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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
199/321

199.美容師~黒い子を連れて帰る

 

「どうやら落ち着いたみたいね。マリーが必死の形相で駆けずり回っていたから遠慮していたのだけど、そろそろ説明してもらえるかしら」


 苦笑交じりに歩み寄ってきたシェミファさんが、僕の膝の上で丸まって眠る黒を見て、なんとはなしに呟いた。


「あら、獅子(しし)の子供なんて珍しいものを捕まえてきたのね。

 でも、誰かさんみたいに真っ黒だわ。もしかしてソーヤさんの子供なんてわけじゃないわよね」


 本人は場を和ます為の冗談のつもりなのだろうが、僕とマリーはそれには一切反応せず、別の単語に食いつくことに。


 獅子?

 ライオンのことか?


「シェミファさん、この子のこと知っているんですか?」


「シェミファさん、獅子ってライオンのことですか?」


 マリーと僕が同時に声をかける。

 それに戸惑うシェミファさんだが、マリーと僕に向けて順番に答えを返してくれた。


「知らなわいよ。ただ、そのフサフサした顔の周りの毛が獅子に似ているなぁと思っただけよ。

 ソーヤさん、獅子というのは普通種の獅子のことよ。あと、ライオンというのはよくわからないわ。

 昔よくニムルの森のそばの平原で見られたんだけど、そういえば最近は目にしないわね。マリーは見たことないかしら?」


「わたしは獅子という動物は見たことありませんね。そもそも普通種の動物と出会うこと自体がレアなケースなんですから。

 ソーヤさんが最近仲良くしている普通種の狼ですら、わたしは1度か2度、それもかなりの距離をあけて遭遇したくらいですし」


「あら、そうなの。わたしは結構見たことあるわよ。とは言っても、よく見たのは冒険者ギルドの職員になる前の冒険者時代のことだけど」


 会話の端から新たな情報が手に入った。

 ギルマスやキンバリーさんと同じく、シェミファさんも元冒険者だということか。


「獅子ですか……獅子……獅子」


 呟きながら、マリーが黒い子の顔を凝視している。

 そして、


「あっ!?」


 何かを思い出したかのように声をあげ、ドアの外に飛び出していった。

 それを見送る僕とシェミファさんは、顔を見合わせて首を傾げ合う。


 

 ダダダダッと足音を響かせて戻ってきたマリーの手には、いつも僕がお世話になっている魔物辞典。

 もしや、この子の正体は魔物だとでもいうのか。


 マリーは僕の不安を裏付けるかのように、椅子に腰を下ろして膝の上で辞典を広げパラパラと捲っていき、目当てのページを見つけたのかその手を止めた。

 そしてそのまま、食い入るように文字を目で追っていく。


「もしかしてこの子、魔物の子供なの?」


 僕のかわりにシェミファさんが尋ねてくれたのだが、マリーはそれに答えることなく、開いたページを僕とシェミファさんに向けてかざしてきた。

 

 最初に目に飛び込んできたのは、そこに描かれているマリーの手書きのイラスト。

 茶色と黄色の毛並みを持ち、四足で豹によく似た生き物。


 名前は『エルダーキャット』

 体長は2~3メートル。

 鋭い爪と牙を持つ、赤い目をした魔物。


 僕には猫をそのまま大きくして、狂暴化させたように見える。

 確かに、その顔は豹に似ているように感じるし、この黒い子にも面影はあるような気がする。


 けれど、辞典に描かれているイラストの顔の周りには、この子の特徴でもある長い毛がない。

 しかも、毛の色は茶色で黒くはない。


 似ている、けれど似ていない。

 僕の言いたいことを感じ取ったのか、マリーが言い訳をするかのように先に口を開いた。


「何かに似ているとは思っていたんです。

 ただ、目の色が違いますし、体毛の色も違います。それに顔の周りの毛ですか? それもありません。だから、すぐに『エルダーキャット』のことを思い出せませんでした」


「エルダーキャットね。確かに似ていなくはないわね。でも、そっくりとは言い難いわ。

 やっぱり、この顔の周りの毛が印象強すぎるのね。わたしには獅子のように見えるもの」


 エルダーキャットに似ているというマリーの意見を真っ向から否定するシェミファさん。


「なら、この子は獅子の子供ということですか?」


「んー、それも微妙なのよね。

 というのも、獅子の子供は顔の周りに毛はないはずなの。大人になるにつれ毛が増えてきて、こんな感じになるのよ、たしか。

 だから、この状態のおチビちゃんが獅子の子供かと聞かれると、そうだと答えるのは難しいわね」


 シェミファさんも自分の意見に自信はないみたい。

 結局、この子の正体は不明のままだ。


 けれど魔物ではなさそうだ、という2人共通の言葉を貰えただけで今はよしとしよう。

 その後、マリーからミルクの余りを受け取り、なんだかんだで僕が宿に連れて帰ることになった。




 とりあえず、名前を付けてしまうと愛着が沸くような気がして、シェミファさんの呼んでいた『チビ』という言葉を仮の名前代わりにすることにした。

 

 昨夜、チビは冒険者ギルドでミルクを飲んだまま眠り続けていたので、枕元で一緒に眠ったのだが、朝になると毛布の中にもぐりこみ、僕のお腹の辺りで丸くなっていたので潰してしまわなかったことに安堵したりした。





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