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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
242/321

242.美容師~グラリスの愚痴を聞く

 

 グラリスさんは珍しく工房の外に出ていて、壺を片手に持ち、店の前に何かを振りまいていた。


 何をしているんだろう?

 疑問に思いながら近づいていくと、茶色い土の上に白い物が大量に落ちていた。


「おぅ、ソーヤか……早く来なくてよかったぜ。まぁ、こんなもんだな!」


 握りしめていた右手を地面に叩きつけ、壺を作業台の上に置いて両手をパンパンとはたくグラリスさん。


「えーと、何かあったんですか? それにこれって」


「ああ、嫌な客が来ててよ。塩撒いてんだ、塩」


 言いながら、指先をぺろりと舐めて顔をしかめている。

 この世界にも嫌な客を追い払った後に塩を撒く習慣があるんだなぁ。

 なんて感心していると、


「で、どうした? 武器か防具のメンテナンスか? 見せてみろ」


 作業台の上に載っていた物達を片手で隅に寄せて、ここに置けと急かしてくる。


「いえ、ちょっと纏まった収入があったので、武器と防具の返済をしようかと」


「なんだ、そんなことかよ。別に急がなくてもいいんだぜ。ある時に払ってくれれば」


「だから、今がある時だから来たんですよ。少しずつでも返していかないと、いつ払い終わるのかわからないですから」


 予め分けておいたお金を、革袋ごとグラリスさんに渡す。


「20万リムあります。確認してください」


「あいよ。毎度あり」


 確認してください、とい言ったのに、その素振りも見せず作業台の上にポンと放り投げるグラリスさん。

 こういうところは男前で見習いたいものだ。


「武器と防具の使い勝手はどうだ? 直すところがあるならすぐに直せるぜ? 今は手も空いてるしな」


「全然問題なんてないですよ。完璧です。

防具はまだ攻撃事態を食らっていないので防御力に関してはわかりませんが動きやすいですし、武器は前に使っていた短剣よりも切れ味が段違いで、昨日マッドウルフと戦ったときなんかもすごかったんですから」


 昨日のマッドウルフとの戦闘を思い返しながら、武器の性能についてグラリスさんに説明した。

 グラリスさんも僕の話を聞いて満足そうにうなずきながら、


「いやぁ、ナイスタイミングだったな。ソーヤが来てくれてよかったぜ。あまりにも気分が悪かったから、店を閉めて浴びる程酒を飲むところだった」


 あのままだと、明日は確実に二日酔いで苦しむところだったな、なんて漏らすグラリスさんに、


「何があったんですか?」


 と尋ねると、僕が来る前にあった出来事を話してくれた。

 どうやら嫌な客というのは、貴族のボンボンのことのようだ。


 遠くの街からニムルの街にやってきたみたいなのだが、グラリスさんの店に来るなり並べてある武器や防具を低レベルだと馬鹿にし、その中でも一番マシな武器を手に取るなり、かわいそうだからこの武器を買ってやろうと言ったらしい。


 当然腹の立つグラリスさんはいつものように怒鳴ろうとしたのだが、貴族の息子であることを盾に態度の悪さを謝罪しろと要求してきたとか。


 流石のグラリスさんも貴族の息子に喧嘩を売ることはできず、腸が煮え狂う思いで頭を下げ、塩を撒き散らしているところに僕が現れたという時系列。


「それは災難でしたね」


「まぁ、こっちも客商売だからな。慣れているって言いたいところだが、正直俺の我慢にも限界があるから困る」


 苦笑混じりに頭を掻くグラリスさんに、「そうですね」と同意して話題を変える。


 Bランクのフィクスさんとの出会いから、一緒に討伐依頼を受け指導してもらったことを話すと、「いい経験になったな」と自分のことのように喜んでくれた。


 ぶっきらぼうで見た目は怖そうに見えるが、グラリスさんは基本的にいい人なのだ。


 こんないい人に嫌がらせをするなんて、なんて嫌な奴なんだ。


 もし会うことがあれば文句のひとつでも言ってやりたい気分だ。

 まぁ、貴族の息子にDランク冒険者の僕が、そんなことできるはずはないんだけど。



 ……なんて考えたのがフラグになったのか、僕はすぐにその人物に出会うことになる。

 しかも、その騒動の中心に大きく巻き込まれることに。



 グラリスさんと別れ、冒険者ギルドに向かう。

 フィクスさんの教えを元に自分なりの戦闘スタイルを作り上げる。

 その為には少しでも魔物との戦闘をしたかった。


 反復練習は嫌いではない。

 美容師の頃だって、朝に夜は当たり前で、営業中だって空いた時間を見つけては練習するのは得意だったし。



 ギルドに到着すると、何やら雰囲気がおかしいのに気がついた。

 シーンと静まりかえっているというか、妙に殺気だっている気配がする。


 いつも騒がしく冒険者で溢れていて、酒が入ったもの同士での喧嘩くらいは珍しくはない。

 でも、こんな冷たくピリピリとした空気は……何があったのだろうか。


 両腰にある短剣の存在を指で触って確かめ、周りを警戒しながら中に入ると妙に耳障りな怒鳴り声が聞こえた。





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