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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
225/321

225.美容師~師匠に報告をする

 

 一角兎のいるニムル平原に行き、3匹の兎を狩った。

 チビは僕のフードの中で就寝中。


 どこか地面におろして寝かせておこうかなとも考えたが、僕が倒した魔物の経験値を取得するのであればなるべく近くにいた方がいいし、一角兎くらいならそんなに激しく動き必要もない。


 レベルの上がった≪忍び足≫で背後から近づき、首を切るだけの簡単なお仕事だ。


 そのまま寝かせておいてやり、血抜きした一角兎3匹を左手で持ったまま、師匠の店へと向かう。

 今日はリンダさんが仕事の日なので、メェちゃんもいるはずだ。


 それに、師匠に魔導師に転職したことを報告しなくては。

 きっと喜んでくれるはずだ。

 少なくとも、弟子が暗殺者の職業のままでいるよりかは。



 交代で門番についていたテッドさんに一角兎を1匹プレゼントし、無事に師匠の店に到着。

 リンダさんの足元でチョロチョロと動き回っていたメェちゃんが、僕を見つけて駆け寄ってくる。


「おにいちゃーん、おかえりなさーい」


 いつものように僕のおなか目がけて頭からダイブしてきたメェちゃんが、おでこをグリグリと押しつけてきた。


 見下ろす僕の視界には、日の光を受けて輝く赤茶色の髪の毛に包まれた後頭部があったりして、自然と手が伸びそうになるが、何かを企むかのような視線に気がつき、なんとか自重する。


「ちっ、思いとどまったか」


≪聴覚拡張≫がリンダさんの悔しそうな呟きを耳に届けてくれた。


 あ、あぶない。

 狙われていたか。


 最近は自分の色仕掛けが余り効果を及ぼしていないことを知ると、何かとメェちゃんをけしかけて、子供の父親としての既成事実を狙ってくるのでたちが悪い。


 きっとその罠にはまってメェちゃんの髪の毛に触れた段階で、


『あたしと結婚すれば、メイの髪の毛を触り放題だよ。もちろん、あたしの髪の毛だって好きなだけ触ればいいさ』


 なんて、悪魔のような提案をしてくるはずだ。

 そして、それを断ろうものなら、衛兵を呼ぶと脅される未来が容易に想像ついてしまう。


 少し、深呼吸をして落ち着こう。

 メェちゃんという名のミサイルの脇を両手で抱えて距離を取り、知らず知らずのうちに地面に落としていた一角兎を拾い上げて、


「お土産だよ」


 と手渡した。


「わーい。メェ、このお肉、だいすきなんだ! おにいちゃん、ありがとう!!」


 嬉しそうに片手で1匹ずつ持った一角兎をぶんぶんと振り回し、


「おかあさーん、兎だよー、兎もらったよー」


 来た道を逆戻りして駆けていく。


「おや、ソーヤ。これ、貰っていいのかい?」


「ええ、1匹は師匠にあげたいので、1匹しかあげられなくて悪いですが」


「いや、イリス様の分を貰うわけにはいかないし、1匹あればあたしとメイが食べるには十分さ。

 なんだったらソーヤも夕食を食べにくるかい? 遅くなったら泊って行ってもいいし」


「おにいちゃん、ごはん一緒に食べようよ! それでメェと一緒に遊ぼう!!」


 期待の眼差しで見上げてくるメェちゃんに、断るつもりだった言葉が口の中で徐々に溶けていってしまう。


「ねー、いいでしょ? いいよね?」


 両手で持った僕の手をぐいぐいと引きながらおねだりをするメェちゃんを見ていると、すでに積んでいるとしか思えない。

 これは、やられたな。


 リンダさんが小声で、


「メイ、がんばれ!」


 とエールを送っているし。

 なかなか返事をしない僕に焦れたのか、


「どうして? ダメなの? メェ、おにいちゃんがいうとおり、いつもいい子にしているよ」


 大きな目が潤んで、涙がこぼれそうな程に。


「わかったよ。でも遅くならないうちに帰るからね」


 僕はそう言うしかなかった。


「わーい! やった!! おかあさん、おにいちゃんのために、おいしいご飯つくってね」


 一瞬で涙を消し去ったメェちゃんが小躍りしている横で、


「よっし! 今夜こそ決めなくちゃね」


 不敵な笑顔を見せるリンダさんの舌がぺろりと赤い唇をなめるのを見てしまった。

 早まったか……後悔するが、もう遅い。


 師匠になんとか逃げる為の魔法を教えてもらうことはできないか聞いてみよう。

 もし、そんな魔法があるのであれば、だけど。



「あんた、もう『魔導師』になったのかい? どれ、ステータスを見せておくれ」


 師匠に魔導師になったことを報告し、自分でもステータスを確認していないことを告げると、今ここで見てみようということになった。


 本来ならば、冒険者ギルド等で更新するしか見ることはできないが、師匠の魔法でならそれも可能だ。


 僕はノートで見ることができるのでその魔法の凄さはあまり感じないが、冒険者一個人からしてみたら、かなり便利な魔法なのだろう。


 ==


 名前 ソーヤ・オリガミ

 種族 人間 男 

 年齢 26歳

 職業:魔導師

 レベル:2

 HP:40/40 

 MP:40/40 

 筋力:26   

 体力:26   

 魔力:28(+4)   

 器用:52  

 俊敏:29


 スキル:採取《Lv5》、恐怖耐性《Lv4》、身軽《Lv4》、剣術《Lv5》、聴覚拡張《Lv5》、気配察知《Lv5》、投擲《Lv4》、集中《Lv6》、忍び足《LV5》、脚力強化《Lv3》、心肺強化《Lv3》、精神耐性《Lv1》、調合《Lv1》、《魔力操作Lv4》、《水属性魔法Lv4》、《危険察知Lv2》、《氷属性魔法Lv3》、《風属性魔法Lv3》、


 ==


「おや、本当に魔導師になっているじゃないか。

 魔法使いになってから、まだ半年も経っていないんじゃいあのかい? わたしでもこんなに早く魔導師になるなんてできなかったのに。あんた、いったい何者なんだい?」


 喜んでくれるとばかり思っていたのに、お褒めの言葉ではなく師匠からはジト目をいただくことになった。

 しかも、何者だ? と聞かれても、ただの一般人だとしか答えようがない。


 リリエンデール様という、才能を司る女神様の加護を持った異世界からの転移者なのだが。 


「まぁ、いいさ。弟子が魔法使いから魔導師に転職できたというなら、祝うべきことだね。

 さすがはこの『青のイリスの弟子』といったところさね。これからもせいぜい精進することだ」


「はい、慢心せずに頑張りますよ。今後もご指導よろしくお願いします」


 僕の礼を尽くした言葉に、


「ああ、せいぜいしごいてやるから覚悟しときな」


 なんて言葉を返してくれた師匠に、早速だけど助言を求めることにしたのだが……、


「師匠、女性から迫られた時にうまく逃げる魔法はないですか?」


「……わたしの弟子は、優秀なのに残念な弟子だ」


 遠い目をした師匠は、何故だかこう呟いた。







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