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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
201/321

201.美容師~回復魔法が存在しないと知る

 

 お昼ご飯になるまでの数時間、みっちりと修行に励んで秘密の特訓場から師匠の部屋に戻る。

 チビはソファーの上で丸くなったまま、ぐっすりと眠っていた。


 一応、目が覚めたらわかるように、師匠が風属性の魔法を使うので大丈夫だと言われていたが、やはり心のどこかでは寂しくて鳴いているんじゃないかと心配だった。


「ほらごらん。ぐっすりと眠っているだろう。あんたは心配しすぎなんだよ。余計なことばかりに気を取られているから、あんな簡単な魔法も避けられないんだよ」


 厳しいお言葉を師匠に貰ってしまうが、チビのせいばかりとは言えなかったりする。

 なんせ、師匠の魔法の修行は厳しすぎるのだ。


 3日目くらいまでは僕が放つ魔法に対してあれこれと助言のようなものをくれていたのだが、4日目からは模擬戦の練習ということで、師匠と相対して魔法の撃ち合いのようなことをしている。


 おかげで僕は何発も師匠の魔法を食らい、服の下は青アザだらけだったりするのだ。

 もちろん手加減はしてくれているので、血を流すことや骨が折れたりなんてことはないので、ただただ痛いだけ。


 一度、あまりにも痛みが引かないので回復の魔法をかけてほしいと頼んでみたのだが、それに対する答えにはかなり僕を驚かせた。


『わたしの弟子は本当に無知だねぇ。

 回復の魔法? そんなもの、ありはしないよ!

 そんなに痛いなら、リンダに言って、売り物の初級回復薬でも貰ってきな!』


 まさか、ファンタジーの世界ににつきものの『回復魔法』が無いなんて思ってもみなかったのだ。

 だとしたら、昨夜師匠が出かけていなかったとしても、チビを魔法で回復させてもらうのは無理だったわけで、とんだ無駄足だったということだ。




 リンダさんに用意してもらったお昼ご飯というか、パンとスープを食べながら、師匠から『あとで詳しく説明してやる』と言われていた回復魔法について話す。


「なら、本当に回復魔法はないのですか?」


「あんたもしつこいねぇ。そんなもんはないったらないよ。

 逆にわたしが聞きたいくらいだね。あんたのあると思い込んでいた根拠はなんなんだい? もしかしてどこかで見たことがあるとか、話を聞いたことがあるのかい?」


 えーと、ゲームや漫画、あとはもっさんに聞いた話が根拠です。

 なんてことは言えないので、ただ単純にあると思っていただけ、と誤魔化しておく。


「いいかい? せっかくだから魔法についておさらいしておくよ。

 何度も言うけど、魔法はイメージすることが大事なんだ。文字通り、火属性の魔法は火だし、水属性は水だし、地属性は土や石だし、風属性は目に見えない風だろ?

 さて、ソーヤ、あんたは火や水や地や風を使って、どうやって怪我を治すんだい?」


 どうやって? と聞かれたら、それはやっぱりファンタジー的なキラキラと光る感じで、とか。


「火や地は無理でも、水や風ならなんとかなりませんかね?」


「なんとかって、どうやってなんとかするんだい?」


「それは……ほら、『癒しの水よ』とか『癒しの風よ』とか?」


「あんたは水を飲んだり風にあたると怪我が治るのかい?」


「治りませんけど」


「だろう? 自分で言ってておかしいことぐらいわかるだろうに」


 呆れたように師匠にため息をつかれてしまった。


「なら師匠、どうして回復薬で傷が治るんですか?」


「それは傷が治る薬草や他の素材を元に錬成されているからだろうさ」


 錬成か、それは魔法とはどう違うのだろう。


「錬成は魔法とは違うのですか?」


「錬成は錬成だろうに。魔法は魔法だよ。全然別さね」


 やばい、なんか話がまったくかみ合っていない。

 こんな時はマリー先生がいてくれると助かるのだが。


「なら師匠。回復薬は液体。つまり水じゃないですか。水属性の魔法で回復薬と同じ効果の水を生み出せば、回復魔法ということになりませんか?」


「それができればなるかもしれないが、ソーヤ、あんたはそれをできるのかい?」


「そこはやっぱり『蒼の魔導士』でもある師匠が」


「わたしには無理だよ」


「……無理ですかね?」


「できるのならやってみればいいさ。できたらわたしにも教えておくれ。期待して待ってるよ」


 全然期待なんてしていなそうな声のトーンで言われてしまった。

 かわいそうな子を見るような目で、苦笑いを浮かべながら。


 それからしばらくゲームや小説、もっさんから聞いたうろ覚えの知識で回復魔法を作成できないかと話し合ってはみたのだが、師匠からの返答は『できないものはできない』、もしくは『できると思うのならソーヤがやってみな』の冷たいお言葉だけだった。


 魔法はイメージが大事だと自分で言ったくせに……。

 でも師匠には魔法で傷や怪我が治るイメージ自体ができないのだろう。


 そう思えば、できないと言い切るのも無理はないかも。

 納得できたので、話はそこまでとなった。


 ただ、僕としては諦めきれなくもあるので、個人の目標として研究をしてみることにした。

 リリエンデール様に聞いてみたら、『あるわよ』と簡単に言われるかもしれないし、ないとしても、そのヒントくらいはあるかもしれないし。




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