235.美容師~フィクスに興味をもたれる?
「どうかしたのマリー?」
僕が尋ねると、
「何か問題でもあるのかな?」
フィクスさんも不思議そうにマリーに問いかける。
「『どうかしたの?』じゃないですよ、ソーヤさん。それにフィクス様も、『何か問題でも?』じゃなくて、問題があるのをわかっていて聞いてますよね?」
僕には怖い顔で睨みつけ、フィクスさんにはジト目を向けるマリー。
一瞬で表情をコロコロと変えるマリーは器用だなー、なんて感心していると、
「ソーヤさん。さっきからフィクス様と会話をしている間、ずっと髪の毛ばかりを見ていますけど、ちゃんと話しを聞いていましたか?」
「き、聞いてたよ? それにずっとフィクスさんの髪の毛を見ていたわけじゃないよ。たまに、そう! たまにだよ。たまたま、ちらっと見てただけだし。自然と視界に入っていただけだし」
やばい。
さすがマリーだ。
僕の視線がフィクスさんの髪の毛に釘付けだったことがばれている。
でも仕方がないと思うんだよね。
こんなにきれいな金髪なんて、この世界に来てから初めてお目にかかるんだし。
「フィクス様もそれだけ露骨に見られていたら気がついてますよね? ソーヤさんのこと、危ないと思わないんですか?」
「危ない? 危ないって何が?
あ、もしかして……こんな見た目だから時々勘違いされるけれど、わたしは男だよ? ソーヤ君も気がついていると思っていたけど違ったのかな? それとも、彼は男性が好きな人なのかい?」
フィクスさんが訝しげに僕を見るので、ぶんぶんと首を振って否定しておく。
「フィクスさんが男性なのは気づいてますよ。見た目は女性のように綺麗ですけど、声を聴けばさすがにわかりますし。
ちなみに僕は女性が好きな健全な男子です」
「ほら、ソーヤ君だって違うって言っているよ。何も危なくないじゃないか」
「違うんです! そういうことじゃなくて!!」
自分の忠告が理解されないことで、マリーが癇癪を起しテーブルを両手で叩く。
そこにタイミングがいいのか悪いのか、ギルマスが登場。
「騒がしいぞ、マリー。休憩中くらい、ちょっとは静かにできないのか。
本当にお前は落ち着きがないというか、いつまでたっても子供っぽいというか、このままだと嫁の貰い手に困ることになるぞ」
「ぐっ、いきなり現れてなんてことを言うんですか! ギルマスだって、いつもイビキがうるさいって、奥さんが愚痴ってましたよ」
「お前、それとこれとは関係ないだろ! しかもいつのまにあいつと会ったんだよ。変なこと言ってないだろうな?」
「さぁ、どーですかねー。ギルマスが変なことをしていなければ、何を言われても大丈夫なんじゃないですかー。わたしは真実しか伝えていませんよー。
ソーヤさんから『嘘つきは冤罪のはじまりだよ』って、よく意味はわかりませんが怒られましたからね。
そーいえば、奥さんから今度お茶でも一緒に飲まないかって誘われているんですよねー」
ふふん、とマリーが鼻で笑って挑発すると、
「お前……これで勝ったと思うなよ」
状況が不利だと悟ったのか、悔しそうにギルマスが立ち去ろうとし、珍しいものでも見つけたかのように二度見してくる。
「おまえ……フィクスか?」
「やぁ、久しぶりだね、ゴルダさん」
「なんだよ。来てたなら、顔くらい出せよな」
「ついさっきこの街に着いたばかりなんだ。もちろん、そのうち声はかけようと思ってたよ」
親し気に会話をかわし、握った拳をぶつけ合う二人。
いつもの不敵な笑みではなく自然な感じの笑顔を見せるギルマスがとても新鮮だ。
「それで? こんな場所まで何をしにきたんだ? 何か用事でもあったのか?」
ずりずりと片手で椅子を引きずってきて、ギルマスが僕の隣に腰かける。
「うーん、まぁね。ちょっと野暮用というか、人を探していてね。風の噂で聞いたんだけど、Bランクの女郎蜘蛛が出たそうじゃないか。できれば討伐した人に会いたいんだ」
女郎蜘蛛を討伐した人?
それってケネスさん達『狼の遠吠え』?
もしくは、シドさん達『千の槍』?
はたまた、トイトットさん達『炎の杯』?
彼らってまだ、この街にいるんだっけ?
よかったら紹介しましょうか? とフィクスさんに声をかけようとしたが、すばやくマリーが手で制してくるので口を閉じた。
「ほぉ、会いたいって、またなんでだ? ああ、あれか? 素材が欲しくて交渉したいのか?」
かわりにマリーのアイコンタクトを受けたギルマスが小さく頷き、フィクスさんに尋ねる。
「きちんとした理由なら、話を通してやってもいいぞ」
「そうだねー。それならゴルダさんに頼もうかな。わたしが会いたい理由はね、ただ興味があるからだよ」
フィクスさんが微笑みながら続けた。
「Eランクの冒険者が女郎蜘蛛を倒したんだろ? 是非、この目で見てみたいんだ」




