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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
220/321

220.美容師~転職を拒否する

本日、間違えて一話先の221話を投稿してしまいました。


申し訳ありません。


220話を投稿します。





「ソーヤ、お前の職業、暗殺者にしてもいいか?」

 

「嫌ですよ。お断りします」


 僕は瞬時にそう答えた。


「なんでだよ!? いいじゃねーか減るわけでもなし」


 僕の答えをあらかた予想していたのだろう。

 対抗するように、ギルマスが大声で被せてきたので、僕もまけじと声を張る。


「嫌です。絶対に嫌です。暗殺者なんて、まっぴらごめんですね」


「お前、そんな頑なな態度だなんて訳ありか? さては、一時期キンバリーの奴が疑っていたが、前職は本当はどこかの国の暗殺者だったりしねーだろうな?」


「違いますよ。失礼ですね。僕の前職はいたって普通の仕事ですよ。人なんてこれまで一人たりとも殺したことはないですね」


 そうとも。

 現職は魔法使いで、前職は美容師だ。


 後ろ暗いところは何もない。

 例え、この世界では認められない職業だとしても、僕は誇りをもって言える。


「なら、なんでだよ? 別にいいじゃねーか、暗殺者。闇に隠れて生きる男の浪漫だぜ? みんなの憧れ、暗殺者だぜ? かっこいいじゃねーか、なぁ、マリー?」


「そっ、そうですよ、ソーヤさん。暗殺者、かっこいいです。素敵です。憧れちゃいます」


 ギルマスに振られたマリーが、とってつけたように褒めまくる。

 だが僕の目はごまかされない。

 マリーの目が泳いでいることに。


「マリー、本当に暗殺者って憧れる? かっこいいと思う?」


「はい! とっても素敵なお仕事だと思います!

 ここだけの話なんですけど、冒険者ギルドの受付嬢の中でもだんとつ一番人気の職業なんですよ! 内緒ですよ! ソーヤさんにだからこそ、こっそり教えるんですからね」


 わざとらしく近づいてきて、僕の耳元で囁くように告げてくる。


「ならさ、マリー。ひとつ聞いてもいいかな?」


「はい、なんでしょう? なんでも聞いてください。暗殺者のソーヤさん!」


「マリーが、もし将来、結婚するとして……」


 きちんと考えてもらう為に、わざとここで言葉を区切る。


「……するとして?」


 想像しているのだろう。

 マリーの頬がほんのりと赤く染まる。


「旦那さんの職業が暗殺者ってどうなのさ?」


「そんなの、嫌に決まっているじゃないですか!? 生まれてくる子共になんて言えばいいんですか? それにご近所さんの目もありますし。嫌です。断固として転職をお勧めさせていただきまふぐっ」


 身を乗り出して捲し立ててきたマリーの口を、大急ぎでギルマスが手のひらで塞いだ。

 それでようやく気がついたのだろう。

 ギルマスの手を跳ねのけようとしていた手が力なく垂れ下がり、つつつ、と僕から目を逸らす。


「ほらね。絶対、嫌ですからね」


 僕は改めて拒否をした。

 ただでさえ、いつもキンバリーさんに暗殺者だと揶揄われてきたのだ。

 本当に暗殺者の職業についてしまえば、何を言われるかたまったもんじゃない。


「そもそも、なんで僕が暗殺者の職業に就かなくちゃいけないんですか? その意味を、理由を教えてくださいよ」


「だってよぉ、お前のレベルが低いのが悪いんだぜ。なんだよ、レベル2って。少しも上がってねーじゃねーか。せめて13くらいあってくれたら、まだなんとかしようがあったんだが」


「仕方がないじゃないですか。何故かレベルが上がらないんですから。一番困っているのは僕なんですからね」


「いや、今現在で一番困っているのはお前じゃない。俺だ!」


 確かにそうかもしれないが、ギルマスに断言されるとなんとなく癪に障る。

 しかも、偉そうにドヤ顔で言われるので余計にだ。


「ちなみに、わたしも困っています。そのせいで、厄介ごとに巻き込まれているので」


 マリーもここぞとばかりに、手をあげてアピールしてくるが、ギルマスには無視されている。


「だからだな、ソーヤ、お前は暗殺者になれ。そうすれば全てが解決してみんなが幸せになる」


「いや、どうして僕が暗殺者になったらみんなが幸せになるんですか? 意味がわかりません」


「よし、なら俺が説明してやろう。いいか? まず、暗殺者の職業に就くと、特殊なスキルを身に着けることができるんだ。それはあまり知られてはいないが、≪偽装≫というスキルでな、自分のレベルの数値を変化させることができるというものだ。わざと自分のレベルを低く見せておいて、実際には高レベルというのを隠しているわけだな。周りを欺いておく為の、暗殺者必須スキルということだ。ソーヤの場合は、本来のレベルが低いわけだけど、それは≪偽装≫スキルを用いているからだということにすれば、周りは納得するだろう?」


 ふむ、そんな便利なスキルがあったとは。

 確かにレベルの上がらない僕には必要なスキルだと思われる。


 これがあれば、トイトットさんにも変に絡まれないですんだはずだ。

 それにこの先、もしレベルが上がらないままだったとしても、ギルドカードを見られた際に≪偽装≫スキルを使用していると言えばいい。


「幸い、ソーヤのステータスはレベル2とは思えない程高い数値だ。数値だけなら、Dランクの奴らとそんなに変わらない。レベルだけが何故かおかしいんだよなぁ、なんでだ?」


 なんでだ? と聞かれれば、それはリリエンデール様の加護によって、軒並みステータスがUPしているせいなのだけど、それは言えないので曖昧に微笑んで誤魔化しておこう。


「というわけでだな、ソーヤの職業を暗殺者にしちまえば、このままDランクに上げることができる。誰かにギルドカードを見られたとしても、≪偽装≫スキルを使っていると言えばいい。どうだ? 俺の考えた作戦は完璧だろ?」


「なら、別に暗殺者にならなくても、≪偽装≫スキルを使っていると言えばすむ話なんじゃないですか?」


「いや、もし万が一、他のギルド職員にレベルを見られて≪偽装≫スキルがないことが知られたらマズイ。職員以外にならバレることはないだろうが、職員はダメだ。だから、暗殺者の職について≪偽装≫スキルは取得しておけ。じゃないと、もしバレた時に俺の立場が悪くなる」


 なんだよ、結局は自分の心配なのか。

 ジト目で見つめてやると、


「俺だけじゃないぞ。この件の片棒を担いでいる、マリーの立場も悪くなるんだからな」


 ギルマスが焦ったように付け加えた。


「なんでですか!? わたしは関係ないですよね? ですよね? ソーヤさん。わたしはたまたま現場に居合わせて、巻き込まれているだけですよね?」


「さぁ、どうなんだろうね。でも、ここにいて話を聞いている限りでは、マリーも同罪なんじゃないの?」


「ぐっ……同罪。わたしも同罪。お父さん、ごめんなさい。マリーは悪いことだとわかっていながら、悪事を目の前で見過ごしてしまします」


 えーと、さっき高速で僕の職業を暗殺者に変えようとしていたじゃないか。

 見過ごすどころか、思い切り加担していたと思うんだけど。




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