表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
213/321

213.美容師~尊敬される


「モイラちゃん、紹介するわね。この方はEランク冒険者のソーヤさんよ。ソーヤさん、最近新しくギルドの職員になったモイラちゃんです。まだまだ不慣れだけど、宜しくお願いしますね」


 マリーが僕達双方に向けて紹介してくれたのだが、


「あっ、あの時の」


 モイラちゃんが慌ててペコリとお辞儀をしてくれる。


「改めてよろしくね」


「はい! こちらこそよろしくお願いします!」


「『あの時の』? 『改めて』? もしかしてもう知り合いだったりします?」


 一人だけ話の流れについてこれないマリーが、戸惑ったように僕とモイラちゃんを交互に見る。


「この間、シェミファさんに紹介してもらったんだ」


 僕が代表して答えると、モイラちゃんも「そうなんです」と頷く。


「なんだ……わたし一人で張り切っちゃって、恥ずかしいですね」


 若干、頬を赤く染めマリーが小声で呟いた。


「そんなことないです! だって、マリー先輩はわたしの為にしてくれたのに」


 必死にフォローするモイラちゃんに、


「いいのいいの。逆に気を使わせちゃってごめんね。

 でも、ソーヤさんと面識を持てているなら安心だわ。何かあったら助けを求めて大丈夫な人だからね。そこはわたしが保証するから」


「そうなんですか?」


「そうよ。モイラちゃんだって知っているでしょ? ついこの前の緊急依頼の件は。

 あの依頼でBランクの女郎蜘蛛を倒したのは、何を隠そう、このソーヤさんなんだからね。

 しかも昨日はCランクパーティー『狼の遠吠え』のリーダー、魔導師のケネスさんと模擬戦をしてソーヤさんが勝ったのよ! 今はEランクだけど、その実力はCランクの冒険者と比べても遜色ないの。

 それにこれは内緒なんだけど、緊急依頼の活躍を元にソーヤさんをDランクに上げるかどうかギルド内で相談されているところよ。今だってその件でギルマスに呼ばれていたくらいだし。

 しかも強いだけじゃなくて、すごく優しいのよ。ニムルの森に女の子を助けに行った話は知っている? あの時も――」


 マリーの僕に対する評価が、どんどんのろけのようなものに変わっていく。

 隣で聞いていて恥ずかしくなってくるくらいだ。


 でも、1つだけ訂正させてほしい。

 女郎蜘蛛を倒したのは僕ではなく、ランドールさんとシドさんだ。

 僕は飛ばしてくる糸を捌いて、とどめをさす隙を作っただけなんだけど。

 

 ただ、ケネスさんに言わせると、僕が糸をなんとかできたからこそ、女郎蜘蛛を倒せたのだと。

 だから一番の功労者は僕だと言われた。

 全員一致で、素材を選ぶ優先権を貰えたのがその証拠だと。



 モイラちゃんはマリーの話を真剣に身を乗り出して聞きつつ、「えっ、女郎蜘蛛って」とか、「ケネスさんって、あのケネスさんですか?」とか、「ニムルの森って、マッドウルフの縄張りに一人で乗り込んだ冒険者の話ですか?」とか、律儀にいちいち反応している。

 

 そして、その度に僕に向けてくる目の光具合が変わっていくというか……尊敬しますオーラが溢れつつある。


 お願い、もうやめて、恥ずかしい。

 今すぐこの場を逃げ出したい。


 つい数時間前のリリエンデール様じゃないが、顔だけじゃなく、僕の耳は真っ赤に染まっていないだろうか?

 鏡がないから確認できないが、たぶん間違いない。


 だって、顔と耳が熱を発しているように熱いんだ。

 叶うことなら、氷属性の魔法で氷を出して首から上を冷やしたい。


 実際に行動に移したら師匠に怒られてしまいそうだが、そんな衝動に駆られる。

 

 お願い、誰か、マリーを止めて。

 無言で何者かに助けを求めていると、モイラちゃんが予期せぬ言葉を投げかけてマリーをフリーズさせてくれた。


「少しだけシェミファ先輩から聞いてました! そんな凄い方がマリー先輩のいい人(・・・)なんですね! わたし、羨ましいです! どうやったら、そんな凄い人を捕まえることができるんですか? 是非ご教授ください!!」


「えっ、いや、あのね……いい人っていうか、確かにソーヤさんは悪い人じゃないし、良い人なんだけど……わたし個人のいい人かっていうと、なんていうか、ほらっ、あのね、まだそんな関係じゃないっていうか、のちのちは、ほらっ、そうなれたらいいなーなんて考えていないわけじゃないけど、そういうのってやっぱり、男の人から言ってほしいなー、なんて思っていたりいなかったり……」


 やばい、マリーが壊れかけている。

 ロボットのようにカクカクと動きながら、首まで赤く染めて最後にはうつむいてしまった。

 それでも口だけは動きを止めず、「だってね」とか、「でもね」とか小声で呟き続けている。

 

 この様子だと、僕が隣にいることさえ忘れてしまっているのではないだろうか?

 だって、僕が聞いちゃっていいのかな?

 これって、ほぼ告白みたいなものじゃない?


 僕だって、嫌われてはいないと思ってはいたけどさ。

 ああ、ダメだ。

 僕まで照れくさくて恥ずかしくなってきた。


 この場は逃げるしかない。

 もしこの状況でシェミファさんに乱入でもされたら……もう想像するまでもなく面白おかしく引っ掻き回される光景しか浮かばない。


 マリーの為にもここは撤退だ。

 僕はもてるスキルを総動員して、そっとこの場を後にした。

 願わくば、モイラちゃんにきちんとマリーが口止めしてくれることを期待しつつ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ