241.美容師~戦闘スタイルについて考える 2
ただ一つ、フィクスさんから注意を受けたことがある。
それは、早さに重きを置きすぎているというか、決定打に欠けているということだ。
戦闘中、何度か言われていた。
フィクスさんから見ると、仕留められる! という時にも、僕はただ斬るだけでそこに力を乗せていないと。
この一撃で決めてやろうという気持ちがない、とのこと。
長剣や大剣を使うのとは違い、叩き斬るスタイルではなく、フィクスさんの持つレイピアと同じく斬り裂く攻撃。
それを考慮しても、フィクスさんに言わせると、僕の攻撃は軽すぎるのだと。
あと一歩の踏み込みが足りないと。
1対1ならそれでもいいと言われた。
ただし、自分よりも多くの魔物と戦っている時、相手の隙があれば全力とまではいかなくとも8割の力で攻撃を行うべきだ、と。
じゃないと、いつかそのしっぺ返しを食らう、と。
あの時、一撃を入れておけばこんな状態になっていなかった。
そう思う時が来るかもしれない、と。
戦闘時の組み立てが悪い、とも言われた。
例えば、マッドウルフ3匹に囲まれた時。
フィクスさんであれば、まず最初の一撃で確実に1匹目を無力化する。
それは魔法でも剣でもどちらでもいい。
人の目は2つ。
どうやっても離れた位置にいる3匹を同時に見ることは不可能だからだ。
2匹であれば、位置取りを注意して視界に入るようにすればいい。
けれど、3匹目に後ろに回り込まれたら危険だ。
つまり、そういうこと。
あの時の僕の行動は、1匹目に魔法で攻撃。
2匹目は短剣で足を切りつけた。
確かに3匹目はいなかった。
けれどもし3匹目がいたら?
『もし』、これが高ランクの冒険者になる為には一番大事なことだと言われた。
1匹目への魔法攻撃。
威力の低い魔法しか使えないのであれば、眼潰し程度でもいい。
けれどマッドウルフが近づいてくるまでに時間はあった。
ならばもっと強い魔法を準備しておく方がいい。
そして一撃で息の根を止める、までいかなくとも行動不能になるくらいのダメージを与えるべき。
それは2匹目にも言える。
初撃で前脚を攻撃したのはいい。
せっかくリーチを捨てた代わりに短剣ですばやく攻撃できるのだから、2撃目は喉を狙えないまでも後ろ足ではなくむき出しだった腹を狙うべきだと。
そうすればかなり致命傷に近いダメージを与えられたはずなので、1匹目への魔法が与えたダメージが少なくてすぐに襲い掛かられても、2匹目をあまり意識せずに戦闘を行えるはず。
僕の中では自分が攻撃を受けることなく、小さなダメージを相手に積み重ねていく方針だったのだが、僕の行動は安全そうに見えてそうではない。
時間が経つにつれ、安全とは真逆に進んでいる。
そう言われてしまった。
倒せる時に倒すのが高ランクの冒険者であり、危険を失くす。
即ち、安全だと。
これには正直、目から鱗が落ちるだった。
僕のスキル≪気配察知≫だって、フィクスさんの風属性魔法の索敵から見れば範囲は狭い。
その範囲外から脅威な魔物に乱入されたら……僕は早めに戦闘中の魔物を仕留めておかなかったことを後悔するだろう。
それを身をもって経験する前にフィクスさんから学べたことは大きい。
感謝を込めて、昨夜は僕の奢りにしておいた。
そのおかげで、グラリスさんに返済する金額がかなり減ってしまったのはご愛敬というものだ。
けれど僕の命の値段と比べてしまえば安いもの。
そう自分を慰めつつも、フィクスさんの言葉を思い返す。
剣の扱いについてはそんなもの。
では魔法についてはどうか。
フィクスさんに見せた魔法は初級だと『アクアバレット』と『アクアウォール』。
中級だと『アクアウェーブ』で『アクアミスト』は使えることだけ告げた。
アクアカッターは使えないのか? と聞かれたが、上手く使えないので練習中だと誤魔化しておいた。
手で持って投げたら怒られるかもしれない。
なんとなくだがそう思ったからだ。
魔法の威力に関してのフィクスさんからの感想は可もなく不可もなく。
フィクスさん自身、魔導師程魔法を多用するわけではないので、余り助言することはないらしい。
ただ剣での戦闘に魔法を絡める方法は流石に長く生きているだけあり、様々なパターンを果実酒を飲みながら教えてもらえた。
「わたしの使うのは風属性の魔法だから、水属性のソーヤ君とは少し違うけどね」
苦笑交じりにしきりとそう言ってはいたが、属性の違いはあっても僕にとってはかなり勉強になる時間だった。
それに内緒にはしているが、僕は風属性の魔法も使えるし。
フィクスさんのお目当ての人物だとばれてはいけないので言えなかったのが、騙しているようで心苦しい。
けれど、僕が好んで使うのは水属性の魔法なので、フィクスさんの助言を参考にして今後は戦闘の組み立てをしてみようと思う。
ちょうどシガーが根元まで灰になり、フードの中で寝返りを打つジストに首を絞められ「ぐぇ」と声をもらしたところでグラリスさんの店に着いた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




