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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
21/321

21.美容師~ギルドからの指名依頼を受ける

 

 ギルドのロビーには、見慣れない10歳前後の男の子が5人いた。

 珍しいのかこれが普通なのか、僕には判断がつかないが見るからに普段着で装備は何も無いように思える。

 

 街の中でお使いクエストみたいのものがあるのだろうか?

 男の子達は壁際に立ち、何故かキラキラした目でこちらを見つめて来る。

 

 ……なんだか悪い予感がする。

 回れ右をして立ち去ろうとすると、不意に腕を捕まれた。


「ソーヤ様、おおはようございます。どこに行かれるのですか?」


「ああ、おはよう。いや、ちょっとね……忘れ物をしてしまって」


「忘れ物ですか? よければギルドの物をお貸ししますけど?」


「忘れたのはギルドカードだから、貸してもらうわけにはいかないでしょ? だからちょっとひとっ走りして――」


「お探しの物はこれでしょうか?」


 マリーの手には、茶色のギルドカード。

 いつの間に……。

 ポケットを探るが手応えがない。

 

 一度、マリーのスキルを確認したほうがいいかもしれない。


「これで問題はありませんね。では、ギルマスがお待ちですので」


 両手で僕の腕を抱え、グイグイと体重をかけて引きずろうとする。


「待って待って、どうして僕がギルマスとやらに会わないといけないんだよ! もしかして……」


「えへへ」


 マリーの引きつった笑みで全て読めた。


「……わたしに任せてください」


 せめてもの嫌がらせに、昨夜の言葉を呟いてやった。


「ぐぅっ……」


 喉に何かが詰まったような声を出し、マリーは僕の後ろに回り込み、腰を両手で押して階段を上らせようとする。


「大丈夫ですよ、怖くないですよ! わたしが付いてますから!」


 呪文のように同じ言葉を繰り返す。

 この階段の先には不安しか感じない。

 

 人間、諦めも肝心か。

 振り払うわけにもいかないので、僕は大人しく階段を上ることにした。



 通された部屋には、想像通りの厳つい40代くらいの男がいた。

 肩までの髪は若干赤が混じった茶色で、捻って首の左側で纏められている。

 

 そんな男が顎鬚を撫でながら、椅子に座ったままで値踏みするような視線を向けてきた。


「さぁさぁ、ソーヤ様。こちらにお座りください。今、お茶を入れますから」


 そそくさと部屋の外に出ていこうとするので、


「お茶は結構です」


 告げて、男の対面のソファーに腰を下ろした。

 

 マリーは僕の横にチョコンとお尻を置き、


「こちらがソーヤ様です」


 僕を紹介した。


「ふーん、こいつがねぇ」


 男はニヤリと意地悪そうに笑い、


「噂のマリーのいい人ってわけかぐふっ」


 言ったとたんに、ぐふっと声を漏らしたのは、マリーが脇にあったクッションを男の顔目掛けて投げつけたからだ。


「ギルマス……速やかに用件をお話ください」


 何事もなかったかのように、マリーは澄まし顔。


「だってよぉ、みんな噂してるぜ。グラリスの所まで付いていって、武器と防具を一式揃えて、半値くらいまで値切ったり、毎日遅くまで残って、こいつの受ける依頼を探して必要な道具を準備したり、それで昨日は俺の所にこいつの利益が減らないように直談判しにきたり、相当入れ込んでるんだろ? まだあるぜ――」


「ゴルダさんっ!」


 顔どころか、耳まで真っ赤なマリーが一瞬で移動し男の口を両手で押さえると、そのまま二人して倒れ込んでいった。


 そんなことまでしてくれていたのか。

 なんて声をかければいいんだよ……。

 

 無言で立ち上がったマリーが、恥ずかしそうに頬を染めながら戻って来てソファーに座りなおした。


「いてて、職場ではゴルダさんはやめろって、いつも言ってるだろ」


 床でぶつけたのか、後頭部を痛そうにさすりながら男がぼやく。


「だって……ギルマスが余計なことをペラペラとしゃべるから。ギルマスがいけないんですよ!」


 ツンと顔を背けるが、髪の毛から覗く耳はまだ赤い。


「まったくよぉ、お前は加減ってもんを知らねーから困るんだよ」


「そんなことありません。全部ギルマスが悪いんです!」


 べーと真っ赤な舌を出し、


「これ以上余計なことを言ったら、リサさんにあのこと言い付けますからね」


「お前っ、それはやめろよな。卑怯だぞ!」


「なんというか……二人は仲がいいみたいで」


 このままでは会話が終わりそうにないので、口を挟むことにした。


「ああ、こいつとはオシメの世話をしてやった仲だからな」


「ギルマスっ!」


「なんだよ、本当のことだからいいだろ、別に」


「……絶対、バラシテヤル」


 ふっふっふ、と隣から黒い笑いが聴こえたが僕には関係ないので無視を貫いた。

 もちろん、横は見れないよ。


「言うなよな! 絶対言うなよな!」


 必死になって止めているが、もはやフリにしか聞こえない。

 

 よくわからないけれど、いつになったら話が進むのだろうか。

 思わずため息をつくと、


「ギルマスと父が古い友人で、子供の頃から知っているだけの関係ですから。それだけですから」


「そうそう、あいつが仕事で街を離れている間、こいつが一人だと心配だって騒ぐからギルドで働いていれば安心ってな」


「そうですか。ところで、僕がここに呼ばれた理由をそろそろお聞きしても?」


「そうだった、改めて。俺がこの街の冒険者ギルドのマスターをしているゴルダだ。よろしくな」


「ソーヤ・オリガミです。ちなみに貴族ではありませんので」


「ああ、聞いてる。で、だ。昨日こいつから聞いたんだけどよ。お前ってキノコ取りの名人なんだって?」


 ゆっくりと隣に顔を向けると、同じスピードで顔を反らされた。


 いくら待っても、マリーの視線が戻って来ないので、諦めてゴルダさんに向き直る。


「はっきり言わせてもらいますが、違います」


 声を大にして叫んでもいい。


「でもよぉ、お前だろ? ノインを3日連続で採取してきたのって」


「それは、そうですね」


「おまけに昨日は12本だろ?」


「……そうですね」


「よっ、キノコ採り名人っ!」


 ゴルダさんはずいぶんといい性格のようだ。

 リサさんとやらに何か秘密をバラス時は、ぜひ同席させてもらいたい。


「で、それが何か?」


 こうなったら、気にしたほうが負けだ。

 数人から呼ばれる位なら、まだ称号なんてつかないだろう。

 もっと楽観的に考えるんだ。


「お、認めたな。それなら話は早い。下のロビーにガキが5人いただろ?  

 あいつらを連れて、ノインを取ってきてくれや。ギルドからの指名依頼とさせてもらいたい」


「それはまた……理由を聞いても?」


「理由ねぇ。あいつらの家は結構貧しくてよ。全員父親がいねーんだよ。

 母親が一生懸命働いてなんとか食ってはいけてるんだがな。たまには母親に贈り物をしたいらしくて、自分達にもできる依頼はないかって、何度か頼み込まれてな。

 そこでお前さんの話だ。森の入口付近で猪の後を付いて回るだけだったら、そんなに危険もないだろうし、一人1本でも見つけてやれれば十分何かしら買えるだろう。

 どうだ、助けると思って受けてはもらえんか? 

 もちろん依頼だから報酬はギルドから出すし、キノコの秘密もしばらくは公表しない。ついでに依頼達成したらランクもFに上げてやる」


「わたしからもお願いします。一度でいいんです。あの子達、みんな優しくていい子なんですよ」


 両手を合わせて懇願された。

 まぁ、マリーにお願いされたら断れないよね。


「わかりました。いいですよ。そのかわり、今回限りの約束でいいですか?」


「おお、もちろんだ。助かるぜ」


「さすがソーヤ様です」


 二人がここぞとばかりに褒め称えてくる。

 ただし、いい気になってはいられない。

 言うべきことは言っておこう。


「依頼を受ける変わりに条件があります」


「なんだ? 言ってみろ」


「森の入口は危険がないと言いましたが、子供を5人も連れていくのだから、誰か腕の立つ大人をつけてください。いざという時、僕一人では守りきる自信がありません」


「そうだな、確かに。わかった、職員のキンバリーを連れていけ。

 元Cランク冒険者だから、この辺りの魔物くらいならあいつ一人で十分だ。マリー、下にいるだろうから、俺からの指示だと伝えてこい」


「はい、わかりました」


「あとは何かあるか?」


「あとは……」


 部屋を出ていこうとするマリーに目を向け、


「マリーが、僕のことをソーヤ様と呼ぶのをやめてくれれば」


「どういうことだ?」


「ソーヤ様より、ソーヤさんの方が、呼ばれて嬉しいんですよね。様だと他人行儀すぎるというか」


「わかりました、ソーヤさんっ!」


 満面の笑みで僕の名前を呼び、マリーは恥ずかしそうに部屋の外に駆けて行った。


「もうおまえらさぁ、甘ったるいよ、ほんと……おじさんの歳も考えてくれ」





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