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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
205/321

205.閑話 ケネス~ソーヤと模擬戦を行う①


 いよいよ今日は約束の模擬戦の日だ。

 マリーと約束した10日という期間は本当に長い時間だった。


 どうしてせめて半分の5日にしなかったのかと自らを何度も責めはしたが、武器と防具がないのでは仕方がない。

 

 実は1度、グラリスの元を訪れて、武器と防具の作成を早めろと言いはしたのだが、それに対しては無理だと冷たく言われてしまった。


 しかも、『楽しみを待つ時間も楽しむべきだ』なんてよくわからない格言を与えられて、それもそうだと納得してしまったものだから、その後は催促にいけなかったりした。 


 仕方がないので、毎日魔物を狩ることで時間を潰した。

 ランドールやカシムを護衛に引き連れて、朝から夜まで魔物を倒しまくった。

 

 さすがに連日は疲れると二人が言うので2日置きに休みは取ったが、一人でニムル平原に出かけ、魔法の特訓に時間を費やした。


『そんなに暇なら、一人で依頼でも受けてこい』

 

 カシムにはそう言われたが、そんなことは無理だ。

 だってわたしの頭の中は、彼のことでいっぱいなのだから。


 依頼の為に裂く思考は微塵もない。

 他に考えられるのは、効率のいい魔法の撃ち方くらいだ。


 だから魔物を倒すのはいい。

 レベルが上がれば、模擬戦の時に使用できる魔力量も増えるし、発動や制御にも影響する。

 

 できることはしておくべきだ。

 なんせ、全てを投げうって得た、1度きりの模擬戦なのだから。



 昨夜はあまり眠れなかった。

 興奮のせいもあるのだろう。


 初手をどうするか、そればかり考えていて、結局先手は相手に譲ることにきめた。

 それが終われば次は、彼の使う魔法を頭の中で並べ立てて、それに対する自分が使うべき魔法を考える。


 納得がいかなくて、また彼の使う魔法を想像する。

 そんなことをくり返していたら、知らないうちに夜が明けていた。


 一睡もしないのはまずい。

 せっかくの模擬戦なのに、寝不足では十全に頭が働かない。

 わたしは慌てて思考を閉ざし、目を硬く閉じて眠りについた。



 目が覚めた瞬間に飛び起きた。

 たぶん2刻程の睡眠だったようだが、頭はスッキリとしているし眼覚めは悪くない。

 顔を洗って着替え、軽く朝食を取り、まだ約束より早いが家を出ることにした。


 ニムル平原の一角。

 わたしはそこに立ち、彼を待っている。


 ランドールやシド達は、勝手に酒盛りを始めていた。

 わたしにも参加を仄めかすように声をかけてきたが、もちろん断った。


 何を考えているのだろう。

 これから大事な模擬戦があるというのに、わたしが酒を飲むとでも思っているのだろうか。


 いや、ランドールやシドであれば、景気づけの一杯、とか言って酒をひっかけてから模擬戦に臨むのかもしれない。

 それが想像できてしまい、一人苦笑していると、マリーを伴ってソーヤ君が現れた。


 つい軽口を叩いてしまったわたしに、マリーが噛みつくように言い返してきた。

 彼女にはずいぶん嫌われてしまったものだ。

 ソーヤ君は困ったように微笑み、わたし達を眺めているだけだった。


 まだ時間には早いが模擬戦を始めようと合意できたので、握手をしてお互いの健闘を祈る。

 すると、真新しい防具を身にまとう彼の腰にあるべきものがないことに気がついた。


 剣を得意とするはずの彼が剣を身に着けていないのだ。

 もしや間に合わなかったのかと思い、後日にずらすことを提案した。


 本当に、本当に嫌ではあるのだが、万全の彼と戦いたいのだ。

 頭の中だけでグラリスのことを罵りながらも、表情には出さないように努めていたのだが、その必要はないと言われた。

 剣を持ってきていないのは意図的なことだと。


 改めて言われるまで忘れていた。

 彼の職業が魔法使い(・・・・)だということに。


 わたしと同じく魔法を操ることを得意とする職業だ。

 彼はわたしにこう言った。


『剣は必要ないでしょう。純粋な魔法の勝負をあなたに望みます』


 わたしは嬉しくて、にんまりと笑みを浮かべていたことだろう。

 格下の職業である『魔法使い』の彼が『魔導師』であるわたしに魔法のみで戦うと言い切ったのだ。


 それには余程の自信があるのだろう。

 いったい、どんな魔法をわたしに見せてくれるのだろうか。

 どんな戦い方をしてくるのだろうか。


 知りたい。

 知りたい。

 知りたい。

 もう待ちきれない。


 すぐに模擬戦を始めることにしましょう。

 わたしは彼に背を向けて、距離を取るために歩んだ。



 さて、お手並み拝見といきますか。

 わたしは杖を右手に構えて、彼の動きを待つ。


 彼もそれに気が付いたのか、魔言を紡いで魔法を発動した。

 わたしも身構えてはいたが、どうやら攻撃魔法ではなさそうだ。


 彼の周りに水の球が浮かぶ。

 あれを飛ばしてくるのかな?


 変わった魔法の使い方をする。

 そう思い、動きを見守っていると、水の球から5つの礫が飛んできた。


『アクアバレット』の同時発動!?

 驚かされはしたが、わたしをなめてもらっては困る。

 すぐさま魔言を紡ぎ、『フレイムバレット』を5つ発動し迎撃する。


 確かに一番簡単な魔法ではあるが、5つの同時発動は難しい部類に入る。

 2つ、3つであれば出来る者は多いだろう。


 トイトット君辺りも、3つまでは可能だと思う。

 けれど5つとなるとどうだろう。


 彼ならば『フレイムウォール』で対応するかな。

 ここにはいない魔法使いのことを考えつつも、目の前の彼から目を離すことはしない。

 一挙手一投足を見逃すまいと目に力を籠める。




お読みいただきありがとうございます。


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