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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
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227.美容師~ジストの経験値を稼ぐ

 

 メェちゃんの家で夕飯をごちそうになり、なんとか帰宅。

 チビ、ではなくジストはいつもと変わらずベッドの端で眠っている。


 今夜は起きていられるかとも思ったが、そんなに簡単にはいかないようだ。

 まだまだ経験値が足りていないのかもしれない。


 けれど、やっと瞼を開けて瞳を見せてくれたことだし、この調子でいけば少しずつでも起きている時間も増えるはず。


 明日も頑張って経験値稼ぎに励もう。

 真っ黒な背中を手のひらで撫でてひとりほくそ笑む。




 それから一週間、無事にマリーにも≪偽装≫スキルを獲得して『魔導師』に転職したことを伝え、午前中は師匠の店で氷を作り、午後からはニムルの森でジストを連れて経験値稼ぎの日々を過ごしていた。


 師匠の店は連日の暑さのせいなのか、少しずつだが口コミで冷たい飲み物が買えることが知れ渡り、毎日朝から長蛇の列ができているようだ。


 並んでいるお客には冒険者か多く、一度に二杯分購入して一杯はその場で飲みほし、残りの一杯は飲み水ようの革袋に氷ごと入れて持ち帰っている。


 時間がたてば氷は溶けてしまうが、それでも数時間は冷たいままを保っているので、冒険のお供に最適と冒険者達の間で人気が出ているとのこと。

 まさに飛ぶように売れている。


 お金がない冒険者は一杯だけ果実水を買って中身はその場で飲み、残った氷を持参した水袋に入れたり、飲み終わったお客から残った氷だけを僅かなお金で譲ってもらったりしているが、それに関して店側は文句をつけることはしなかった。


 師匠曰く、低ランクのお金のない冒険者だって、いつかはお金を貯めて余裕ができればこの店の客になるはずだから、と。


 一度、冷たい果実水の味を覚えてしまえば、虜になるはずだから、と。


 なんだか言葉だけを聞いていると、危ない薬のようで怖い。


 けれど確かに、夏の暑さの中で飲む、冷たくてほんのりと甘い果実水は格別だ。

 僕は自力で氷を出して冷せるが、お金を出してでも氷を求める人の気持ちもわからなくはない。


 それだけの人気が出ているわけだから、当然商人の仲間内からも氷の購入ルートを探られているようだが、そこは店を任されているカシムさんがうまくのらりくらりとかわしているらしい。


 それでもしつこい相手には、商人ギルドを通して抗議を行ってもらい、師匠の店には近づかないように通達を出してもらったみたい。


 どこの店も簡単には氷を手に入れることができないので、ニムルの街ではほぼ師匠の店の独占状態とのこと。


 一部の飲み物を販売している屋台からは、商人ギルドに苦情まで出ているようだ。

 師匠が自分と僕の存在を隠したがっていたのがわかる。

 それだけ氷属性は希少なのだ。


 そんな状態で、僕が師匠の店を訪れていれば怪しいことこの上ないのだが、師匠の店は冒険者達の為にもあるわけだし、昔から客としては少なくない。


 それに腰に2本の剣を差した僕の見てくれは魔法使いというよりも、ぱっと見剣士のようにしか見えないし、つい最近レベルが上がったスキル≪忍び足≫の活躍もあり、あまり注目を集めずに師匠の部屋までたどり着くことができている。


 まぁ、僕を怪しいと思うのは自由だけど、魔法使いだとばれたとしても、世間から見た僕は、ちょっと珍しいだけの水属性の魔法使いなわけだし、氷属性を使えることは冒険者ギルドにも知られていない。


 ただ、最近は貴族の密偵のような者が店の周りにいるとのことなので、注意するに越したことはない。


 ある程度レベルの高い人物を雇われていたら、僕程度の≪忍び足≫では見つかる可能性もあるからだ。

 もし貴族の関係者に絡まれることがあれば、自分に言うか、冒険者ギルドを通して抗議するように師匠からも言われている。



 そんなわけで、本日も日課の量の氷を作成し終え、ニムルの森で経験値稼ぎに勤しんでいた。


 右手に円錐形の短剣黒錐丸を持ち、顔目がけて飛んでくる針を≪回転≫で弾く。


 キラービーは真上に針を弾かれたことで空中で姿勢を崩し、その場で羽ばたいて態勢を整えようとする。

 けれど僕は右手を少し斜め上に持ち上げて、今度は横方向に短剣を≪回転≫させて針の根元を弾いた。


 焦ったキラービーが距離を取ろうと羽ばたいたところで、今度は針の先を上に弾く。

 次は横、その次は上、横、上、横、上、上、上、上、上……その場でキラービーが縦に回転し始める。


「こんなもんかな」


 呟いて回転させることをやめると、キラービーがぽとりと地面に落ちた。

 しばらく短剣の切っ先を向けて待つが、ぴくぴくと痙攣しているだけで動き出す素振りはない。


「よしよし、ジスト、出番だよー」


 僕は背中のフードに手を入れて眠っているジストを取り出し、右手の肉球部分を手の平と指で挟んで圧迫した。

 こうすることで、まだ鋭いとは言えないが、猫の爪とは比べ物にならない立派な爪がにゅっと飛び出てくるのだ。


「えーと、ここら辺かな」


 左手でジストを抱え、ジストの右手から伸びた爪をキラービーの腹部に突き刺した。


「ギギギッ」


 キラービーが苦悶の声を出し、飛び立とうとしたところですばやく黒錐丸を突き下ろす。

 すとん、と抵抗なく貫通した黒錐丸が一瞬でキラービーを絶命させた。


「さて、これで3匹目。あと2匹くらいで今日は終わりにしようかなー」


 ジストを地面に置いて、キラービーから魔核結晶を取りだし、討伐部位の針を切り取る。


 剥ぎ取り終えた死体を先に倒しておいた2匹と一緒に纏めて木の根元に運び、腰の水袋を傾けて少量の水で手を洗った。


「そろそろ起きて、手伝ってくれればいいのに」


 ジストは地面に置かれたことで土の匂いがするのか、鼻をふんふんと鳴らして匂いを嗅いでいたが、そのまままた眠ってしまったようだ。


 まったく、眠っているコイツに効率よく経験値を稼がせるのも楽じゃない。

 ぼやきつつも、丸まっているジストを拾い上げ、背中のフードの中に押し込んだ。


「さて、次の獲物を探すとしますか」





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