234.美容師~フィクスと仲良くなる
「ソーヤさん! ソーヤさんっ!! いい加減戻ってきてください! 聞いていますか!?」
マリーが両手でバンバンとカウンターを叩く。
「えっ? なに? どうしたのマリー? 僕、今ちょっと忙しいんだけど」
「どうしたの、じゃないですよ。さっきからずっと話しかけているんですけど」
「ああ、そうなんだ。ごめんね。でも、もう少しでイメージが固まりそうなんだ。悪いけど、もう少しだけ時間が欲しい」
マリーに謝罪しつつ、顎に指をあてて再度思考の渦に入り込もうとしたのだが、それを邪魔するモノが現れた。
「おーい、おーーい。わたしのことも無視しないでほしいなー。聞いているかいー?」
僕の目の目で、金色の毛束が動く。
金髪の持ち主が、毛束を指で掴んで僕の鼻先で揺らしていた。
自然と、僕の顔はその動きにつられるようにして移動する。
はたから見れば、猫じゃらしで遊ばれる猫のようだろう。
「お、なんだかおもしろいね」
楽しそうに右へ左へと毛束を揺らす人物に、マリーがため息交じりに声をかけた。
「フィクス様、ソーヤさんで遊ぶのはそろそろやめてもらえませんか? ソーヤさんもいい加減、正気に戻ってくださいよ」
「ごめんごめん。つい面白くって……はーい、おしまいねー」
フィクスと呼ばれた人物が髪の毛を纏めて両手で持ち、背中側に隠してしまう。
「ああ……僕の髪の毛が」
思わず呟いた僕に、
「ソーヤさんの髪の毛じゃありませんよ!」
「君の髪の毛はそこにあるじゃないか」
2人が苦笑交じりに呟いた。
「改めてご紹介しますね。こちらは王都からいらした冒険者でフィクスさんです。それでこちらのちょっと変わった方が、ニムルの街所属の冒険者でソーヤさんです」
マリーがそれぞれを紹介してくれたので、お互いに軽く頭を下げて挨拶を交わした。
「ソーヤさん、フィクス様はBランクの冒険者なんですよ。あまり失礼のないように心がけてくださいね」
「Bランク? ならギルマスと同じくらい強いのかな?」
「ギルマスって言うと……ああ、ゴルダさんか。
どうかな。わたしと彼では冒険者としてのスタイルが違うからね。力で押し切る彼と比べると、わたしはスピード重視の戦い方をするから比べるのはちょっと難しいかも」
フィクスさんが腰に差した剣を手のひらでポンと叩いてにこりと微笑む。
「スピード重視と言えば、ソーヤさんも同じスタイルですよね。あっ、でもソーヤさんは剣よりも魔法の方が重視になるから、そもそもが違うのかしら」
「ん? 君は魔法使いなのかい? でもその腰に差している剣は、相当な業物のように見えるけど、どっちなんだい?」
マリーの言葉を聞いてフィクスさんが問いかけてきたので、
「一応、職業は魔導師ですね。でも戦闘時は剣も使います」
「ふーん、なら魔法剣士ってところなのかな? わたしも似たようなことはしているよ。ただ魔法よりも剣に重視した戦い方だけどね。
でも君の戦い方にはちょっと興味はあるかな。よかったら少し情報交換といかないかい?」
受付の前で三人で話し込んでいると、モイラちゃんがやってきた。
「マリー先輩。受付変わりますので休憩に入ってください」
「ええ、ありがとう。あとはよろしくね」
「はい、任せてください」
だいぶ仕事にも慣れてきたのか、モイラちゃんは自信あり気に答えてマリーと場所を変わった。
「さて、わたしは休憩に入りますけど……ソーヤさんが心配だからご一緒させてもらいますね」
マリーとフィクスさんと僕、3人でテーブルについて改めて紹介しあう。
果実水はお詫びと言う意味も込めて、僕からの奢りだ。
運ばれてきた果実水は微かな酸味とフルーティーな甘みがあり美味しいのだが、常温なので生ぬるく、師匠の店の果実水と比べるとどちらが上かは言うまでもない。
マリーと二人だけならば、こっそりと氷を出して冷たくするのだけど、初対面のフィクスさんがいるので我慢することに。
「それでは改めてと、初めましてだね。王都から来たBランク冒険者のフィクスだよ。武器はレイピアを使って戦闘を行うけど、補助的に風属性の魔法も使うかな」
「ご丁寧にどうもです。僕はニムルの街で冒険者をやっているソーヤといいます。Dランク冒険者で短剣と魔法を使う戦闘スタイルです」
「ふむふむ。ちなみに属性はなんだい?」
「僕は水属性を使いますね」
「おお! 水属性とは珍しいじゃないか。わたしもこの街には来たばかりだし、よかったら一緒に討伐依頼でも受けてみるかい? できればこの付近を案内してもらえると嬉しい」
「そうですね。フィクスさんがよければ、いろいろと教えてもらってもいいですか?」
「いいともいいとも。なんなら、これからすぐにでもわたしは構わないけど」
とんとん拍子に話が弾み、2人で討伐に行くことになりそうだ。
Bランク冒険者と一緒なら僕としても心強いし、僕の戦闘スタイルに近いのならば、学ぶべきことも多いだろう。
それでは早速、といった感じで話が纏まり依頼を選びに行こうとしたのだが、
「ちょっと待ってください!」
何故だかマリーから待ったがかかる。




