵愛を頂けて幸せだ、とのこと。

 やはり恋する乙女は綺麗になるものなのだろうか?



「この調子なら、序列が4位になるのもすぐじゃないんですか?」


 冗談めかしてそう言ってみたが、リリエンデール様は困ったように顔をしかめてしまった。

 なんだろう?

 僕は何かマズイことを言ってしまったのか?


「ソーヤ君にはわからないだろうけどね、本来序列が上がるってすごいことなのよ。そんなにポンポン上がったら苦労はないわ」


「でも、この短い期間でリリエンデール様は7位から5位に上がったんですよね?」


「確かにそうね。でもたぶん、4位に上がることはないわ。わたしは5位から上にはいけないの」


「それは……どうしてですか? 4位以上の女神様達は、それほどまで主神様に愛されているとか?」


「うーん……確かに愛されているとは思うわよ。けどね、5位から上に行くには愛されるだけではだめなのよ。それこそ、1位になるにはどれだけのことをすればいいのか」


「そうなんですか? 僕的にはこのままリリエンデール様が1位になってくれれば、あの禁忌も取り下げてくれると少し期待していたんですが」


「それはごめんなさいね。ソーヤ君の期待を裏切ってしまうことになるけれど、今のわたしでは1位になるのは無理ね。だって……わたしには……ないもの」


 ん?

 途中の呟きが小さすぎて聞き取れなかった。


 こんな時に仕事をしない≪聴覚拡張≫

 最近はいらない余計なものばかりを僕の耳に届けてくれる。


「まぁ、いいじゃないの。わたしは満足よ、5位になれて。そのおかげで頻繁にあのお方に呼んでいただけるし、寵愛を頂けるからソーヤ君にもお裾分けができるし」


 胸の前でパンッと両手を合わせるように叩き、


「で、決まったかしら?」


 勢いよく振り返り、顔を覗き込まれる。


 序列が5位になり、主神様から寵愛を頂くことで力が増したリリエンデール様は『お裾分け』という言葉で僕に『より強い加護』を与えようとしてくれたのだが、そうなるとセットで『アイツ』の力が増すわけで、丁重にお断りをさせてもらった。


 そのかわりと言ってはなんだけど、僕の持ち物にその分の力を分け与えてくれることになったのだが、僕はその対象を決めかねていたりする。

 そこでさっきの『決まったかしら』というわけだ。


「特にまだ決まってません。次回までに決めておきますので」


「そう? なら決まったら教えてね。そろそろ時間だからわたしは行くわね。ソーヤ君、その貴族の息子だったかしら? 気をつけるのよ? 人間は時に、思いもよらないような残酷なことをするのだから」


「わかりました。では、主神様と楽しんできてくださいね」


「もちろんよ! いつもありがとうね。そうだ! これはわたしからのほんの少しのお礼よ」


 悪戯っぽく微笑んだリリエンデール様にクルクルー、と指を向けられて僕は下に戻る。


 ほんの少しのお礼?

 なんだろう?


 特に力が沸いてくる感じはしないし、ほんの少しだから加護を強くされたわけでもなさそうだし、たいしたことはないのかな?


 それよりも……リリエンデール様の言う通り、気をつけなくては。


 去り際に見せられたあの目。

 あれは同じ人間を見るような目ではなかった。


 まるで、命を奪うことを躊躇していないどす黒く濁った瞳。

 あれがマリーに向けられることがなくて本当によかった。



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