228.美容師~神託について考える
8話、文中の神託の内容を修正してあります。(2017.6.7)
『例外として認められるのは、親族のいない者に対して触れていいのは教会上位職のみとする』
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『親族がいない、もしくはいても散髪を行うことが困難な場合のみ、一部の教会上位職は触れてもいい』と。
僕がさっきから何をしているのかというと、マリーからの助言を受けて試していることがある。
一緒にいることで、僕の倒した魔物の経験値の一部をジストが取得することは一日目の実験で結果が出た。
ただ、思いのほかジストが目を覚まさないので、マリーに相談したんだ。
そうしたら、もっと経験値を稼ぐ方法があると教えてもらえた。
近くにいるだけよりも、戦闘に参加した方が経験値の分配が多くなるということだ。
つまり、ジストが自分で魔物を攻撃すればいいのだが、そうするには難しい問題点があって、それはジストが眠り続けているということ。
いくらFランクや、ましてGランクの魔物だとしても、眠っている相手から攻撃を受けるような相手はいないのだ。
というわけで、僕が弱らせた魔物を僕がジストの体を操ることで攻撃を行い、最後に僕がとどめを刺すという作戦をマリーから提案されたわけ。
その相手にマリーから勧められたのは、僕も初めての時はお世話になったGランクの魔物、ビッグワームだったのだが、弱らせるも何も、僕が攻撃した段階で死んでしまうので、弱らせることが無理だった。
なら最初からジストで攻撃を行うという方法もあったのだが、今度は攻撃力がなさ過ぎて、僕が操って爪で攻撃したとたんに糸を吐かれてジストが糸塗れになってしまった。
あの時は、糸を外すのにどれだけの時間を費やしたか、思い出したくない過去だ。
こんなことをやっているくらいなら、やはり僕がフードに入れたまま一人で魔物を倒した方が早いと思い、キラービーを相手に経験値稼ぎを始めたんだけど……。
最初は≪回転≫の練習と、新しい武器に慣れる為にキラービーの針を連続で何回弾けるか試していた、というか遊んでいたのだけど、ある程度≪回転≫で空中で弾いていたら、キラービーが目を回したのか気絶することに気がついたんだ。
気絶したキラービーになら、ジストを操って割と安全に一撃を入れることができた。
なので、ここ数日はニムルの森でキラービーを相手にしている。
そのかいあってか、ジストの体も目に見えて大きくなり、夜中に目を覚ましているのか、昨夜はもぞもぞとベッドの上で動いていたような気がする。
朝起きた時は、元から寝かせていた顔のそばにいたので、僕が寝ぼけていただけじゃなければ、だけど。
4匹目のキラービーを見つけて、戦闘に入る。
黒錐丸を抜いて右手で構え、針の先端を向けて飛んできたところを≪回転≫で弾いた。
かれこれもう、30匹以上はこの戦闘方法で倒している。
1匹につき、50回~80回程度≪回転≫させて弾くので、≪回転≫スキルもレベルが上がったし。
何が言いたいかと言うと、正直ちょっと飽きた。
そもそも、僕にとっての≪回転≫はロールブラシを回すことと同じなわけで、その相手が髪の毛から魔物に変わっただけであり、もちろん魔物と相対していれば命の危険があるので、髪の毛をロールブラシで操るのとは比べ物にはならないが、今の僕のステータスだとキラービーの動きは遅くはないが早くはない。
考え事をしながらでも十分対応できるレベルなのだ。
だから、ふとした瞬間、余計なことを考えてしまう。
余計なこととは言っても、僕にとってはとても大事なことなのだけど。
まずはマリーや師匠から少しずつ情報を集めた教会、つまり僕にとっては大変興味がある神託についてだ。
『家族以外の者が他人の髪の毛に触れることを禁ずる』
『親族がいない、もしくはいても散髪を行うことが困難な場合のみ、一部の教会上位職は触れてもいい』
この神託のせいで僕は美容師という職業に就けないでいる。
実際、この神託がどのくらい守られているかだが、国をあげて禁忌と決めているくらいなので、かなり厳格に守られている。
これを犯した僕がすぐさま捕まり、牢屋に入れられたくらいだし。
ただ、禁忌を犯したからといって、それで殺されるという程のものでもないらしい。
初犯であれば牢屋に一日入れられて厳重注意。
2回目、3回目でも牢屋に入れられる日数が増えるが、反省していることをアピールできれば体罰や拷問等をされることはない。
では重くない罰ゆえに禁忌を犯し続ければどうなるかというと、それはマリーに聞いてもわからなかった。
一般的に、国をあげて禁忌に指定されているので子供の頃から親に『他人の髪の毛に触れてはいけない』と言い聞かさられているし、ほとんどの人間は一度も他人の髪の毛に触れることなく生を全うして終わるのだ。
それでもたまにこの禁忌を知らない人が現れるらしいが、何度も禁忌を犯す人はいないのか、大抵は1、2度で懲りる。
というか、普通の人にしてみれば、禁忌を犯してまで髪の毛に触れる必要性がわからないらしい。
どうして僕がそこまで髪の毛にこだわるのかも、マリーにしてみれば謎だということだ。
リリエンデール様にも聞いてはみたが、何分女神様なので世間というか実際のこの世界の状況には疎く、あまり参考にはならなかった。
これは僕の予想でしかないが、何度も禁忌を犯した者は、街の牢屋ではなく、たぶん重犯罪者として教会に送られるのではないだろうか。
今後も密かに探ってみるとしよう。




